医学界新聞


生活の場をベースに,地域全体での体制構築を

対談・座談会

2016.09.19



【座談会】

高齢心不全患者を診る
生活の場をベースに,地域全体での体制構築を

弓野 大氏
(ゆみのハートクリニック 院長)
猪又 孝元氏
(北里大学北里研究所病院 循環器内科部長)=司会
富山 美由紀氏
(JA尾道総合病院 慢性心不全看護認定看護師)


 高齢化の進展とともに,高齢心不全患者が増加している。複数の併存疾患を抱えていることが多い高齢者には,標準治療だけでは十分な効果が得られない場合も多く,患者の“生活の場”をベースに,一人ひとりの生き方に沿った治療・ケアを提供していくことの重要性が指摘されている。

 そこで本座談会では,心不全診療に携わる三氏に,高齢心不全患者診療における特異性や,医療者が今後取り組んでいくべき課題などについてお話しいただいた。


猪又 日本では,心疾患はがんに次いで死因の第2位となっています。そして心疾患の中でも,心不全で亡くなる方の割合は多い。特に高齢者は心不全の有病率が非常に高く,高齢になるほど予後が悪いことがわかっており1~3),心不全で亡くなる方は今後さらに増加することが予想されます。ところが,「心不全」はあまり問題視されていないのが現状です。

富山 私が勤めている病院は広島県の尾道市にあり,高齢化率が33%に達しています。そのため,ずいぶん前から高齢者医療に取り組んでいますが,先生が今おっしゃったように,心不全はあまり話題に上らず,主にがんや認知症に目が向いているように感じます。

 まずは,医療者全体に心不全についてもっと知ってもらう必要があると思うのです。特に高齢者は,診断がついていないだけで,実は心不全を抱えている方が大勢いるのだということを知ってもらわなければなりません。

猪又 心機能は障害されているものの,まだ症状が表れていない「隠れ心不全」の患者さんは多いですからね。また,「心不全なのか老衰なのか,何なのかよくわからない患者さんが多く,どう対処すべきかわからない」といった声もよく聞きます。つまり,医療者自身が心不全診療の重要性をきちんと把握しきれていない部分もあるので,私たち心不全診療に携わる医療者はもっと普及活動を行っていくことが求められていると言えるでしょう。

高齢者にどこまで治療を行うべきか

猪又 患者さんを拾い出せたら,次は治療です。心不全に限らず,高齢者を含む大規模臨床試験の結果は少なく,どの程度効果があるのか実際のところはよくわかっていません。ガイドラインに沿った治療をどこまで高齢者に適用すべきかは,難しい問題です。

富山 「高齢者」とひとくくりにして,治療の方向性を決定してしまっていいものか疑問に思うことはありますね。90歳でもADLがよく保たれていて,元気に過ごされている方はいます。

弓野 おっしゃる通りです。“健康寿命を延ばす”という観点から,「抗凝固療法の適切な使用」と「フレイル(虚弱)の予防」は,高齢心不全患者の治療を行う上で念頭に置く必要があります。脳血管疾患やフレイルは,患者さんのQOLを急激に低下させる大きな要因となるので,その二つは重要なポイントになると考えています。

猪又 高齢者の場合,コモビディティ(併存疾患)やポリファーマシー(多剤併用)の問題もあり,患者さんにとっての最適な治療を組み立てていくことは非常に難しい作業です。患者さんが抱える病態の重み付けをどのように行うか,また「何のための治療なのか」という点について,医療者はきちんと考えていかなければなりません。

弓野 そうですね。高齢者の治療介入は目に見えない治療より,目に見える治療に主眼を置く必要があるかもしれません。つまり,うっ血の管理,再入院の予防という観点です。

 最近欧州心臓病学会から発表された心不全ガイドラインで,「フレキシブルな利尿薬の使用」というフレーズが,再入院させないための心不全管理プログラムのポイントとして挙げられていました。これは,例えば「3日間で体重が2 kg以上増加したら利尿薬を使用してもよい」といったように,患者さんにとっての柔軟さです。このガイドラインを読んで,日本でも高齢心不全患者の再入院予防のため,退院時に患者さんの自己管理に幅を持たせてあげられると良いのではないかと思いました。

多職種チームで患者の自己管理を支える

弓野 高齢心不全患者が増加している今だからこそ,臓器や疾患を診るこれまでの“病院レベル医療”から,生活の場をベースにした“地域レベル医療”への転換が,ますます求められていると感じます。

猪又 同感です。そのためには,やはり多職種チームでの介入が欠かせません。富山先生,慢性心不全看護認定看護師としての役割を教えてください。

富山 慢性心不全に限らず,認定看護師には実践家としての役割モデルがあります。私は週に一回,外来にも勤務していますが,外来は入院と在宅をつなぐパイプとなるので,病院と地域をつなぐ窓口としての役割は大きいです。ただ私自身,患者さんの日々の変化を十分に追い切れているかと聞かれると,自信はありません。

猪又 病棟の交代制勤務の中で,それ以外の業務もこなさなければいけないわけですから,なかなか難しい部分がありますよね。そこを補うために,何か工夫などはされていますか。

富山 当院では,医師,看護師,理学療法士,薬剤師,栄養士,心理士,ケースワーカーなどから成る多職種チームを構成していますが,理学療法士を中心に心臓リハカンファレンスを行っています。理学療法士の方が患者さんをスクリーニングしてくださるので,非常に頼りになる存在です。この多職種チームをコーディネートしていくことも認定看護師としての大切な役割だと思っています。

猪又 病棟看護師をチームの中心に据えたチーム形態を模索する組織も多い中で,他職種とうまく連携し,患者さんを診ていくやり方というのは良い手段だと思います。

病院と地域が連携し,“2人主治医制”で患者を診る

猪又 弓野先生は地域で患者さんを受け入れる側として,病院側に対して求めたいことはありますか。

弓野 病院と地域の連携のためには,病院から地域へ患者を戻す意識が必要だと考えています。現状としては,症状の安定した外来患者を手元から離せない急性期病院も多いのです。病院をかかりつけにしたいと考える患者さんが多いことも,一因としてあるのかもしれません。しかし,病院には重症者が次々とやってくることを考えると,病院だけで全ての患者さんを診続けていくのは難しい面もあります。「症状の安定した患者さんは地域で診る」という形が,医療者にも患者さんにも,もっと受け入れられるようになると良いのではないかと思います。

猪又 心不全の病態は非常に複雑で,さらに高齢者ともなると,増悪因子や生活因子などにも注意を払う必要があります。そのため,高齢心不全患者は病院だけで診ていくべきだという考えや,地域の医師に任せて本当に大丈夫なのだろうかという不安を,病院側が持ってしまっているかもしれません。病院...

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