医学界新聞

寄稿

2016.07.18



【寄稿】

抗菌薬の適正使用に向けた
感染症医と病棟薬剤師の連携

鈴木 純(岐阜県総合医療センター感染症内科医長)


 感染症専門医(感染症医)の数は約1100人と,日本感染症学会が掲げる適正数の3000~4000人にはほど遠い1)。中でも,さまざまな領域・臓器の感染症に対応でき,さらに非感染性疾患との鑑別もできるような横断的な感染症診療のトレーニングを受けた感染症医はさらに少ない。トレーニングなしに,感染症診療コンサルテーションの多岐にわたるニーズに応えることは難しいだろう。

 一方で,この10~15年くらいの間に感染症診療のトレーニングコースが全国的に普及しつつある2)。私もそこを巣立った医師の一人だ。2015年に当院は,県内の他施設に先駆けて感染症診療コンサルテーション部門(感染症内科)を立ち上げ,各診療科からのコンサルテーションに横断的に対応している。実は今,感染症診療のトレーニングコースを修了した感染症医による,感染症科・感染症内科立ち上げの動きが全国的に広がっている。

 感染症医が潤沢にいない病院でも,感染対策チーム(Infection Control Team;ICT)が設置されている所は多い。ICT活動は,手指衛生,標準予防策,経路別予防策,医療関連感染サーベイランス,アウトブレイク対応,体液曝露防止,消毒・滅菌,抗菌薬適正使用など多岐にわたる。中でも「抗菌薬適正使用」は,今年4月に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」(厚労省)が発表され,5月のG 7伊勢志摩サミットでも議論されるなど,対策への機運が高まっている3)

 ただ,ICT医師の多くは専従ではなく,所属診療科(多くは臓器別専門領域)の仕事が多忙なため「抗菌薬適正使用」にまで割く時間がないなど,対策が後手に回っている病院が少なくないのが現状ではないか。では,院内での適正使用をどう進めればよいのだろうか。

院内の抗菌薬適正使用推進の主力は病棟薬剤師

 ICTの中で抗菌薬適正使用の主力となる職種は薬剤師と医師である。当院に単身で乗り込み感染症内科を始めた私は,将来的には医師の数を増員し,活動の幅を広げるつもりだ。しかし,まだ世に少ない感染症医。そう簡単に集められるものではない。その素地になることも期待して(それだけが目的ではないが)研修医の指導も行っているが,教育には時間を要する。実際の業務が,「行うべき」「行ったほうがよい」と思う活動内容にまで追いついていない。それが現状だ。

 そこで注目したのが,病棟薬剤師の活躍である。岐阜での勤務が初めての私は,この地域の病院の医師-薬剤師関係がとても良好だと感じているのだが,それは私だけではないようだ。かつて他県で働き,現在は県内他施設に勤務する薬剤師も,「岐阜の医師は薬剤師の提案にきちんと耳を傾けてくれるから働きやすい」と話していた。

バンドル&フローチャートの効果

 地域の強みを生かした当院での抗菌薬適正使用の取り組みについて,黄色ブドウ球菌菌血症(Staphylococcus aureus bacteremia;SAB)の例で見ていきたい。近年「SABのアウトカムは感染症医の介入により改善する」というデータが多数出ている4)。SABへの介入は感染症医の使命の一つだ。しかし全例介入はなかなか難しい(介入とは,きちんと診察し,フォローアップする...

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