医学界新聞

対談・座談会

2016.09.26



【対談】

患者さんの「在りたい自分」に向き合う看護技術
ストレングスモデルを始めよう!

萱間 真美氏(聖路加国際大学大学院 精神看護学教授)
角田 直枝氏(茨城県立中央病院・茨城県地域 がんセンター看護局長)


 主に福祉領域で用いられてきた「ストレングスモデル」(MEMO)が,今年9月開催の第47回日本看護学会精神看護学術集会の基調講演に取り上げられるなど,今注目の的になっている。慢性疾患を持つ患者の退院支援や地域ケア,訪問看護では,患者が主体的に取り組む力を活用できないと,看護師は支援に困難を感じ,疲弊してしまうことも多い。ストレングスモデルの活用は,そのような局面の突破口となり得る。

 本紙では,『リカバリー・退院支援・地域連携のための――ストレングスモデル実践活用術』(医学書院)を上梓した萱間真美氏と,病院と在宅看護の両方で管理者の経験を持つ角田直枝氏の対談を企画し,ストレングスモデル活用の可能性を探った。


萱間 時に看護師は,必要以上に患者さんをコントロールしようとします。確かに急性の疾患では,潜在的なリスクを予見し回避するために,患者さんの問題解決に焦点を当てた保護的・管理的なケアが有効なことも多いでしょう。しかし慢性疾患や障害を持つ方々には,違う看護の在り方があると思うのです。

角田 多くの看護師は新人のときに急性期の患者さんを担当し,「患者さんは看護師を頼りにする」というイメージを持ちます。看護師は “真面目すぎるくらいに真面目”ですから,そのイメージを捨て切れないようです。看護師にとっての最善が,慢性期の患者さんにとっても最善だと無意識に思っているのではないでしょうか。

萱間 そうですね。「患者さんは病気で弱っている」という前提が看護師の心の中にあるのです。患者さんのできないことへの介入によって,自分が役立っていると認識しているのだと思います。“処置があると安心する”のもその一つです。処置が多い患者さんへの訪問では生き生きする一方で,処置の少ない精神科訪問看護では不安になりやすい。

角田 同感です。病院でも看護師が苦手とする患者さんは,処置が比較的少ない乳がんや糖尿病の方です。そういった患者さんの多くは,自立度が高くてエネルギーもあり,看護師の言いなりにはならない。言わば,「在りたい自分」を持っている患者さんなのです。

慢性疾患の治療目標は,「在りたい自分」の実現

角田 先日,「入院患者さんが苦情を言っている」と,病棟の看護師が私を呼び出しました。その患者さんは糖尿病を合併しているのですが,「速効型のインスリンを使いたくない。急激に血糖値が下がるのが心配で夜も眠れない」と主張していたそうです。その看護師は,言うことを聞かない“クレーマー”患者だと判断したのでしょう。ところが患者さんによく話を聞いてみると,「病院では食事が口に合わなくてたくさん残すから,病院の医療者が思っているほど血糖値は上がっていないはずだ」と言うのです。

萱間 理由なくクレームをつけていたのではなかったのですね。

角田 そうです。患者さんが本当に言いたかったのは,「もっと適切な治療があるのではないか」ということだったのです。

 患者さんは以前,低血糖症状を経験したらしく,発症時に飲むブドウ糖を常に持っていました。この患者さんは「自分の治療と食事量,血糖値の上下を理解し,対処や提案をする」能力があったわけです。それなのに,なぜこの看護師はそれに気付かなかったのでしょう。

萱間 それは,この看護師が患者さんの問題点に着目する「問題解決モデル」で考えていたからではないでしょうか。急性期では効果的な考え方ですが,「問題と付き合っていく患者さんの力」を信じなければいけない慢性期には適しません。

 慢性期には「ストレングスモデル」に視点を切り替えると良いと思います。ストレングスモデルは,「自分の目標に向かっている」と患者さんに実感してもらうことをめざし,患者さんの考えや経験,大事にしているものを「ストレングス」として活用する支援方法です()。ウェルネス型看護診断とは違い,看護師が患者さんの評価を行うことが目的ではありません。

 問題解決モデルとストレングスモデルの比較(『ストレングスモデル実践活用術』より改変して作成,下記の図も同様)

角田 そのストレングスに気付くには,どうしたら良いのですか。

萱間 患者さん自身のことを一番知っているのはご本人ですから,敬意を持って,患者さんにしかわからないことを「語っていただく」しかありません。主導権を患者さんに渡し,どう生きてきたか,病気になったけれどもこれからどうなりたいかという対話に時間をかけます。ストレングスモデルでは,文脈からストレングスを見いだすという専門性が支援者に求められるのです。

角田 なるほど。患者さんが病気とどう向き合ってきたかを聞くと,私は本当にびっくりします。慢性疾患の患者さんは,自分の病気にある程度の知識があり,体調が変化したときのコントロールの仕方も知っています。

萱間 そうですよね。本人が一番,自分を知っています。その「自分を知っていること」もストレングスです。現場の看護師には,そのストレングスをどう生かすかを患者さんと一緒に考える姿勢を持ってほしい。在宅看護教育も経験されている角田さんは,どう思われますか。

角田 患者さんが地域で生活するには,患者さんのできることと,何ができるかを知る人からのサポートというストレングスを尊重しなければならないと感じます。

 私は,患者さんの地域での生活を教育でもっと見せるべきだと考えています。当院では,希望者に訪問看護の1日体験研修と,10年目以上の看護師に訪問看護ステーションや長期療養型の病院への出向を経験させています。訪問看護に同行すると,地域で自分らしく暮らすのが患者さんにとって一番幸せなのだと気付くようで,「退院後の患者さんと家族が,予想以上に元気だった」と聞くことも多いです。

萱間 それは素晴らしい取り組みですね。患...

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