医学界新聞


「オープンダイアローグワークショップ」に参加して

寄稿

2016.06.20



【寄稿】

破天荒で,理に適った最強のアプリケーション
「オープンダイアローグワークショップ」に参加して

尾藤 誠司(国立病院機構東京医療センター 総合内科/臨床研修科医長)


 5月13~15日までの3日間,東京で「オープンダイアローグ」というケアメソッドのワークショップが開催され,そこに参加してきました()。特定のケア技術習得を目的とした集中講座に参加するのはおそらく10年ぶりくらいの体験だったのですが,大変な知的興奮を覚えました。本稿では,そのワークショップの紹介とともに,このケアメソッドが持つ大きな可能性について私なりの認識を紹介したいと思います。

治癒を目的としない,カンファレンスもしない

 オープンダイアローグは,フィンランドの西ラップランド地方で,当初統合失調症の方に対する治療を目的に開発されたケアメソッドです。そして,その驚くべき効果の大きさが世界に知れ渡ることとなり,ここ日本においても斎藤環氏の著訳書『オープンダイアローグとは何か』(医学書院)をきっかけに,「薬を使わずに統合失調症のつらい症状が改善するらしい」と,臨床心理士,PSW,精神科医その他メンタルヘルスに従事する医療者の強い興味を引くようになったのです。

 オープンダイアローグの実際の手法はかなり破天荒です。まず,症状を持つ当事者(以下,クライアント)に問題が生じると,ケア提供者に連絡が入ります。その後,ケア提供者側は複数人(セラピスト,ソーシャルワーカー,医師など)で迅速にクライアントの暮らす住居に駆け付けるとともに,クライアントの生活に関係する家族や友人にも多数来てもらいます。そこで,何の準備もせずグループでの対話を開始していくというやり方をとります。

 そこで語られる対話は,クライアント自身が困っていたり,他者に話したいと感じたりすることを中心に行われるのですが,ケア提供者とクライアントとの1対1のキャッチボールではなく,ファシリテーターが家族や友人などの関係者をどんどん巻き込んでいきます。

 このプロセスで驚くことがいくつかあります。最も破天荒なのは,そもそもクライアントを治療に導くという意図を専門家側が持たず,ただそこでの対話を豊かにすることのみを重視する,ということです。第二に,専門家同士が事前の相談を一切せず,クライアントに関する専門家同士の相談も,その対話の場でクライアントの目の前でのみ行われます。まさに,全ての対話が“オープン”なのです。

 そのように,みんなで集まってわいわいがやがやと対話を紡いでいくと,なんだかよくわからないけれどクライアントの状況が好転するというのが,オープンダイアローグが現在の臨床に与えているインパクトです。

これはバンドの“即興演奏”だ!

 今回のワークショップの目玉は,なんといってもこのケアメソッドの開発者であるヤーコ・セイックラ教授とトム・エリク・アンキル教授の両氏が来日し,セッションのほとんどをその2人が担当するところです。

 1日目は主にこのケアメソッドを支える哲学的な基盤について,2日目は実際の方法についてのレクチャーが行われました。この2日間も十分に魅力的だったのですが,最終日は実際にクライアントとそのご家族に許可を得た上で,オープンダイアローグのライブを生で見ることができました。

 このライブセッションで,セイックラ氏は司会進行をしていたわけですが,印象に残ったのは,「何が起きているのか?」ということにはあまりコミットせず,「何に困っているのか?」「誰がどう困っているのか?」ということを中心に話を進めていたところでした。これは,セイックラ氏が従来の評価的な視点の枠組みから自由な状態にあることを印象付ける対話の姿勢だったように思います。

 このケアメソッドの開発者の講演や技を実際に目の当たりにして私がまず思ったのは,「これは,あれだ。バンドだ」ということです。クライアントが中心ではあるのですが,みんなが常にクライ...

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