医学界新聞

2015.11.30



Medical Library 書評・新刊案内


感染症疫学ハンドブック

谷口 清州 監修
吉田 眞紀子,堀 成美 編

《評 者》岡部 信彦(川崎市健康安全研究所長/元・国立感染症研究所感染症情報センター長)

「明日の日本の実地疫学を育てる」思いから生まれた実践書

 感染症疫学とは,文字通り感染症を対象として,その感染症が「1)普通ではない状況にあるとき」「2)予想外の問題が発生しているとき」「3)社会的にインパクトがあり公衆衛生的対策が必要なとき」「4)迅速な対応が求められるとき」などに,担当者が“発生現場で”その原因を追究し(犯人の特定とは異なる),再発防止策を提言するために駆使する疫学です。これはすなわち,実地現場での疫学――FieldでのEpidemiologyである,と言えます。

 近年エボラ出血熱,MERSなどが国内外で大きな話題となりましたが,そのような場面ではもちろん患者の診断と治療がまず重要です。診断と治療は医療の担当ですが,その拡大の防止,そして火を消し,再発防止のための方策を考えることが,実地疫学の担当になります。

 かつて腸管出血性大腸菌感染症O157の大規模な広域集団発生があったとき(1996年),わが国には実地疫学を担当する専門家はおらず,当時の調査対策に当たった人々はほぞをかむ思いでした。この出来事を大きなきっかけとして1999年に伝染病予防法に代わって,感染症の発生を予防し,及びそのまん延の防止を図り,もって公衆衛生の向上及び増進を図ることを最大の目的とした感染症法が施行されました。同時に新たに発足した国立感染症研究所感染症情報センターでは,感染症のアウトブレイクに対応するための実地疫学者を育てるFETP-J(Field Epidemiology Training Program, Japan)をスタートさせました。本書『感染症疫学ハンドブック』の監修者である谷口清州氏はそのFETP-Jを立ち上げから担当した一人であり,編集の吉田眞紀子氏,堀成美氏および各項目の執筆担当者は,皆FETP-J修了生です。FETP-Jは医師が多数ですが,臨床検査技師,薬剤師,看護師,獣医師など職種はさまざまです。

 それぞれが自分たちの経験を伝え,明日の日本の実地疫学を育てようと思って作り出したのが本書で,その思いがあちこちに詰まっています。総論を書いて下さったJohn Kobayashi氏は実地疫学専門家として国際的によく知られている方で,長くFETP-Jの指導に当たられ,感染症疫学そしてField Epidemiologyはどういうものかを私たちにたたき込んでくれました。本書の帯には「『予見可能だったのではないか』『初動は適切だったか』――感染症アウトブレイク発生時のデータの集め方,解釈の仕方,伝え方を学んで,効果的な対策につなげるための実践書」とあります。職種を問わず「感染症を何とかしたい」という思いを持っている方,ぜひ本書をご一読ください。

A5・頁320 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02073-2


診療情報学 第2版

日本診療情報管理学会 編

《評 者》髙久 史麿(日本医学会会長)

医療の質向上に大きく寄与する一冊

 2005年4月に施行された個人情報保護法によって,患者の個人情報は原則として患者自身に帰属するものであることが明示された。一方,病院医療の現場では,チーム医療の推進のために,診療に関する情報の一元化と共有化が強く求められるようになった。そのような状況下にあって個人情報をどのように保護するかが大きな課題となった。

 このような問題への対応として,2010年9月に,日本診療情報管理学会の編集による『診療情報学』が医学書院から刊行された。

 本書は,わが国の診療情報分野の専門家,実務の担当者によって編集・執筆された,診療情報に関して医療の現場が直面する諸問題をまとめたわが国初の大著であり,医療の管理者から現場の従事者に至る,全ての医療関係者にとって必読の本となった。その意味で本書はわが国の医療の質の向上に大きく寄与したと言っても過言ではないであろう。

 本書の初版は,発売2年目の2012年3月に第2刷となっており,このことも本書がいかに医療の現場で広く利用されてきたかを示す事実と言えよう。

 しかし,本書の初版が刊行された2010年から2015年の5年間に,診療情報をめぐる環境は大きく変化した。その例としてレセプトの電算化,急速な電子カルテの普及,DPCデータやナショナルデータベースの活用など,診療情報のIT化の動きの加速が挙げられる。さらにICD-11改訂,災害時診療記録の在り方など,診療情報の内容に関してもさまざまな新しい動きがみられている。

 また,地域包括ケアシステムの導入によって,診療情報の取り扱いには,より一層慎重な対応が求められるようになっている。

 このような状況の変化を受けて,日本診療情報管理学会は,本書の第2版を刊行することとなった。第2版は初版と同様に,I.診療情報学総論,II.診療情報の価値を高めるためのシステムと評価(診療情報学と応用),III.診療記録の種類と記載法,の3部によって構成されており,上記に例示した診療情報をめぐる最近の環境の変化に対応した新しい概念,知識,技術が診療情報の専門家によってわかりやすく,かつ詳細に記述されており,初版と同様に医療従事者にとって必読の書となっている。

 初版と同様に,第2版がわが国の医療情報のハンドブックとして医療の現場で広く利用されることによって,医療の質の向上に大きく寄与することを強く期待している。第2版を編集された日本診療情報管理学会,特に学会員をはじめとする執筆者の方々に心からの敬意を表して本書の書評の締めくくりとしたい。

B5・頁488 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02397-9


乳幼児健診マニュアル 第5版

福岡地区小児科医会 乳幼児保健委員会 編

《評 者》五十嵐 隆(国立成育医療研究センター理事長)

的確な指導に必要な知識をわかりやすく解説

 小児科医は子どもの総合医です。小児科医を長年やってきて,他の診療科の医師,とりわけ内科医と比べると,小児科医は臓器別ではなく子どもに関する全ての問題に対応しようとする姿勢が鮮明に記憶に残っています。では,他の診療科の医師...

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