医学界新聞

2015.11.23



Medical Library 書評・新刊案内


糖尿病に強くなる!
療養指導のエキスパートを目指して

桝田 出 編

《評 者》和田 幹子(NPO法人西東京臨床糖尿病研究会理事/けいゆう病院看護部統括師長)

痒いところに手が届き,振り返りにも役立つ

 “療養指導のエキスパート”には,患者さんの心理状態を踏まえた個別指導ができ,糖尿病教室での集団指導の講義内容もわかりやすく,カンファレンスでも専門的知識に裏付けられた根拠をもって積極的に発言して糖尿病医療チームを牽引する……というイメージがあります。この本は,隅から隅まで読むことで,「熟練者」であり,「専門家」でもあるエキスパートになれる! と思わせる一冊です。

 私が糖尿病ケアの初心者だったら,第1章,第2章の基礎的な部分を,専門用語などが解説されている“NOTE”を使いながら,重要なところに付箋をたくさん貼って読み進めます。そして,患者さんへの個別指導のときはもちろんのこと,カンファレンスのときも,糖尿病教室のときも,すぐ開けるように近くに置きます。そして来たるべき療養指導士の認定に向けて,付録の自験例の記録を参考に,自分が指導した患者さんを思い出しながら事例をまとめます。

 すでに療養指導士として2回更新している私の活用方法としては,まず“COLUMN”で最新の知識やトピックス,今取り組む必要がある災害対策などを確認します。次に,第1章,第2章で「糖尿病の基礎知識」や「糖尿病の症状と治療」を復習します。本書は「このようなことがある」というところから,「どう対応すればよいか」まで述べられています。例えば,“よくある質問と思い違い”には,患者さんからよく聞かれる質問や,療養指導士の資格を持っていても回答に迷う事柄がまとめられています。「そこが知りたかった!」ことへの理解が深まり,後輩の療養指導士の指導にも活用できます。

 そして,さらに療養指導の質を上げるべく,第3章,第4章を基にセルフケア支援や合併症を持つ患者さんの支援について,これまでの自分の指導を振り返り,「自分が行った指導が患者さんのためになっていたか」「患者さんのセルフケアを支援していたか」「チームで取り組めていたか」などを評価します。実際,本書を読むことが,これまでの指導の中で根拠のある知識を患者さんの個別性に合わせて真摯に伝えてきたか,患者さんのこころのケアが十分にできていたか,自己の姿勢を見直す機会となりました。

 痒いところに手が届き,振り返りにも役立つ本書は,療養指導のエキスパートをめざす一人としてもとてもお薦めの一冊です。

B5・頁224 定価:本体2,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02102-9


ヘスとカクマレックのTHE人工呼吸ブック 第2版
Essentials of Mechanical Ventilation, 3rd Edition

田中 竜馬,瀬尾 龍太郎,安宅 一晃,新井 正康 訳

《評 者》卯野木 健(筑波大病院教授/集中治療室・救急外来看護師長)

人工呼吸をきちんと知るうえで何を知っておくべきか?

 看護師でヘスとカクマレックといってわかる人はよほどの「呼吸好き」であろう。本書は,米国で著名な呼吸療法士であるヘスとカクマレックによって書かれた人工呼吸に関する本である。原題は“Essentials of Mechanical Ventilation”であるが,単なる入門書と勘違いしてはいけない。むしろ内容はさらりと読んで理解できる本ではない。しかし,人工呼吸をきちんと理解するうえで押さえなければならない重要な基礎が凝縮されている。

 まず,ページをめくってみると,数式が目立つ。一般的に,入門書では「数式はできるだけ避けるべし」というのが,わかりやすい本をつくるときの常識なのであるが(医師向けの場合はどうだかわからない),本書では気にせず数式が記載されている。私はこのことが本書の重要な特徴だと思う。ここに記載される数式は本当に重要なことが詰まっている。例えば,PaCO2が変化すると,私たちはどうして変化したのかあれこれ考えるが,式によれば,PaCO2は二酸化炭素産生量と肺胞換気量から決まるのである。あれこれ考える必要もない。二酸化炭素産生量と肺胞換気量のことを考えれば済むのである。

 私たち看護師は,人工呼吸の勉強といえば,「わかりやすい」「理解しやすい」本を選び,そこに書いてあるように理解し,後は困ったときだけ聞いたり勉強したりしがちである。そのため,本質的な基礎を押さえられていないことが多い。本質的な基礎が押さえられていれば,後は応用問題で,基礎の部分から答えを導き出せばよい。しかし,基礎が押さえられていないと,どうしても解き方だけを知りたがってしまう。グラフィックモニターはそのよい例で,基礎的な換気のメカニズム(その多くは数式によって単純に表されている)が押さえられていればわかることなのだが,そこが押さえられていないと,「波形の見方」だけを覚えてしまう。当然だが,グラフィックモニターで表される波形は,さまざまな条件によって異なるので,「あのときはどう解釈すれば?」「このときはどう解釈すれば?」のようになってしまう。

 と,偉そうなことを書いてしまったかもしれないが,個人的なことを言うと,昔,換気力学を学ぶのに関しては本当に苦労した。まとまっている本もなく,かつ,物理も得意でない私にとっては非常に大きなハードルであった。さまざまな本をつぎはぎしながらノートをまとめ,数年かかってやっと理解した気になっていた。月並みな言い方であるが,「当時こういう本があったらよかったのになぁ」というのが率直な思いである。

 換気力学に関して長々と書いたが,この本はそれだけではない。さまざまな患者に対する人工呼吸管理や臓器への影響,栄養,モニタリングの実際的な側面に関しても多くのページを割いてあり,それらは最新の知見も含めて記載されている。

 看護師の立場で言うと,この本は読めば人工呼吸のことが簡単にわかるという類いの本ではないと思う。ただ,人工呼吸に関してきちんと知りたい人は,この本に書かれている内容を理解できるように努めるとよい。何よりも,何を知らなければならないのか,がこの本には書かれている。この本を基盤にして,わからないことは調べて,本書が理解できるように勉強するというのがお薦めの使い方である。最後になるが,このような専門書の訳は非常に難解になることが多い中,本書はとてもわかりやすく訳されていると思う。値段を見て,高いと思われる人もいるかもしれないが,一般的なセミナーの半分程度の値段でしかない。人工呼吸をきちんと勉強したい人には,この本は数十倍の価値があるはずである。ぜひ,この本が,真っ黒になるまで書き込んで勉強してほしいと思う。

B5変・頁432 定価:本体5,000円+税 MEDSi
http://www.medsi.co.jp

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