医学界新聞

2017.03.20



Medical Library 書評・新刊案内


一歩先のCOPDケア
さあ始めよう,患者のための集学的アプローチ

河内 文雄,巽 浩一郎,長谷川 智子 編

《評 者》千住 秀明(結核予防会複十字病院 呼吸ケアリハビリセンター付部長)

呼吸ケア・リハ関係者が膝を打つこれからの医療者のための名著

 本書は,医師,看護師,理学療法士などCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の医療とケアにかかわる人々のために2016年10月に上梓された入門書であり,専門書でもある。その特徴は,執筆者のラインナップが,医師だけをとっても現場の第一線で活躍されるクリニック院長(河内文雄先生)から,大学病院での専門研究に携わる教授(巽浩一郎先生)までが協働されて,多方面からの「集学的なCOPDケア」を語られている点にある。特に,編者の一人河内先生は,その日常診療の中から溢れる患者への思いをも実地の診療録を通して記載されており,医療者としてケア・キュアがどうあるべきか,その哲学を語られていることに評者は感銘を受けた。医師だけにとどまるものではない。施設・地域の看護師や理学療法士,これから臨床現場へ向かう学生たちのため,単なる知識だけではなく,医療人としてのアイデンティティーを養うための参考書としても有用である。その理由は多様な著者たちがそれぞれの職種からの視点ではなく,あくまで患者の視点からの呼吸ケアを語られていることにある。

 こうした本書の特徴は,章立てを見てもよく理解できる。「第I章 呼吸サポートチームで共有するCOPDのおさらい」「第II章 看護でここまで支援できる」「第III章 外来で――通院治療そこが知りたい」「第IV章 地域で――在宅ケアそこが知りたい」「第V章 病院で――入院治療でそこが知りたい」「第VI章 みんなで支える総合ケア・リハのしかけ」で構成されている。特に,看護師としてCOPD患者のために,「看護でここまでできること」と同僚のナースたちへの強いメッセージを込めて記載している編者(長谷川智子先生)の姿勢も印象的であった。

 各章の中では,日常臨床でよく見られる事例を数多く取り上げており,多くの点で読者が共感することができるだろう。「すべてのCOPD患者さんに(中略)アスリートを支えるコーチ陣のように,励まし,支え,寄り添って」(p.200)。これこそ,呼吸ケアやリハビリテーションにかかわる全ての者に,チーム医療者として共通する視点であり,日常臨床にかかわっている医療関係者は,本書を読み進むと思わず「その通り」と声を上げたくなると思う。また,「呼吸器疾患において積極的治療を行わないことは禁忌です。標準的な薬物療法や呼吸リハ,在宅酸素療法やNPPV,急性増悪の予防といった疾患管理そのものが,呼吸苦の症状緩和やQOLに関係します」(p.195)との記載には,呼吸ケアにかかわる医療関係者への強いメッセージが込められている。

 一方,随所に記載された「コラム」は,ややもすると難解で堅苦しい専門書を,物語のように読者を夢中にさせる効果がある。本書を読み,著者はまだ面識がない前述の河内先生――「町医者」としてまい進されるため,開業の際に一切の学会活動から離脱されて,在野で過ごされてきたご経歴だと伺った――に会ってみたいと思わせられたほどインパクトの強い書である。単なるCOPDのガイドブックではない。医療人として,診療とはどうあるべきかを読み手に問いただす名著であり,これからの呼吸ケアや呼吸リハビリテーションを担う若い看護師,理学療法士,作業療法士や学生たちにぜひとも読んでいただきたい。

B5・頁240 定価:本体2,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02839-4


大腸癌診療ポケットガイド

がん・感染症センター都立駒込病院 大腸グループ 編
高橋 慶一,小泉 浩一 責任編集

《評 者》杉原 健一(東医歯大特任教授/光仁会第一病院院長)

レジデントだけでなく,経験を積んだ医師,看護師も手元に置いておくべき

 本書は大腸癌診療の経験が豊富な都立駒込病院の大腸外科の高橋慶一先生を中心とする大腸外科スタッフによって,消化器内科や腫瘍内科,放射線診療科,麻酔科,緩和ケア科,看護部と共に,大腸癌の診療に関連する全ての領域,つまり診断,治療ばかりではなく,大腸の解剖や大腸癌の発癌機序,疫学からストーマ管理や大腸癌手術後の生活まで解説しています。本当に大腸癌の診療に関する事項全てが網羅されています。

 本来これらの内容の本を作製するとなるとA4判で1000ページを超える分厚い書物となり,机に向かって腰を落ち着けて読む本となります。ところが本書はそれらの膨大な内容を,そのエッセンスの部分だけを簡潔にまとめ,箇条書きに,または図表として一瞬で理解できる体裁をとっています。しかも片手で持って読める大きさであり,白衣のポケットに入れて持ち運びができることから,日常診療の合間に時間ができたときに読むことができ,また,患者さんとの面談の際に,患者さんに本書に記載されている図を示しながら説明を進めることもできます。

 もう一つ医療者にとって便利な点は,データに具体的な数値が記載されていることから,数値に不安を覚えたときに参照することができ,データの出典が明記されているので,確認のために,そしてより深く理解するために出典に当たることができます。

 本書は大腸癌の患者さんを受け持つようになった研修医やレジデントばかりでなく,大腸癌の診療の経験を十分に持った先生方,さらには看護師さんたちも手元に置いておくべき書物だと思います。利用価値の高い本です。

B6変型・頁240 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02550-8


一目でわかるMRI超ベーシック

百島 祐貴,押尾 晃一 訳

《評 者》宮地 利明(金沢大教授・放射線技術学)

入門書としてだけでなく専門性を高めるためにも活用できる一冊

 本書に目を通すと,真っ先に「図を駆使した懇切丁寧な説明で,MRI全般の理解が極めて容易である」と感じるであろう。著者のキャサリン・ウェストブルック氏は,タイトルの「一目でわかるMRI」を実学書として実現させるために,端々に工夫を凝らしている。例えば,説明は可能な限り平易で数式はほとんど使わず,最大限にカラーの図や実際のMRIの画像を使用して直感的理解を最優先させている。さらに動画を詳細な解説付きでネット上で見ることが可能であり,この斬新な試みがMRIの理解をさらに助けている。それにもかかわらず,かなり掘り下げて説明しており,MRIの原理書や技術書としても成り立つほど骨太に出来上がっている。

 また,翻訳書の成否は訳者によって決まると言われるが,訳者の百島祐貴氏と押尾晃一氏は当代屈指の磁気共鳴医学者かつ医師である。臨床医学,基礎医学だけでなく理工学にも精通している二人が,原文を超えるレベルで見事に訳書として完成させている。

 ページをめくっていくと,磁気共鳴現象,緩和時間,画像再構成手順,画質,アーチファクト,MRA,機能画像,装置の構成,安全管理など,55項目に分けて順序立てて解説しており,MRI理解のための必要事項はほとんど網羅している。さらに付録として,画質の最適化法,パラメータの設定とその影響やアーチファクトの対策,略語一覧を載せている上に,発展事項,用語集,復習問題まで用意されていることは,うれしい限りである。

 本書は,医療系大学のMRIの教科書として,また放射線科医や診療放射線技師を始め,MRI検査を担当する医療スタッフの入門書として,間違いなく役に立つ。しかも単にそれだけの位置付けではなく,長年MRI検査に携わっている医療スタッフが,知識や理解が不足している箇所の再確認や,専門性をさらに高めるためにも活用できる一押しの良書である。

A4変型・頁152 定価:本体3,200円+税 MEDSi
http://www.medsi.co.jp/

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