医学界新聞


医療安全だけが危機管理じゃない!

寄稿

2016.09.19



【寄稿】

あなたの組織,「危機管理」できていますか?
医療安全だけが危機管理じゃない!

柏木 秀行(飯塚病院 緩和ケア科部長)


 医療の質・安全の重要性が以前より叫ばれているが,医学部教育から卒後教育を通じて,十分な教育・研修の機会が提供されているとは言い難いように思う。そのような問題意識から筆者は,2016年6月に開催された「第7回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会」において,“あなたの組織「危機管理」できてますか?”というテーマでワークショップを開催した。当院での実務経験と,筆者が通っていた経営大学院での学びを融合させたものであり,医療の質・安全における学びの一つとしてその概要を紹介したい。

医療安全以外のリスクへの備え実際に発生したときの対応

 現在筆者は卒後10年目の臨床医で,福岡県にある飯塚病院の緩和ケア科において,指導医および管理職を担っている。部門の運営に携わるようになると,好むと好まないにかかわらず,医療安全にもかかわらざるを得ない。2015年10月1日には医療事故調査制度も施行され,危機管理の重要性は今後さらに増すであろう。そんな中,筆者には以下2つの疑問が生じていた。

1)危機管理では医療安全ばかりが取り上げられるが,それ以外にも備えておくべきリスクがあるのではないか
 書店には医療安全に関する質の高い書籍が多く並んでいる。医療安全管理部門などが存在する一定規模の病院では,院内職員向けに勉強会を開催しているところも多い。しかし,組織が直面する危機は,医療安全に関するものばかりではない。例えば,

・職員が飲酒運転で逮捕され,テレビで実名報道された
・患者の個人情報が含まれる記憶媒体を紛失した

といった事態はどうだろうか。このように,医療機関が備えておくべきリスクは「医療サービス提供にかかわるリスク」だけでなく,「経営にかかわるリスク」なども含まれる。しかしながら,医師や看護師をはじめ,医療専門職がそうしたリスクについて学ぶ機会は非常にまれである。

2)未然防止の大切さが強調される一方で,実際に生じてしまった場合にどう対処すれば良いのか
 医療現場に限らず,リスク管理の分野では未然防止策を講じることの重要性が強調される。実際,多くの医療機関では医療事故を防ぐためにさまざまな教育やシステムが導入されている。しかし,本来生じてはならないはずの危機が生じてしまった場合“管理者として何をすべきか?”という点について学ぶ機会は決して多くない。

リスクの把握とリスクの評価・分析を行う

 こうした状況に漠然とした不安を抱いていた筆者は,一般企業で危機管理を担当する経営大学院の同級生と議論するようになった。その中で,他業界の取り組みをヒントに,医療機関が取り組むべき危機管理について学ぶ機会を作ろうと考えたのである。

 学会当日のワークショップには18人が参加し,医師以外に薬剤師の姿もあった。まず,当院の医師2人(筆者:卒後10年目・緩和ケア科,岡村知直:卒後7年目・総合診療科)が,「危機管理概論」と題するレクチャーを行い,「危機管理とは,企業経営や事業活動,企業イメージに重大な損失をもたらす,あるいは社会に重大な影響を及ぼす事態を“危機”ととらえ,万一危機が発生した場合に損失や影響を極小化するための活動」であることを共有した。また,危機発生前の「平常時の取り組み」と発生後の「危機への対処」の双方が,組織の危機管理を考える上で重要であることを強調した。

 リスク管理のマネジメントプロセス(...

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