医学界新聞

インタビュー

2016.03.28



【interview】

世界中で女性が活躍する社会の実現を願って
ジュディス・シャミアン氏(国際看護師協会 会長)に聞く


 国際看護師協会(ICN;International Council of Nurses)は世界最大規模の保健医療専門職団体である。世界133か国の看護師協会が加盟し,看護の発展,各国の保健医療政策への積極的関与を行うなど,その活動は多岐にわたる(加盟数は2016年1月現在)。本紙では,ICNが現在力を入れている「フローレンス・ナイチンゲール国際基金女子教育基金」の活動や,ICNが今後果たしていくべき役割について,会長を務めるシャミアン氏に聞いた。


――まず,ICNが設立された経緯を教えてください。

シャミアン 看護の概念やその必要性は古くから認知されていたものの,専門職としての看護が各地で組織化され始めたのは19世紀末のことでした。この時代は女性の権利獲得,ヘルスケアの改革が盛んになった時期でもあります。そして女性の権利獲得のための闘争と,看護の組織化の機運が相まって,保健専門職と女性のための世界初の国際的組織として,1899年にICNが設立されたのです。

 現在会員数は1600万人を超えており,「世界の看護を一つにすること」「世界の看護師と看護を強化すること」「保健医療政策に影響を及ぼすこと」を重点目標に据え,さまざまな活動を行なっています。

――どのような活動を行っているのでしょうか。

シャミアン 「専門看護実践」「看護規制」「社会経済福祉」を3つの柱として,各国の看護協会のサポート,看護の発展に寄与すべく努めています。ICNは政府機関やNGO/NPO,各種財団,各地域のさまざまな団体とパートナーシップを組み,協力体制のもと政策などに影響を与えることで,現在抱えるさまざまな課題の解決をめざしています。ICNでは幅広い活動を行っていますが,そのうちの一つが,看護師の親を病気で亡くしてしまった孤児たちのサポートです。

少女への教育機会の提供が生涯所得や乳幼児死亡率に効果

――発展途上国の18歳以下の少女たちの初等教育・中等教育を支援しているそうですね。

シャミアン はい。ICNが主要母体となっているフローレンス・ナイチンゲール国際基金(FNIF)において,2005年に「FNIF女子教育基金(GCEF;Girl Child Education Fund)」を設立し,初年度はケニア,スワジランド,ウガンダ,ザンビアの10人の少女に対して支援を開始しました。GCEFの活動が始まった当時,アフリカではエイズがまん延しており,エイズ患者のケアをする看護師たちがエイズに感染し,亡くなってしまうという事態が起きていたのです。そこで,遺された孤児たちを何とか支援したいという機運が高まり,GCEFが立ち上げられました。

――対象が女子に限定されているのはなぜでしょうか。

シャミアン 発展途上国では生活においても教育においても,男の子が優先される場合が多いためです。孤児となってしまった少女たちにとって,これは悲惨な状況と言えます。ですから,私たちは少女たちの支援を行おうと考えました。

 少女たちに教育の機会を提供することには多くの効果があることがわかっています。例えば,少女が1年間学校に行くことで,生涯所得は10-20%高くなり1),その少女が母親になったとき,子どもの乳幼児期の死亡率は5-10%低下する2)という報告があります。また,サハラ以南のアフリカにおいて,母親が中等教育を終えていれば180万人もの子どもたちの命が救われると見積もられています2)。つまり,少女たちに教育の機会を提供することは,家庭への貢献,ひいては社会への貢献にもつながるのです。

金銭面でのサポートに加え,メンターによるケアを提供

――大変意義のあることだと思います。具体的には少女たちにどのような...

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