医学界新聞


「薬剤師レジデント制度」で鍛える,臨床能力の基礎

インタビュー

2016.07.04



【interview】

薬剤師の卒後教育を考える
「薬剤師レジデント制度」で鍛える,臨床能力の基礎

橋田 亨氏(神戸市立医療センター中央市民病院院長補佐/薬剤部長)に聞く


 卒後研修制度として「薬剤師レジデント制度」()を導入する病院が増えている。2002年度の北里大病院に始まり,2014年度には40施設で130人の募集が行われた。6年制薬学教育によって卒前に臨床で学ぶ機会が増えた今,卒後教育では何をめざすのか。本紙では,日本薬剤師レジデント制度研究会の会長を務める橋田氏に,本制度を活用した卒後教育の実態と,今後に寄せる期待を聞いた。


必要とされているのは,高い臨床能力を備えた薬剤師

――日本の病院薬剤師の卒後教育は,どのように行われてきたのでしょうか。

橋田 多くの薬剤師は,入職した現場で必要な技能を,徒弟制度のような形で身につけてきました。一部の大学病院などには「研修生制度」があり,系統立った教育プログラムを提供しているのですが,研修生は研修費を支払う立場です。医師や看護師は給与を得ながら質の高い初期研修を受けていますので,この状況を一薬剤師として少しさみしく思っていました。

 そこで,別の卒後研修制度を作っていく機運が高まり,2002年に「薬剤師レジデント制度」が始まりました。経済的な自立と質の高いプログラムの両立を目的とした本制度は,米国の薬剤師卒後教育制度をモデルとし,短期間で即戦力を育てられるよう設計されたものです。

――6年制薬学教育への移行により,卒前の臨床経験は増えました。卒後教育では何をめざすのでしょうか。

橋田 臨床「能力」の養成です。医療職種には,一定水準の臨床能力を身につけるための期間が必要だと私は考えています。レジデント制度は,実力を持った薬剤師を短期間で養成し,患者さんを中心とするチーム医療に「薬学の視点を反映する」ことを最大の目的としているのです。

 卒前でも臨床を意識した真剣な教育をしていますが,チーム医療で必要な臨床能力を鍛えるには卒後にしかできないこともあります。本制度を活用した卒後教育では,充実した講義研修を用意した上で,臨床での徹底したOJTを行います。

――なるほど。具体的に求められているのは,どのような能力ですか。

橋田 薬の有効性・副作用の評価,患者さんや他職種への情報提供・提案などがあります。近年,診療報酬に新設された病棟薬剤業務実施加算,がん患者指導管理料3からわかるように,チーム医療における薬剤師の活躍の重要性は高まっているのです。短期間で実力をつけることは,患者さんにとって大きなメリットであり,医療機関にとっても良いことです。

レジデント制度で基礎を固めた上にキャリアパスが広がる

――正規職員とレジデントの,養成における違いを教えてください。

橋田 最大の違いは養成期間です。正規職員はある程度時間をかけて養成するのに対し,レジデントは短期間のハードトレーニングで,「実務スキル」を身につけます。また,臨床研究をプログラムに組み込み,ファーマシスト・サイエンティストの養成をめざして「科学的なものの見方」を指導します。研究は患者さんの治療に直接役立つだけでなく,診療科と共同で行いますから,他職種との信頼関係を作るのにも大変有用です。これらはレジデント本人のキャリアパスにも大きなメリットになると考えています。

――神戸市立医療センター中央市民病院の薬剤師レジデントの方は,どのようなキャリアを歩んでいるのですか。

橋田 当院はレジデント制度を2009年に始めました。在籍中の方を含めて延べ62人で,新卒の他に病院,薬局,製薬企業から転職した方もいました。レジデント制度は施設にとって有望な人材の確保になりますが,当院では優秀な人材の輩出も大切にしています。例えば,専門薬剤師になるために他院から来る方には,取得後に前の病院へ戻って若手の指導に...

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