医学界新聞

2016.09.12



Medical Library 書評・新刊案内


統合失調症薬物治療ガイドライン

日本神経精神薬理学会 編

《評 者》大森 哲郎(徳島大大学院教授・精神医学)

簡潔な記述に最新内容を盛り込んだ実践書

 日本神経精神薬理学会が編集したこの『統合失調症薬物治療ガイドライン』は,簡潔な記述に最新内容を盛り込んだ実践的な良書である。作成の実務を担当したのは,各地で活躍する気鋭の精神科医で,大学で言えば准教授や講師に相当する世代である。ここ20年間の新規非定型抗精神病薬の導入を契機として,すっかり様変わりした統合失調症の薬物療法を語るのに最もふさわしい布陣となっている。

 全体は大きく5章に分かれ,第1章「初発精神病性障害」,第2章「再発・再燃時」,第3章「維持期治療」,第4章「治療抵抗性」,第5章「その他の臨床的諸問題」と続き,それぞれの章ごとにいくつかの臨床疑問(clinical question ; CQ)が設定され,それに関する推奨治療を提示し,その推奨に至ったエビデンスと検討過程を解説するという特徴的な構成となっている。例えば第2章のCQ2-1は,再発・再燃時に切り替えと増量のどちらが適切かを取り上げる(p.24)。これへの推奨として,アドヒアランスを含めた現在の治療を振り返ること,増量の余地があれば増量すること,持効性製剤を考慮すべき場合があること,切り替えはその後の選択肢となることなどが述べられ,この推奨の理由となるエビデンスが手短に解説されている。さらに再発・再燃時の対応として,有用性と推奨用量にエビデンスがある薬物は何か(CQ2-2),抗精神病薬の併用は単剤よりも有効か(CQ2-3),抗精神病薬以外の向精神薬の併用は有効か(CQ2-4)と,日々直面する臨床疑問が続く。

 第4章では,クロザピン治療の推奨でよしとするのではなく,その効果が部分的であった場合の併用療法は何か,修正型電気けいれん療法(m-ECT)は有用か,クロザピンやECT以外の治療法はあるかなどがCQとして追及される。第5章では,精神運動興奮,緊張病,抑うつ症状,認知機能障害,水中毒などに対する治療が俎上に乗せられている。第1章と3章についてはCQを紹介する紙幅がないが,全5章いずれのCQも臨床現場では切実なものばかりである。

 これらのCQに対し,臨床エビデンスを尊重して推奨治療が提示されるが,過度にエビデンスに固執すると何も言えなくなってしまうこともある。そういう場合には作成者の現場感覚が生かされて,診察室で役立つガイドラインに仕上がっている。言うまでもなくガイドラインは治療を縛るものではない。特定の抗精神病薬の名が挙がるのは治療抵抗性に対するクロザピンのみである。治療選択は常に主治医に委ねられる。ガイドラインにはその前に考えるべきことが凝縮されているのである。

 本ガイドラインは実は日本神経精神薬理学会のウェブサイト上に公開されている。見比べると,明解な図表と理解促進のための補記が加わっている点で書籍版は一層充実した治療の手引きとなっている。なお,本ガイドラインは守備範囲を薬物療法に限定し,心理社会的治療には言及していない。後者を軽視する意図のないことは本文中(p.vii)に明言されている。

B5・頁176 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02491-4


精神科診断戦略
モリソン先生のDSM-5®徹底攻略case130

James Morrison 原著
松﨑朝樹 監訳

《評 者》塩入 俊樹(岐阜大大学院教授・精神病理学)

精神医療のリングで闘う人に贈る一冊

 「この診断基準を生身の患者にどうあてはめてよいかを知らない人は,精神医療には関わらないほうがよいだろう」

 いきなり出たストレートパンチのようなこの一文は,本書の「序章」,第1ページ目に書かれたものである。第1ラウンド,相手の出方をうかがっていた挑戦者に,チャンピオンが「君とはまだまだ実力が違うよ」とでも言うかのごとく,開始1分以内に放った一撃。そう,連戦練磨のチャンピオンはジェイムズ・モリソン,挑戦者は,われわれ読者である。

 モリソン先生は,まず「序章」の14ページを使い,本書の特徴(モリソン先生の工夫)や使用法について詳細に解説する。続く第1~18章には,DSM-5の大分類にあたる各疾患群が並んでいる(ただし,本書では双極性障害群と抑うつ障害群を気分障害と一つにまとめている)。さらに,第19章で「臨床的関与の対象となることのある他の要因」について説明している。実はこの章,DSM-IV-TRから存在したが,DSM-5においてコード番号が最も増えた章であり,臨床的には大変重要であることを知っている者は少ない。このZコードを使いこなすことで臨床診断に深みを与え,患者個別のストーリーを与えることが可能となる。評者はDSMを日常臨床に使用して29年目だが,この辺をきちんと解説してくる所に,「さすがモリソン先生,わかってらっしゃる!」と思う。

 最後の第20章「患者と診断」では,いくつもの症例を実際に診断する,つまり,練習試合が待っている。実に臨床的でうまい設定であり,米国で20万部を超えるベストセラーであることもうなずけよう。そして今回本書の監訳を担当した松﨑先生もまた,熱心にDSMの研究を進めている方であり,訳者として適任である。モリソン先生の人柄が伝わるようなユーモアに溢れた文章を上手に訳している。

 では,熟読してみる。...

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