医学界新聞

寄稿

2016.09.12



【視点】

病院の図書室機能をいかに強化するか

福岡 敏雄(倉敷中央病院総合診療科主任部長 救命救急センター長・人材開発センター長)


 医療情報環境は,年々大きく変化している。若い世代は,卒前教育からUpToDate®やDynaMedなどの電子教科書,あるいはPubMed,医中誌Web,Google Scholarなどのデータベース検索で情報を得ている。図書室で書籍や雑誌を探して読むことは少なくなり,ウェブ上で検索して入手し,ウェブ上の辞書や用語集などと組み合わせて読むことに慣れている。彼らにとって必要な情報は,図書館ではなくウェブ上にあると言えるだろう。

 病院もこのような変化に無頓着ではいられない。院内の医療情報環境の整備は,提供する医療内容の維持・向上にそのままつながる。特に電子教科書や電子ジャーナルの整備された環境は,若い医師にとって学びやすく働きやすい。当然,意欲のある研修医やスタッフを引きつけるであろうし,そのような病院は患者・家族にとっても魅力的に見えるに違いない。

 しかし,一般の病院にとって,医療情報環境を整備することは容易ではない。特に洋雑誌の施設契約料は,個人購読料の10倍を超える値段が設定されることもしばしばあり,契約料は年々数%ずつ値上げされ,為替の影響で円建ての購入費用は高騰している。

 病院はこれまで,何も手を打たなかったわけではない。多くの病院が,限られた予算で環境整備をするためにさまざまな工夫を行ってきた。雑誌の個別契約を,出版社が提供する複数雑誌契約のパッケージ商品へと移行させ,大学や病院,研究機関などと共同してコンソーシアムをつくり出版社と交渉してきた。こうした取り組みは病院の情報環境を維持しつつ経費削減にもつながっている。

 会員病院の数が2500を超える日本病院会(日病)では,2015年に図書委員会を設置し,図書購入に関する情報提供や共同購入事業を開始した。これに先立ち,会員病院に対し図書環境に関するアンケート調査を行った。会員病院の規模や診療背景はさまざまである。インターネット環境が十分整っていない病院や小規模な病院も多く,病院ごとの事情があることを知った。

 この結果を踏まえ日病は,同年に日病電子ジャーナルコンソーシアムを立ち上げた。そして2016年8月23日には,2017年度の契約に向けた説明会を開催し,10社以上の企業と100人以上の参加を得た。企業からは日本語コンテンツの提案も増え,100床以下の病院を対象にした特別価格での提供,1誌からの契約や施設ごとに雑誌の組み合わせが選べるプランなど,さまざまな提案を受けている。これらのコンソーシアムのパッケージについては,日病ウェブサイトの会員専用ページにて公開しているので参照いただきたい。

 研修医をはじめ医療者の皆さんには,病院の電子データベースや電子ジャーナルを積極的に活用してほしいと思います。そこで得られる知識,技術,態度は生涯教育の基盤です。また,多くの電子データベースではアクセス回数や検索件数のモニターが可能です。皆さんの積極的な利用こそが環境整備の成果であり,図書予算の必要性・有効性の証しとなるからです。医療情報環境の有効活用をよろしくお願いします。


福岡 敏雄
1986年阪大卒。倉敷中央病院,名大病院などを経て,2006年から倉敷中央病院総合診療科主任部長兼医師教育研修部長。10年救急医療センター主任部長,13年救命救急センター長,14年4月からは人材開発センター長を兼任。日病図書委員を務める。

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