医学界新聞

対談・座談会

2016.05.09



【座談会】

地域における院内救急・救急医療
『medicina』誌53巻6号より

石山 貴章氏
(魚沼基幹病院総合診療科部長/新潟大学地域医療教育センター教授)
濱口 杉大氏
(江別市立病院総合内科主任部長/北海道総合内科医教育研究センター長)
=司会
中桶 了太氏
(平戸市民病院内科/長崎大学病院 へき地病院再生支援・教育機構准教授)


 一般的な救急医療と異なり,院内救急は救急医ではなく,主治医や当直医,場合によっては研修医が対応することが多い。しかしながら,地方病院では医師や医療スタッフの数が少ない上に,検査機器などの設備が十分でないことも多い。『medicina』誌ではこうした地域医療の現状を踏まえ,濱口氏が中心となり「院内救急」と「地域でのマネジメント」に焦点を当てた特集を企画。本紙では,その特集の中から,座談会の模様をダイジェストでお伝えする[座談会全文は『medicina』誌(53巻6号)に掲載]。


院内救急は時間との勝負

濱口 院内救急は自宅などと比べて誰かが急変に気づくのが早く,かつ医療のプロが近くにいる状況ですから,適切な処置が迅速にできれば,予後を大きく改善できる可能性が高いと思います。しかし実際には「2時間前の見回りの時は大丈夫だったのに,2時間後に行ったら患者さんが冷たくなっていた」ということが,しばしばありますよね。

石山 そうですね。そうした症例を1つ,ご紹介したいと思います。

 73歳男性。肺癌・咽頭癌にて永久気管瘻術後,慢性腎不全,心房細動,放射線肺臓炎の既往あり。労作時呼吸困難にて救急外来を受診し,心房細動および頻拍があった。慢性の放射線肺臓炎に合併した急性心不全の診断にて入院。肺炎も否定できず。

 心不全に伴う低ナトリウム血症,血小板低下症,重度の僧帽弁閉鎖不全症,大動脈弁閉鎖不全症および左室駆出率の低下あり。入院後,心不全の治療,肺炎の治療を行う。

石山 急変が起こったのは入院から2週間後です。朝4時半頃に看護師が患者の入眠を確認しているのですが,5時10分に患者がベッド外でうつ伏せになっているのが発見されました。酸素チューブが気管瘻から外れており,心肺停止状態だったようです。看護師は2人がかりで患者をベッド上に移動させてO2を再開し,5時12分にドクターコールがかかって3分後に当直医が到着しました。

濱口 うつ伏せ状態で発見されて当直医が来るまで,胸部圧迫などは行われていましたか?

石山 記録を見る限り,してはいなかったようです。患者さんをベッドに移していた2分間,当直医がかけつけるまでの3分間,計5分間のタイムロスはありましたが,当直医が適切な処置をしてくれたおかげで,事なきを得ました。したがって,院内救急での蘇生という意味ではうまくいったケースなのですが,後でカルテを確認すると,別の問題が浮かび上がってきました。急変の前日についてです。

 朝に主治医が回診した時は特に問題なし。夕方に主治医へ「尿量が少ない」という連絡があったものの,SpO2と心拍数に異常はなく,電話で「ラシックスだけを追加して」という指示が出ていた。夜,患者がポータブルトイレで座位のままぐったりしており,モニターが外れていた。

石山 「ポータブルトイレでぐったりしていた」ということは看護師がカルテに記載していたのですが,担当医に報告はされていませんでした。その2時間後に,「患者にせん妄が出てきた」と拘束医に連絡が入ってセレネースが投与されているのですが,その際にも看護師は「SpO2低下」と記載したものの,やは...

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