医学界新聞

2017.04.03



Medical Library 書評・新刊案内


JRC蘇生ガイドライン2015

一般社団法人 日本蘇生協議会 監修

《評 者》Vinay Nadkarni(ILCOR前委員長,ペンシルバニア大教授)

日本の蘇生現場のニーズに応えるガイドライン

 The new JRC resuscitation guidelines 2015 have been successfully published under the leadership of Dr. Hiroshi Nonogi. Through the CoSTR 2015 development process, GRADE system was adopted for the first time. In this GRADE system, a global aspect of evidence was evaluated for each PICO question. Furthermore, JRC guideline committee evaluated each CoSTR 2010 recommendation which was not included in CoSTR 2015, and updated the recommendation as necessary. As a result, the JRC resuscitation guidelines effectively meet the clinical and educational needs at any level in Japan.

 It is notable that many studies from Japan were referenced as evidence in CoSTR 2015. This clearly demonstrates the advance in resuscitation science in Japan over the last decade. I expect high quality resuscitation evidence based on prospective interventional trials will be developed in Japan by strong leadership using robust research infrastructure, which will further contribute to CoSTR 2020 development.

 日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン2015の冊子版が野々木宏氏(日本蘇生協議会代表理事)のリーダーシップの下で発行された。このガイドラインの特記すべき点としては,GRADEを用いて,アウトカムごとに複数の研究を吟味し総合的なエビデンスを評価するという方法が初めて取られたことがある。さらに,CoSTR 2015(心肺蘇生に関わる科学的根拠と治療勧告コンセンサス2015)で取り上げられていないトピックについても,JRC蘇生ガイドライン2015作成委員会で独自に検索し,ガイドライン2010の推奨内容を吟味,必要があれば更新している。その結果,日本の蘇生現場のニーズに応えることのできるガイドラインが作成されている。

 CoSTR 2015の作成の際に日本発の臨床研究結果が多く参照されている点が,この10年間の日本においての蘇生研究の進歩を物語っている。一方,日本において,今後より質の高い前方介入試験がこれまでに構築されたインフラストラクチャーの上に行われ,CoSTR 2020にはさらに蘇生エビデンスの蓄積に貢献することを希望している。

〔翻訳:西崎 彰(フィラデルフィア小児病院麻酔,集中治療科)〕

A4・頁592 定価:本体4,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02508-9


肝胆膵高難度外科手術 第2版

日本肝胆膵外科学会高度技能専門医制度委員会 編

《評 者》橋爪 誠(九大大学院教授・先端医療医学)

専門医をめざす医師,指導医,修練施設に必須の書

 本書は,日本肝胆膵外科学会高度技能専門医制度委員会編集によるプロフェッショナル育成のための書です。肝胆膵外科の高度技能専門医をめざす医師はもちろんのこと,指導医や修練施設には必須の書です。本書は,肝胆膵外科領域のわが国を代表するリーダーらによって執筆されており,「安全かつ確実に高難度の肝胆膵外科手術を行い得る外科医を育てること」を目的としています。著者らは,単に世界最高の技術認定制度をつくっただけでなく,専門医をめざす外科医にエビデンスに基づいた世界最新の知識と技術を修得してもらうために本書をつくり,その随所で理解度を高めるための工夫が凝らしてあります。

 まず,手術に臨むに当たり,術者は術前にイメージトレーニングをして,対象臓器の血管支配など,標的部位の立体構築が目に浮かぶくらい周到に準備することが必要です。本書では,「I.外科解剖」に多くのページが割かれており,対象臓器の立体的把握を大いに支援してくれます。「II.基本手技」においても多くのシェーマを使って手術手技が解説されており,順を追って術野が展開し,目前に出てくる血管や組織の解剖学的名称が詳細に記載してあるので,理解しやすいこと間違いなしです。各テーマの最初にある「重要ポイント」や最後の「Dos & Don’ts」では,世界最高レベルのリーダーならではの,最も注意すべきポイントが端的に記されており,知っておくと便利です。

 また肝胆膵外科における最新の腹腔鏡下外科手術手技やロボット支援による腹腔鏡下手術操作に対する考え方,付録の倫理的側面での留意点は,専門医としてぜひ知っておかねばならないことです。皆さまには術者の心得として最初に読まれることをお勧めします。

 さらに「コラム」には,高度技能専門医申請に関する体験談が掲載されており,実際に審査を受けた先輩の意見はとても参考になります。入局時に,厳しく指導された手術記録の書き方が,自分自身の修練と手術手技のマスターに大いに役立ったことを考えると,自分の手術をビデオ収録し,術後にビデオを見返しながら再度本書でチェックすると,手術の反省ができるとともに,皆さまのさらなる手術技術の向上に必ずや役立つものと思います。

 本書は,自分の腕を磨き,一人でも多くの患者さんによい医療を届けたいと願っている外科医の皆さまにぜひお薦めしたい書です。

B5・頁368 定価:本体10,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02792-2


《眼科臨床エキスパート》
網膜変性疾患診療のすべて

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信 シリーズ編集
村上 晶,吉村 長久 編

《評 者》大路 正人(滋賀医大教授・眼科学)

