世界の保健衛生向上に取り組むPMDAの国際戦略(佐藤淳子)
寄稿
2017.02.06
【寄稿】
世界の保健衛生向上に取り組む
PMDAの国際戦略
佐藤 淳子(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)国際協力室長)
国際調和の流れは,規制から人的協力へ
かつては,承認を取得しようとする国や地域ごとに,医薬品や医療機器の開発・製造が実施されてきた。しかし,近年は国や地域という枠を超え,国際的な開発・製造・流通が行われるようになってきている。
各国の規制当局は,優れた医薬品をより安全な形で,かつ,安心して使用できる環境を創出するために,まずは薬事規制の国際調和が重要だと考えた。その一つが,1990年に立ち上げられたICH(現・日米EU医薬品規制調和国際会議)で,現在までに80を超えるガイドラインを策定し,各国・地域において活用が進んでいる状況だ。その成果として,医薬品医療機器総合機構(PMDA)第1期・第2期中期計画(2004~13年度)においては医薬品や医療機器の審査ラグの解消に大きく貢献し,PMDAは欧米と並ぶ規制当局として国際的に高い評価を受けた。
しかしながら,日本国民の保健衛生や健康寿命のさらなる向上を図るには,規制の国際調和のみでは不十分で,各国・地域の規制当局,企業,アカデミアとの緊密な協力が不可欠となる。そこでPMDAは,第3期・第4期中期計画(2014~23年度)に取り組むべきこととして,日本国民と世界の保健衛生の向上を目的に,「PMDA国際戦略2015」を策定した。この国際戦略を構成する3つのビジョンに基づき,PMDAの現在・今後の取り組みについて簡潔にまとめる。
1.先駆的な取り組みによる世界への貢献
科学の進歩は目覚ましく,再生医療に代表されるように,これまで不治とされてきた疾患の治療に,新たに見いだされた技術を活用するケースが登場してきている。期待が高まる一方で,新技術には未知の部分も多い。したがって,その応用には慎重かつ適切な評価が重要であり,各国・地域の規制当局にはその対応が求められている。
PMDAは,国内では2012年に「科学委員会」を設置し,iPS細胞やAIを用いた医療イノベーションの推進,希少疾患におけるレギュラトリーサイエンス,アカデミアと医療現場との連携・コミュニケーション強化に関して提言している。さらに,2018年の「レギュラトリーサイエンスセンター」設置をめざして準備を進めており,診療録などのビッグデータから創出されるエビデンスによって,安全対策や医薬品開発へ貢献することを計画している。
国際的には,欧州の医薬品規制当局(EMA)や米国の食品医薬品規制当局(U.S. FDA)と密接な関係を築き,新規科学技術の医薬品・医療機器への応用に向けた一般的な議論に加え,守秘協定の下で,個別の医薬品・医療機器の開発や承認審査,安全対策等に関する意見交換も行っている。
2.他国・地域との共通の利益の最大化
医薬品・医療機器開発において国際化が浸透した今日,同一の試験成績が各国の規制当局にほぼ同時に提出される機会も増えてきた。医薬品や医療機器の承認申請時の資料については,書面による有効性や安全性の評価のみならず,きちんと製造管理されているか,資料が事実と齟齬なく作成されているか等について,各規制当局が製薬企業や医療機関に直接出向いて調査を行う。すなわち,1つの製造管理に対して,U.S. FDAが工場に立ち入り調査を実施し,基準への適合を確認したとしても,日本での承認のためにはPMDAが同じ工場に出向き,立ち入り調査をしなければならないのである。
そのため,U.S. FDAの調査結果をもって,PMDAにおいても基準適合と判断する...
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