MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2015.12.14
Medical Library 書評・新刊案内
田中 美穂,蜂ヶ崎 令子 著
《評 者》善村 夏代(NTT東日本関東病院看護部)
実習生の不安を和らげる,著者の愛情がこもった一冊
この本を読んで,お二人の先生方の実習生に対する深い愛情を感じるとともに,こんな本がもっと早く出版されるべきだったのではないかと思いました。机上の学習が臨地に変わることは,実習生にとって地上から大海原に出るようなものです。穏やかな海もあれば荒れ狂う海もあります。どのような実習になるのか予期できず不安は募るばかりです。この不安を解消することは簡単ではありません。
不安が強すぎると実習生は平常心を維持できず,目標や目的を見失い,小さなミスや不安を解決しようと自己学習に励みすぎて混乱し,実習場所に来られなくなることすらあります。しかし,この本に記載されている情報を先取りしていれば,実習生はいたずらに不安を煽られることなく,不安を最小限にとどめることができそうです。
実習生の不安の要因の一つとして,「何のために実習に行くのか」,実習生自身がきちんと動機付けできていないことが挙げられます。本書にもある通り,目的や目標がわからないと,実習生は何をしたらよいのかわからず迷子になってしまうのです。
目標には「患者のゴール」と「実習生がこの実習で何を得るのかというゴール」があります。この二つのゴールを教員も臨地実習指導者も導き出せるように実習生を誘導できれば,充実した実習ができるのではないでしょうか。
実習内容に応じた目的や目標の切り替えも,難しい問題です。最近では,クリニカルパスやDPC導入により入院期間が短縮化され,実習生は情報を分析しただけで看護展開が実践できずに,実習終了となるケースが多々みられます。基礎看護学実習が終了し成人看護学実習,特に急性期看護への目的や目標の頭の切り替えが難しいのかなと感じることがあります。やっと分析したと思ったら,患者さんの状態は刻々と変化し,あっという間に退院です。そのスピード感をどう克服したらよいのか,その点についても記載があると,実習に対するイメージを強化できるように思われました。
本書には人間関係を構築するためのコミュニケーション能力についても記載されています。自分とは世代や立場が違う人々とどのように会話すればよいのか,この能力は突然身につくことではないので,現場でも苦慮します。これは実習生のみならず,社会に出たばかりの新人スタッフにも通じるところがあります。本書では,例えば「初対面の患者さんとの距離の取り方」や「同情と共感の違い」など机上では学ぶことが難しい部分についても,具体例を挙げてわかりやすく解説がされており,「困難な場面」を乗り越えるための貴重なヒントが得られます。
そう,実習では「困難な場面」が必ずあります。患者さんが入浴を拒否する,薬を指示通りに飲んでくれない……本書では,現場で起きている(または起こりそうな)ことと,その対応策が,著者の優しい言葉で語られています。この言葉は,実習生の心にしっかりと溶け込むのではないでしょうか。
お二人の著者が本書に込めた熱い気持ちが,実習生と,現場である臨地実習場に届きますように。
A5・頁128 定価:本体1,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02076-3


井部 俊子,大生 定義 監修
専門看護師の臨床推論研究会 編集
《評 者》村上 靖彦(阪大大学院准教授・人間科学・現象学)
専門看護師が複眼的視点で重層的な流れを調整してゆく
初めは見慣れない体裁に戸惑ったが,途中から電車を乗り過ごしそうになるほど没頭して一気に読み進めることができた。本書は「はじめに」と14人の専門看護師による24の事例の報告と分析と終章,2人の監修者による序章と「おわりに」から成る。各章では,多様な病棟で出会った1人の患者のケアをめぐって,専門看護師が自らの実践を時系列で記述するとともに,そのとき「考えたこと」を並行して書き留めている。さらには看護師の判断の根拠となる技術的・法的な説明も項目が設けてある。
このように,具体的な状況とそれに応じた実践,その背景にある専門看護師の思考(推論,判断),その根拠が工夫されたレイアウトで提示されることで,複雑な臨床場面で何が起こってどのように専門看護師が実践を組み立てたのか,複眼的に理解できるように工夫がされている。「見慣れない体裁」はこの重層性を一冊の書物で視覚化しようとした工夫に由来する。
実際の現場では極めて多様な役割を専門看護師が担っているであろう。患者と家族の関係の調整,医療者と患者の調整,難しい病状のアセスメント,見通しが立ちにくい中での治療計画の作成など,ミクロな視点からマクロな視点までを持ち得る存在としての専門看護師のスキルは本書からも十分にうかがえる。そもそも専門看護師は日常の業務では解決しきれない困難な事例を任されるであろうから,当然それぞれの事例の個別性は高い。そして本書はその個別性の高さがとても高い価値をもっている。まとめて紹介しても良さが伝わらないので,特に印象に残った事例を一つ紹介したい。
慢性疾患看護専門看護師の米田昭子さんは,喘息,大動脈弁狭窄症,2型糖尿病をもつOさんを担当することになる(以下の「 」内はp. 109-15からの引用)。Oさんは10年来の患者だが予約日には受診せず,かと思うと処方した薬がすぐになくなって来院する。しかも待ち時間が長いと帰ってしまう。「コンプライアンス不良」と医師からみなされて米田さんに紹介され,それ以後時々米田さんのもとを訪れてくるようになる。
医療者の目には「病識欠如」で言うことを聞かない難しい患者なのだが,米田さんは在宅で独居しているOさんを「病人ではなく,慢性疾患とともに生きてきた生活者としてとらえる」ことで,Oさんの視点から考えようとする。こうして(セルフケアができないはずなのに!)ア...
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