医学界新聞

2016.10.31



世界医師会長講演開催


 2015年10月に世界医師会長に就任したサー・マイケル・マーモットによる講演「Health inequalities. Healthy women’s lives」(主催=日本医師会)が,9月5日日本医師会館大講堂(東京都文京区)にて開催された。本稿では健康の不平等に関する疫学研究を長年行ってきた氏による講演の模様を報告する。


日本と諸外国における健康格差の現状

 健康の社会的決定要因(SDH)に関する行動を通じて人々の健康と寿命の不平等の解消に取り組む動きは,WHOをはじめ世界的に広がっている。講演冒頭,氏は自身が執筆した『The Health GAP』から引用し「せっかく治療した人を,そもそも病気にした状況になぜ送り返すのか」と問いかけた。健康の主要な要因は,治療ではなくその外側にある社会にあるとの考えを示し,医師は病気を治すだけでなく,人々を病気にしてしまう状況にも対応してほしいとの要望を述べた。

サー・マイケル・マーモット
 低所得者が高所得者に比べて不健康になる確率は1.5~2.0倍だと諸外国では言われているが,日本ではそれほど大きな差は見られていない。しかしそれは日本には健康格差が存在しないという意味ではない。氏は,幼少期の家庭の社会経済的背景(SES)が高齢期の機能障害や有病率に影響していることや学歴が低いほど喫煙率が高いことを示す資料を提示し,日本における健康格差の存在を示唆した。

 一方で,健康は経済的要因だけでは決まらないことにも言及した。一人当たりの収入と出自平均余命の関係性を見ると,非常に貧しい国々では平均収入が少し増すだけで(おそらく水を綺麗にするなどの衛生環境にお金を使えるようになるため)平均余命が跳ね上がるが,一定水準以上では頭打ちになることがわかる。アメリカに至っては,収入は上がっているのに平均余命は下がるという逆行まで見られていると言う。これは経済成長のみでは必ずしも健康は約束されないということだ。

 格差の度合いは国によって異なるが,社会保障に対する支出が大きいほど格差が減ることが明らかになっている。氏は,健康格差は不必要であり,回避可能であり,不当であると強調し,「Do something, Do more,Do better」(健康格差対策を何もしていないのであれば少しでも取り組むこと,少しやっているならそれを拡大すること,行っているのならそれをさらにうまくやること)と呼び掛け,講演を締めくくった。

マイケル・マーモット氏の就任挨拶,本講演の全文は日本医師会ホームページより閲覧可能。
就任挨拶 http://dl.med.or.jp/dl-med/wma/Sir-Michael-Marmot-Inaugural-Speech.pdf
本講演映像 http://www.med.or.jp/people/info/moving/004562.html

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