がんのジェネラリスト 腫瘍内科医(勝俣範之,高野利実,佐々木宏治,上原悠治)
対談・座談会
2016.12.05
【座談会】がんのジェネラリスト 腫瘍内科医 | |
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がん患者が増加する中,近年ではがん薬物療法はその選択や治療・管理を専門とする「腫瘍内科医」が担うべきだと考えられるようになってきた。がん薬物療法は適応の拡大,種類の増加,作用・副作用の複雑化が進んでおり,腫瘍内科医の役割はますます重要になっていくと言えるだろう。
本紙第2659号(2005年11月21日発行)に掲載された座談会「内科医として,がん患者と向き合う――腫瘍内科医とは」が反響を呼んでから11年。この間,腫瘍内科の認知度は上がってきた。11年前の出席者に医学生を加えた4氏に,腫瘍内科医の現在の問題点と,今後どのような道を歩むべきかを語っていただいた。
高野 以前座談会を行った11年前は,腫瘍内科の知名度はまだ低いものでしたが,その後は社会的に追い風が吹いているように思います。がん薬物療法専門医の制度ができ,がん対策基本法やがんプロフェッショナル養成プラン(以下がんプロ)など,腫瘍内科医の育成を後押しする動きがありました。ただ,がん薬物療法専門医は1138人(2016年11月現在)とまだ少なく,病院の種類や地域による偏在なども指摘されています。日本における腫瘍内科の地平を切り開いたお一人である勝俣先生は現状をどのようにとらえていますか。
勝俣 がんプロの予算が付いたことで,各大学病院に腫瘍内科が急速に増えましたね。腫瘍内科の名前も十分に知られていなかったころと比較すると,今はかなり広まってきています。一方で,日本に必要な腫瘍内科医数は5000人という試算を考えると,改善してきたとはいえ,リソースは不足しています。教育プログラムの構築を含め課題は残っています。
佐々木 私も勝俣先生,高野先生とともに11年前の座談会に医学生として出席しました。私が医学部を卒業したのは翌2006年,日本で腫瘍内科が広まり始めたころでした。当時はほとんどの大学に腫瘍内科の講座がなく,本格的に腫瘍内科医をめざすために学生時代から渡米を志していました。現在大学4年生の上原さんから見て,腫瘍内科の医学生間での認知度はいかがですか。
上原 社会的な背景からもがんに関心を持つ医学生は増えており,腫瘍内科の存在はほとんどの医学生が知っています。しかし,私の所属大学では腫瘍内科学の講義は少なく,学生実習でのローテーションは1週間のみです。身近にロールモデルがいないため,別の道に進んでしまうこともあるようです。私自身,腫瘍内科に関心を持ってはいるものの,わからないことがたくさんあります。
腫瘍内科医になるには一般内科の力が必須
上原 まず,腫瘍内科医とはどのような医師なのでしょうか。
高野 腫瘍内科医はがんという病気と,それに向き合う患者さんを総合的に診る内科医です。
上原 具体的にどのような役割を果たすのでしょうか。
高野 役割は大きく分けて5つ(図)。1つ目はがん薬物療法の実施です。最先端のエビデンスをフォローし,リスクとベネフィットを慎重に判断して治療方針を決定します。そして,副作用を管理しながら治療を行っていきます。2つ目は,がん患者の全身管理。副作用のマネジメントや合併症のコントロールを行います。適切に全身管理をするためには内科全般の知識や技術が求められます。また,他の診療科やメディカルスタッフと適切に連携を取ることも必要になります。3つ目は緩和ケア。患者さんを支えるためには,がん薬物療法だけではなく緩和ケアの知識も必要です。そして4つ目が臨床研究。エビデンスの創出に貢献します。最後,5つ目は「がん医療のコーディネート」。これにはチーム医療の中でのかじ取り役と,治療方針に迷いがちながん患者の道案内役という2つの側面があります。
図 腫瘍内科医の役割 |
上原 がん医療の中で幅広く活躍するのですね。先生方はそうした役割を果たすために必要な能力をどのように身につけたのですか。研修を受けた病院を教えてください。
勝俣 私は最初,徳洲会病院で内科医としての研修を受け,その後国立がんセンター(現・国立がん研究センター)で研修を受けました。
高野 私はまず大学病院の内科で研修した後,がん薬物療法や緩和ケアに積極的に取り組んでいた放射線科に入局しました。そして5年目に国立がんセンター中央病院のレジデントとなり,腫瘍内科のトレーニングを受けました。