事典としても有用な網膜変性診療に必須の一冊

 《眼科臨床エキスパート》シリーズの最新刊として『網膜変性疾患診療のすべて』が刊行された。本シリーズは,眼科診療の現場で知識・情報の更新が必要とされているテーマについて,その道のエキスパートが自らの経験・哲学とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」をわかりやすく解説し,明日からすぐに臨床に役立てるという編集方針であるが,この編集方針に沿った素晴らしい本が出版された。

 まず驚かされることは,著者のリストである。本当に研究の第一線で活躍されている研究者が執筆されている。第一人者による執筆により,難しい内容をたくさんの図を用いて比較的平易に解説されているので,一般の眼科医にも理解しやすい記述となっている。一方で,「Topics」をはじめとした項目では,網膜硝子体が専門の自身にとっても初めて目にする内容が少なくなく,広い範囲の読者を対象とする一方,最近の知見を深く知りたい読者にも大変有用な本となっている。

 網膜変性疾患というと,類似した臨床所見を呈する多数の疾患が含まれ,診断が難しく,さらには治療がほとんどないという現状において,何となく取っつきにくく,できれば避けたいという方も少なくないと思われる。本書のテーマに含まれる疾患が多岐にわたり,かつ最近の診断の進歩が著しいことより,本書は400ページ近い大著となっているが,第1章「網膜変性疾患の診療総論」は網膜変性の概要がわかる素晴らしい総説であり,この総説を読むためだけでも本書の意義はある。

 もちろんそれに続く総論では,網膜の解剖と生理,網膜変性発症のメカニズム,診断検査(ERG,OCT,自発蛍光,遺伝学的検査)と最新の情報が満載されている。治療においては一部の疾患で成功しつつある遺伝子治療,再生医療,人工網膜と最新の知見を惜しみなく紹介するだけではなく,現状での診療において必須の項目であるロービジョンケアや遺伝カウンセリングまで非常に丁寧に,かつ具体的に書かれている。

 先に記した総説は20ページ足らずの少ないボリュームではあるが,これを読むだけでも網膜変性の概要が理解でき,十分な意義がある。さらに,詳しく知りたい時には事典としても役立つ構成であり,網膜変性の診療において必須の本であり,日常診療を大きく助けてくれる。網膜変性疾患の診療に少しでも不安のある先生には必読の書であり,外来に常備しておくことを強く勧めたい。

B5・頁408 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02801-1


終末期の苦痛がなくならない時,何が選択できるのか?
苦痛緩和のための鎮静〔セデーション〕

森田 達也 著

《評 者》新城 拓也(しんじょう医院院長)

個人の信念を超えて,鎮静を巡る議論をするために

 本書が出版されるとほぼ同時に,雑誌『文藝春秋』では「安楽死は是か非か」というタイトルで特集が組まれた。90歳となった脚本家の橋田壽賀子が,「私は安楽死で逝きたい」と真情を吐露し,せめて死ぬ選択は自分でしたいと考えを述べている。また同時に企画されたアンケートでは,日本の知識人の過半数は安楽死に賛成していた。その理由として,苦痛からの解放,当人の尊厳のためという意見があった。

 医療を今まさに受けている市民にも,尊厳死,安楽死という言葉は浸透し,議論の萌芽は週刊誌でも日常的に見つけることができるようになった。そして,「眠ったまま最期を迎える鎮静」も市民が知るようになった。

 本書は,苦痛緩和のための鎮静について,研究の歴史をたどりながら,現在の状況について述べられている。鎮静は,タイトルの通り,終末期の苦痛がなくならない時に最後の苦痛緩和の手段として行われている。国内では,がん患者の苦痛に対して行われており,日本緩和医療学会からガイドラインも発表されている。著者は多くの研究の知見を紹介するとともに,現時点で何が言えるのかについてぎりぎりの地点まで読者を連れて行こうと試みている。

 冒頭で,「これは通常の治療なのか? 鎮静なのか? 安楽死なのか?」と事例を示して現場の「もやもや」について紹介している。一般市民,緩和医療を専門としない多くの医療者には,鎮静は,安楽死と何が異なるかよくわからない。安楽死も鎮静も苦痛からの解放を目的としている以上,どちらも同じようなものなのではないか,鎮静は安楽死の代替行為ではないのかと心のどこかで思っているのだ。

 しかし,緩和医療の専門家は,安楽死と苦痛緩和のための鎮静は,全く異なると認識している。いや,全く異なると考えたいと思っている。国内で行われた大規模な研究でも,鎮静は生命予後を短縮していないことがわかった。しかし,鎮静薬の投与方法,量が適切で緩和医療の経験が十分な医師が実施すれば,という前提である。

 冒頭の「もやもや」の正体とは,鎮静を巡る議論の言葉を持ち合わせていない医療者が抱える,無知の証ともいえるのだ。著者は,患者の予測される予後,苦痛の強さ,治療抵抗性の確実さ,患者・家族の希望や価値観の4つの言葉を補助線として,鎮静という複雑な問題を整理する現実的な提案をしている。まだ国内では,鎮静をするべきだ,しないべきだという医療者同士の根本的な対立が続いている。しかし医療者の信念の対立を乗り越えるための議論を著者は望んでいるのだ。

 私の知る著者は「本当に患者さんのためになる研究をしなくてはならない」と,常に医師としての姿勢がぶれることがない。医療者が観念的な議論をしている間にも,現実に患者は苦しみ続けている。「もやもや」している時間はそれほどないのだ。

B5・頁192 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02831-8

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