医学界新聞

2016.03.28



研究と実践の融合が新たな看護を育む

第30回日本がん看護学会学術集会開催


 第30回日本がん看護学会学術集会が2016年2月20-21日,神田清子会長(群馬大大学院)のもと,幕張メッセ,他(千葉市美浜区)で開催された。学会創立30周年を迎えた今回,「挑戦するがん看護――未来を拓く研究と実践の融合」がテーマに掲げられ, 約5100人が参加した。本紙では,今後のがん看護研究と臨床応用の方向性を提示した会長講演・シンポジウムと,曝露対策の現状と課題が報告されたシンポジウムの模様を紹介する。


神田清子会長
 会長講演「挑戦するがん看護――未来を拓く研究と実践の融合」では,がん看護の質向上に向け,研究成果を取り入れた根拠に基づく実践と,課題を解決する研究,実践と教育の循環および融合の必要性が示された。

 神田氏は,がん対策推進基本計画に掲げられている,「全てのがん患者とその家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上」「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」のために看護師が果たすべき役割は,①研究成果に基づく根拠のある看護支援,②意思決定・セルフケア力を高める支援,③生活の質を高める支援,④地域社会のシステムづくりに向けた調整・連携であるとの考えを示した。

 さらに,過去30年の学会誌掲載論文の分析を基に,今後取り組むべき研究を挙げた。対象別では小児や高齢者,前立腺がんや希少がん,テーマ別では倫理・意思決定,外来看護,相談支援・就労支援などの研究が不足しているという。さらにガイドライン等の作成にあたってはエビデンスレベルの高い論文が必要となる。特に有用なのは介入研究であるが,学会誌論文全体に占める割合は極端に少ない。介入研究は時間・コストがかかり,客観化が必要になるため,共同研究の在り方やビッグデータの活用についても今後は検討が必要だと述べた。

 2025年に全ての団塊の世代が後期高齢者となる日本は,世界のどの国も経験していない超高齢社会を迎える。それに伴い看護の役割は拡大しているが,「がんとともに生きるサバイバーが大切にしている生活や価値観が保てるように,生活を軸にした支援を行う」という役割は時代を超えて変わらないと氏は主張した。がん看護は,①研究と実践の融合による研究の蓄積,②教育・人材育成,③ケアガイドラインの作成と実施に挑戦すべきだと述べた上で,「実践にかかわる研究シーズは臨床看護師だからこそ探すことができる。研究者のみではなく,多くの臨床看護師が研究に取り組み,新しい看護に挑戦してほしい」と語り,講演を締めくくった。

より良い曝露対策実現には調査・研究の共有が肝要

 ガイドライン委員会研修シンポジウム「チームで取り組むがん薬物療法における曝露対策――ガイドライン発刊後半年の現状と課題」(座長=神田氏,国立看護大・飯野京子氏)において最初に登壇したのは同学会ガイドライン委員の平井和恵氏(東京医大)。氏は,ガイドラインの臨床活用とより良いガイドライン作成に向け,各施設での取り組みを共有するとともに,臨床現場が汚染の実態調査や対策の効果検証などの研究的取り組みを公表していく必要性を指摘した。合同ガイドラインの次回改訂は3年後を予定。改訂に向け,現場からの意見・提案を求めた。

 甲田茂樹氏(労働安全衛生総合研究所)は,労働安全衛生の立場から曝露対策の課題を提示した。氏は,以前からハザードドラッグ(HD)の危険性が知られていたのにもかかわらず,国内で対策が進まなかった原因の一つとして,医療者からの事故報告がなく,対策の必要性が国に伝わっていなかったことがあると指摘する。HD取り扱い業務従事者の労働災害や健康障害は,急性・亜急性・慢性にかかわらず正直に分析・報告し,HD取り扱いのリスクとハザード分析に役立てる必要性を訴えた。

10年後を見据え,課題を共有

 30周年を記念して開催されたシンポジウム「10年後のがん看護研究と社会への貢献」(座長=慶大・小松浩子氏)では,今後のがん看護研究・臨床の進むべき方向性が議論された。

 近年のがん医療の発達は目覚ましく,治療適応の拡大,支持療法の充実などにより,患者側のニーズも多様化してきている。その現状を受け,荒尾晴惠氏(阪大大学院)は,「ケアとキュアを融合させ,がん患者の幅広い健康課題に応えられる専門職の知識と技術を創出する研究が,これまで以上に求められている」と話した。その実現のためには,高い研究遂行能力と志を持つ研究者の育成,研究に集中できる環境・体制の整備,さらに異分野を含めた研究者間の連携強化が必要と列挙。氏は「本学術集会を通して,臨床現場の悩みを解決する糸口を研究に求める臨床看護師が多いと再確認した」と話し,積極的に研究成果を示し,がん看護の知識体系を強化していく意義を述べた。

 森文子氏(国立がん研究センター中央病院)は,現場の視点からがん看護領域の課題を提示した。近年,高齢がん患者が増えてきたことで,認知症・認知機能障害を抱えながらの治療や,療養場所・治療継続に関する意思決定支援といった,高齢者特有の問題に対応する場面が増えている。小児やAYA世代のがんも,第2期がん対策推進基本計画(以下,基本計画)に支援の必要性が取り上げられたことを機に,その特性とケアの課題が共有され始めている。幅広い世代の多様なニーズに応えられるよう,森氏は「がん領域に他領域の知識・スキルを融合させていく必要がある」と考えを述べた。

 また,森氏はサバイバーシップ支援の在り方にも言及し,「がん治療後の長期生存が可能になってきたからこそ,患者を支えるケアの視点が重要になっている」と主張。治療後の合併症や晩期障害に加え,就労・就学,セクシャリティの問題などにも目を向ける必要があり,看護師が求められる「場」は病院内だけなく地域・社会全体へ広がっていると指摘した。氏は「看護の力を引き出すのは患者の声」と強調し,現場で出合う声を実りある研究に結び付ける重要性を訴えた。

 最後に登壇したのは,林昇甫氏(Office Hayashi for Medical Innovation Design Works代表・医師)。氏は厚労省の医系技官時代,がん対策推進協議会運営に当たり,基本計画の策定作業にかかわった。基本計画の中で思い入れがあると話したのは,都道府県がん診療連携拠点病院の指定要件として追加された「緩和ケアセンター設置」だ。「認定・専門資格を取得しても適正配置がされず,能力を発揮できない」「病棟業務との並行で,活動日数が制限される」といった背景を踏まえ,「がん看護認定・専門看護師の活躍拠点として専門性を発揮する場所にしてほしいという思いがあった」と吐露。実践を通し,「緩和ケアセンターをよりよいものに育ててほしい」と期待を寄せた。

 また,氏はがんの治療の場が外来へと移行しつつある今,外来患者に対してより手厚い看護を展開してほしいと要望。「密室化」しやすい診察室で医師-患者・家族間に介入できるのは看護師であり,医師には持ち得ぬ看護の専門性を発揮してほしいと強調した。

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