そのころ日本で腫瘍内科医の系統立った研修を受けるには,国立がんセンターのレジデントになるくらいしか方法がありませんでしたが,今は大学病院や一般病院で腫瘍内科医をめざす人も増えています。医学生や若手医師には,各病院の強みや弱点を理解し,自分のめざすビジョンに合わせた進路を選ぶことを勧めています。
佐々木 初期研修ではまず内科のジェネラルな研修を受けることを私はお勧めします。患者さんに何か症状が生じた際,がんそのものによる症状なのか,薬の副作用なのか,それともがんとは関係ないcommonな疾患なのかを見分けられなければ,きちんとした治療ができません。幅広い症状や疾患に対応できるようになるために,軽症重症を問わず多様な患者さんが受診する病院で初期研修を受けると良いと思います。
ジェネラルかスペシャルか
上原 腫瘍内科医として最終的には臓器別の専門を持つべきなのでしょうか。
勝俣 必ずしもその必要はないと思います。確かに日本では,臓器別の診療科で手術をするだけでなく,薬物療法も行われている状況がまだあります。現状では臓器別の専門を持つ腫瘍内科医も多い。
しかし同時に,それによる弊害があります。あるとき,腫瘍内科医がいるはずの病院の婦人科医から,セカンドオピニオンの依頼を受けたことがありました。先にそちらの腫瘍内科医にコンサルトしたほうが良いのではないかと提案したところ「当院では,婦人科の薬物療法は婦人科でやっています。腫瘍内科では診られません」と返答されました。臓器別の診療科だけで診ると副作用やまれながん,転移が見逃されたり,たらいまわしに遭ったりする可能性があるのです。腫瘍内科医には,1つの臓器の知識だけでなく,総合内科的な知識と経験値が必須だと思います。
上原 幅広い臓器のがんを診るのは大変そうですが,そもそもがんは全身への転移や症状がある疾患だと考えると,1つの臓器に絞らずあらゆるがんを診られる点は魅力ですね。
がん専門病院,大学病院,一般病院など,施設の特性によって腫瘍内科医としての働き方は異なるのでしょうか。
高野 病院のめざすところによって,位置付けが違ってきます。おおよその特徴をまとめると,表のようになります。
表 施設の特性と腫瘍内科の位置付け |
勝俣 私はジェネラルに診ることこそ本来的な意味での腫瘍内科医だと思っています。しかし,がん専門病院では腫瘍内科医がたくさんいるので,臓器別の診療科でスペシャリストとしての役割を果たしていますね。がん研究センターやMDアンダーソンの腫瘍内科医はそうした役割です。
高野 専門分野を極め世界のトップレベルで活躍したいのなら,がん専門病院や大学病院で専門分化した道を,どんな疾患でも,高齢でも合併症があっても適切な治療やケアを提供し,地域の患者さんを幅広く支えられる医師をめざすのなら,一般病院を経験すると良いでしょう。私自身は,専門と総合の両方をめざすのが理想と考え,幅広い領域の最低限の知識や技術を持ちながら,得意分野を1つ持って世界レベルで活躍できるように若手を指導しています。
勝俣 腫瘍内科医が数人,あるいは1人しかいないような病院では,あらゆる診療科のがん患者を診る必要があるので,ジェネラリストとしての腫瘍内科医が求められますね。
腫瘍内科は日本ではまだ歴史が浅いため,新設時には海外のがん専門病院をモデルにしてきました。その結果,スペシャリストとしての腫瘍内科医のイメージが先行してしまった。しかしスペシャリストとして働く米国の腫瘍内科医は,実際にはごく一部です。米国でもがんをジェネラルに診て,緩和ケアまで行う腫瘍内科医がたくさんいます。日本でもがんサバイバーが一層増えていく中では,大学病院や一般病院,クリニックなど幅広い施設で患者さんを診ることになり,ジェネラルな腫瘍内科医の需要が高まるでしょう。
日本の需要に応える腫瘍内科医をめざす
高野 ジェネラルな腫瘍内科医も重要ですが,一方で,1施設に1人しかいない場合には限界もあります。私自身,スタッフが私1人という状況を経験したことがありますが,忙しい臨床に追われ,若手指導も臨床研究もできず,「何も産み出せないまま燃え尽きていく感覚」を味わいました。理想的には,得意分野の異なる複数の腫瘍内科医がいて,教育や研究にも取り組める環境が良いと思っています。「均てん化」...
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