医学界新聞

インタビュー

2016.01.04



【インタビュー】

健康と安心を守る地域医療構想

松田 晋哉氏(産業医科大学公衆衛生学教室 教授)


高齢化と人口減少が進む日本社会において人々の健康を守るには,地域の実情に応じた持続可能な医療サービスの提供が欠かせない。2015年3月公表の「地域医療構想策定ガイドライン」をもとに,質の高い持続可能な医療提供体制をどう整えていくべきか。今後,全国各地で地域単位での取り組みが本格化する。同ガイドラインの基盤となるデータ整備に中心的役割を果たした松田晋哉氏に,地域医療構想の目的と意義,今後地域の医療者に求められる役割や共有すべき理念について聞いた。


――地域医療構想の策定作業が本格化しています。初めに,この構想の目的をお聞かせください。

松田 地域医療構想は,「病床削減」が目的ではありません。超高齢社会にふさわしい質の高い医療を,地域のニーズも踏まえて適切に提供する。そのために,地域の医療を医療者と住民が自らの意思で作り上げることが,構想の大きな目的となります。

 超高齢社会を迎えた今,急性期の入院に偏重した医療資源の配分のままでは,これからの日本の医療ニーズに対応できなくなるでしょう。来たる2025年の傷病構造に備えるために医療施設の機能分化を進め,より効率的な医療提供体制の構築が必要なことから地域医療構想が進められているのです。

なぜ「地域」の構想が必要なのか

――地域医療構想が想定する「地域」とは,どの範囲を指すのでしょう。

松田 「地域」と言っても,とらえ方はさまざまですね。例えば急性期病院であれば二次医療圏ほどの範囲を想定し,診療所であれば中学校区ぐらいを考えるかもしれません。その中で地域医療構想は,回復期や慢性期の医療提供体制の整備を最大のテーマとしていることもあり,高齢者が車で15-30分以内に移動できる日常生活圏域,具体的には中学校区を2-3個組み合わせた範囲を「地域」としてイメージしています。

――医療者が地域医療を考える上で一つの基準になりそうです。こうした地域単位のもと,改革が求められるのにはどのような背景がありますか。

松田 それぞれの地域に特性の違いが顕著にあるからです。例えば一口に東京と言っても,人口減少が進む北区と多摩市では,一戸建ての占める割合が高い,大規模集合団地が多いなどの違いで,人口構造や将来の人口推移は異なります。一方,湾岸地区の江東区では高層マンションの建設が続き,急速な人口の増加が予想されています。

――限られた範囲でも大きな違いがあるわけですね。

松田 ええ。これが全国ともなれば地域の事情は千差万別です。さまざまな特性や現象がある以上,それに合わせた個別の医療提供体制を考えていかなければならないわけで,そのためには視点を地域ごとに絞った構想が必要になるのです。

医療者・地域住民が将来の地域像を民主的に協議

――地域医療構想の特徴はどのような点にありますか。

松田 DPC(診断群分類)やNDBを用いたデータにより,地域の傷病構造はどうなっているのか,医療提供体制はどうなのかなど,地域における医療の状況が客観的に把握できるようになったことです。高齢化による人口動態の変容で,すでに医療の需給状況にギャップが生じている地域もあります。10年後,20年後にはさらにどう変化するのかを予測し,医療提供者が自ら将来の地域を構想する枠組みができたと言えます。

――構想の具現化に向けて,重視したいポイントはどこにありますか。

松田 今後増加が予測される慢性期の患者を,いかに地域でみていくか。特に焦点となるのは,2025年の医療機能別必要病床数の推計...

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