オープンエデュケーションの可能性(重田勝介)
寄稿
2015.12.14
【寄稿】
オープンエデュケーションの可能性
ウェブ公開の教材を活用した,学習環境の新たな展開へ
重田 勝介(北海道大学情報基盤センター准教授)
今,教育の世界ではオープンエデュケーションが注目を集めている。オープンエデュケーションとは,教育をオープンにして学習機会を促進する活動を指す。オープンエデュケーションにかかわる活動には,教育に用いるツールやビデオ講義で使用する教材の共有,開かれた学習グループの運営や学習を評価するツールの共同利用などが含まれる。対象とする教育分野や内容は実に幅広い。学校や大学の正規授業にとどまらず,例えば仕事や家庭生活,余暇に関連した日常生活の結果としての学習,いわゆる「インフォーマル学習」もその対象に含まれる。
オープンエデュケーションのキーワードの一つとなるのが,「オープン教材」を意味するOER(Open Educational Resources)だ。OERとは,ウェブ上で公開されるあらゆる教育用素材を含む概念で,文書や画像,動画,電子教科書といったデジタル教材など,さまざまな形態を含む。OERはウェブ上に無料で公開される教材の代表例であり,中でもウェブ上で公開・共有される教科書をOpen Textbook(オープン教科書)と呼ぶ。この他,オープンエデュケーションの活動には「OERの制作」「OERの公開」「OERで学ぶ学習コミュニティ」などがある。
「オープン」の持つ3つの意味
OERのO,すなわち「オープン」が指す意味として,「オープンアクセス」「オープンライセンス」「オープンシェアリング」の3つがある。
1つ目のオープンアクセスは,教材は無償で自由に取得でき,誰もが教材を作成できるという意味を含む。学校や大学などの教育機関に限らず,何らかの専門性を持った個人や団体が,教育学習のためにウェブ上に公開する教材は全てOERと言える。
2つ目のオープンライセンスは,教材の再利用をしやすくするライセンス形態を取ることである。OERの幅広い利用を促すには,教材を用いる学習者に対し,教育目的に応じた教材を一から作るよりも,今ある教材を再編集して作り替えるほうがはるかに効率的である。そのため,多くのOERでは編集や翻訳などの再利用が認められており,クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのような二次利用条件を示すライセンス表示が付与されている。
そして3つ目のオープンシェアリングは,制作したOERをウェブ上で幅広く共有することを指す。大学が正規講義の教材や講義ビデオをOERとして公開するオープンコースウェア(Open Course Ware;OCW)や,アイチューンズ・ユー(iTunes U),カーン・アカデミー(Khan Academy)などのように,企業や非営利組織がOERを公開する事例もある。
OERの活用で,“学び合う”コミュニティを形成
OERを使った学習を促進するため,OERを使って学び,相互に教え合うような学習コミュニティがウェブ上に設けられている(図)。この代表例が「オープン・スタディ(Open Study)」である。これは,ウェブ上に開設された学習用サイトであり,数学や物理,化学など科目ごとに設けられたページ上で,相互に質問を投稿して回答を募ることができる。それによって質疑応答やディスカッションまで行えるのだ。また最近では,このようなコミュニティで学んだ学習成果を認証する仕組みも提案されている。代表的なものが「デジタルバッジ」である。デジタルバッジとは,学習者の能力を判定することができる教育機関の運営者などが,ウェブ上の学習......
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