MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2016.10.03
Medical Library 書評・新刊案内
郡 健二郎 著
《評 者》髙久 史麿(日本医学会会長)
わが国の医学の進歩に極めて重要な役割を果たす良書
著者の郡健二郎先生は泌尿器科学を専門とされておられ,そのご業績に対して紫綬褒章をはじめ,数々の賞を受賞されておられるが,その中に2004年に受賞された,「尿路結石症の病態解明と予防法への応用研究」と題する論文に対する日本医師会医学賞がある。私はそのとき,日本医学会の会長として医学賞の選考に携わったが,この医学賞は日本医学会に加盟している基礎・社会・臨床の全ての分野の研究者から申請を受け,その中の3人だけに受賞が限られるので,泌尿器系の先生が受賞されるのは珍しいことであった。そのため郡先生のことは私の記憶に強く残っていた。その郡先生が上記の題で200ページ近い本をご自身で執筆されたことは私にとって大きな驚きであった。
この本は「研究の楽しさ,美しさ」「科研費の制度を知る」「申請書の書き方」「見栄えをよくするポイント」の4章に分かれているが,特に第3章の「申請書の書き方」では実際の申請書の執筆形式に沿う形で,それぞれの項目において基本的に注意すべき点(基本編)と,実際にどのように書くか(実践編)について詳細に記載されており,科研費を申請される方にとって極めて有用かつ実用的な内容となっている。
また,第4章の「見栄えをよくするポイント」についての記述には,今まで数多くの科研費の審査に当たってきた私自身にとっても思い当たる点が数多くあり,郡先生が本書で述べている科研費が採択される3要素の一つに「見栄え」を挙げられた理由がよくわかった。私の経験では,科研費の審査の際,どうしても申請内容の新規さと申請者の過去の業績に目が向きがちであったが,考えてみると読みやすさも評価の大きなポイントであった。
2013年にあったディオバン事件を契機にして,従来からあった企業からの奨学寄付金がかなり減額したと聞いている。また,国立大学法人への運営費交付金も毎年減額されており,研究者は文部科学省の科学研究費,AMEDからの科研費,民間の研究助成財団からの研究費などを受けなければ研究ができない状況になっている。郡先生が第1章で書かれているように,わが国からの研究成果の発表論文数は減少しており,中国に追い抜かされつつあるのが現状である。本書を精読することによって,能力のある研究者が科研費をより多く受けられるようになることを期待している。したがって,本書はわが国の医学の進歩に極めて重要な役割を果たすと考えられ,本書を出版された郡先生に心から敬意を表したい。
B5・頁196 定価:本体3,800円+税
ISBN978-4-260-02793-9


症候別“見逃してはならない疾患”の除外ポイント
The診断エラー学
徳田 安春 編
《評 者》平島 修(徳洲会奄美ブロック総合診療研修センター長)
医師はエラーから何を学ぶべきか?
「自分が下した診断のもと帰宅させた患者が,翌日別の診断で入院した」という経験は,多くの医師が経験したことがあるのではないだろうか。しかも,その経験は何年経っても忘れられない記憶となり,部下の指導で最も強調しているのは,このような失敗が大きく影響しているからであろう。診断エラーがなぜ起きてしまい,どのように対処したらよかったかを共有することができれば,患者の不幸を回避できるだけでなく,難解な疾患の診断への近道となる。
本書は診断学ではなく,「診断エラー学」を主眼とした新しい視点で症候別に述べられている。コラムだけを通読すると,編者の診断エラー学への思い,診断エラーが開示されにくかった背景,さらには人工知能(AI)まで見据えた「診断エラー学」の必要性まで述べられている。
本書の最大の特徴は,共著の良さを最も生かしていることである。臨床現場で実践と指導に当たる第一線の臨床家のパールが散りばめられている。症候に合わせた“見逃せない疾患”の解説が述べられているが,同じ疾患でも,社会的影響の強い疾患に関しては繰り返し記載されている。例えば「肺塞栓症」という疾患の解説は,「一過性意識障害」「浮腫」「失神」「胸痛」「咳・痰」「呼吸困難」の6項目で,それぞれ違った著者によって言及されている。“見逃せない疾患”は繰り返し出てくるので,その疾患の重要性が伝わり,それぞれの著者の微妙な考えの違いも現場に近い感覚で読むことができる。したがって,本書は困ったときに開くのではなく,ぜひ通読することをお勧めする。
