医学界新聞

2016.06.27



Medical Library 書評・新刊案内


《がん看護実践ガイド》
女性性を支えるがん看護

一般社団法人 日本がん看護学会 監修
鈴木 久美 編

《評 者》中村 清吾(日本乳癌学会理事長/昭和大教授・乳腺外科学)

女性のライフサイクルをベースにがん治療に伴う諸課題への対策を解説

 がん,特に私が専門としている乳がんは,罹患年齢のピークが40歳代の後半にある。この年代の女性は,職場では多くの人を束ねる管理職であったり,家庭では妻として母として一家を支える縁の下の力持ちとなっている。したがって,手術や化学療法のために職場や家庭を離れて,自身の病気のことに専念すること自体が大きなストレスとなる。また,特に20~30歳代で発症した場合には,手術に伴う整容性の問題や化学療法に伴う脱毛,あるいは妊孕性喪失の懸念等が大きくのしかかる。未婚女性,結婚しているがまだ子どものいない方,あるいは,妊娠・授乳期に罹患した方など,さまざまな状況下で,適切な情報提供および,身体面のみならず,心理面,社会面でのサポート体制が重要である。

 本書は,現代女性のライフサイクルをベースとして,主に女性特有のがん(乳がん,子宮がん,卵巣がん)の治療に伴うアイデンティティーの危機に対して,①妊孕性温存,②ボディイメージ変容への対策,③セクシュアリティへの支援,④就労支援,⑤家庭生活における支援(家事,育児ほか)および,①~⑤までが複雑に絡み合う遺伝性腫瘍,特に遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC ; hereditary breast and ovarian cancer syndrome)における諸問題への対策が,各分野の専門家により,大変わかりやすい図とともに解説されている。特に,このHBOCにおいては,未発症の遺伝子変異を有する女性が,リスク低減乳房切除術(RRM ; risk-reducing mastectomy)や,リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO ; risk-reducing salpingo-oophorectomy)等の予防的手術を受ける場合は,各年代におけるBenefitとHarmを十分に理解した上での選択が望ましい。そのためには,遺伝カウンセリングとともに,精神心理面も含めた看護の介入も大変重要である。同年代の女性が大半を占める看護職は,患者の置かれている立場に共感しやすいという利点がある。この問題を,鈴木久美先生(阪医大)をはじめとする日本がん看護学会の諸先生方が取り上げた慧眼に深謝するとともに,一人でも多くの看護職の方に読んでいただき,本領域における質の高いチーム医療の実践にぜひ役立てていただきたい。

B5・頁220 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02140-1


エビデンスから...

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