医学界新聞

2016.02.15



地域に応じた周産期医療体制構築を

平成27年度日本産科婦人科学会「拡大医療改革委員会」兼「産婦人科医療改革公開フォーラム」の話題より


海野信也氏
 日本産科婦人科学会「拡大医療改革委員会」兼「産婦人科医療改革公開フォーラム」が1月24日,ステーションコンファレンス東京(東京都千代田区)にて,「地域産婦人科医療提供体制の再構築」(司会=北大・水上尚典氏,りんくう総合医療センター・荻田和秀氏)をテーマに開催された。厚労省が2015年度中に改定予定の「周産期医療体制整備指針」を基に,2016年度以降,各都道府県において「周産期医療体制整備計画」が策定される。本フォーラムでは,整備指針の改定および整備計画の策定に向け,周産期医療体制の現状の共有と今後の取り組みの方向性が検討された。

情報の収集・共有により,適切かつ持続可能な体制を再考する

 第1部では,周産期医療提供体制整備に至る経緯やそれに伴う学会・医会の動向,産婦人科勤務医の待遇改善と女性医師の就労環境に関するアンケート調査結果などが報告された。同学会医療改革委員会の委員長を務める海野信也氏(北里大病院)は,2015年に同学会が公表した「産婦人科医療改革グランドデザイン2015(GD2015)」の目的や基本的な考え方について概説。GD2010策定後の5年間で明らかとなった諸課題の解決に向け,「地域基幹分娩取扱病院重点化プロジェクト」を立ち上げたことを話した。同プロジェクトでは地域の周産期医療提供体制の再構築をめざし,各地域の実情をリアルタイムでモニターし,情報共有・評価が可能となる体制を整備することで,各地の取り組みを支援していくという。北海道,宮城,福島,新潟,富山,石川,福井,福岡において行われた先行調査の結果を踏まえ,第2部では福岡県と石川県の状況が示された。

 村田将春氏(九大病院)は福岡県の周産期医療体制の特徴として,診療所での出生が約7割(全国平均では病院と診療所の割合はほぼ同程度)を占めること,県内でも地域ごとに状況が大きく異なることを挙げた。福岡県は4つの医療圏に分かれており,60歳以上の常勤医が3割を超える地域や,分娩取扱い施設数が1996年比で半分以下の地域があると報告。周産期母子医療センターまで30分以上かかる地域も多く,アクセス不良にも懸念を示した。こうした課題を解決していくために,同県では2016年よりワーキンググループが組織された。今後は,医療従事者から見た医療体制の強化と,妊産婦から見たアクセス改善を念頭に,各地域の状況を正確に把握し,シミュレーションなどを通して施設の配置やマンパワーの配分を検討していくと話した。

 「赴任当初,この地域の周産期医療はいつ破綻しても不思議ではないと感じた」。こう語った藤原浩氏(金沢大)は,石川県の周産期医療体制には二つの課題があると指摘。一つが,大学・基幹病院業務の担い手となる若手医師のリクルートであり,都市部以上に魅力的なキャリア形成プログラムを構築していく必要があると訴えた。もう一つが,指導者層に当たる40歳前後の中堅医師の不足だ。中堅医師の県外への流出を防ぎ,地域での養成が肝要との見解を示した。また,現在石川県では,周産期母子医療センター以外の施設で行われる分娩のうち,36.2%が55歳以上の医師によって担われており,この割合は3年後にはほぼ5割に達すると予想されている。中堅医師は将来的には開業して地域の医療圏を支える層とも言えることから,行政とも連携しながら,産婦人科医が環境的にも経済的にも満足できる体制を構築することが急務であると締めくくった。

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