もう一度強調するが,本書は診断学の本ではなく,「診断エラー学」の本である。診断ではなく,“見逃せない疾患”を病歴,身体診察,検査で“いかに除外するか”に注目し,診断エラーを防ぐ方法がまとめられている。また,「見逃すとどの程度危険か?」という提示は,各著者の疾患への思いが透けて見える内容となっている。
診断エラー学についてはこれまで,ほとんど述べられることがなかった。見逃すと致死的になる疾患は,過去の統計学的なエビデンスに頼るだけでは診断エラーを防ぐことはできない。経験豊富な臨床家の生の声(特に失敗経験)を聞くことが非常に重要である。この視点は,指導医にとって最も強調されるべき事項でもある。
目の前の患者の「診断エラー」を一つでも防ぐために,初学者から指導医までぜひ一読をお薦めする。
A5・頁352 定価:本体4,400円+税
ISBN978-4-260-02468-6


アナトミー・トレイン[Web動画付] 第3版
徒手運動療法のための筋筋膜経線
トーマス・W・マイヤース(Thomas W. Myers) 著
板場 英行,石井 慎一郎 訳
《評 者》木藤 伸宏(広島国際大准教授・動作解析学)
身体運動における筋筋膜経線の機能についても紹介
大学院時代に医学部の人体解剖学実習に参加し,献体を解剖する機会を得た。学生時代にも参加したが,その時は明確な目的意識もなく,教員に言われるままに取り組むしかなかった記憶がある。大学院生のときは社会人学生であり,日々悩みながら臨床を行っており,人体の筋や関節周囲の構造をしっかり観察したいという目的で取り組んだ。その当時の大学の解剖実習は,昼から夜20時まで休みなく行う実習が4か月続くものであり,学部生はかなり疲弊していた。私は目的が明確であったために,時間も忘れて夢中に取り組んだ。皮膚剝ぎから行い,自分が観察したい部位にたどり着くまでには,丁寧な作業とかなりの時間を要した。しかしその過程において,決して解剖学書や解剖模型では見ることができない,皮膚の下に存在する結合組織の多さ,その巧みな構造を自分の目で見て,自分の手で触れることができた。本書6ページの「図6 筋筋膜の拡大写真」は,まさしく私が解剖実習中に観察したものである。筋よりも,それを取り巻く結合組織である筋膜が極めて重要な役割をしているという印象を受けたのを思い出す。
ずいぶん前になるが,石井美和子先生(Physiolink代表)と福井勉先生(文京学院大大学院教授)より,『アナトミー・トレイン』の原書第1版を紹介された。トーマス・マイヤース先生による,人体を走る「筋筋膜経線」を鉄道路線に見立てた斬新な考えに興味を持ちながらも,その解剖学・組織学的裏付けにやや疑問を抱いた。また,筋筋膜経線に焦点が当てられていたため,理学療法にどのように応用すればよいのか,特に評価にどう応用していくかについて,わからないままであった。つまり,「筋筋膜経線」を理解するための自分の準備が,臨床的にも学術的にも不十分な状態であった。日本で開催されるトーマス・マイヤース先生の研修会にも誘われたが,あまり参加する気持ちになれず,参加しなかった。
その後,筋膜に関する書籍が数多く出版され,『アナトミー・トレイン』も改訂された。第2版では,筋膜の組織学的見解が豊富に記述されていることに驚いた。今回の第3版では,組織学的な記述がさらに追記されると同時に,身体運動における筋筋膜経線の機能についても紹介されている。実際のエクササイズも豊富に紹介されているが,私にはまだ評価に応用する明確なアイデアが浮かばない。本書に書かれている筋筋膜経線が,運動学的観点から人の運動・活動・生活にかかわる医療専門職にとって重要な理論であるということは,感覚的に理解できる。しかし,本書に書かれている内容を,どのように評価や治療に応用できるのか。多くの医療専門職の英知を集めることを目的に議論する場を持つことができれば,本書の内容をさらに深く知ることができるので...
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