MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2015.11.16
Medical Library 書評・新刊案内
日本肝臓学会 編
《評 者》沖田 極(周南記念病院名誉院長/山口大名誉教授)
日本肝臓学会の英知を集めた肝癌診療のバイブル
B型肝炎は核酸アナログ製剤,C型肝炎は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の導入により,多くの患者で鎮静化を図ることが可能となった。したがって,肝炎から肝硬変へ,また肝細胞癌への進展抑制は確実に図られることになるが,現時点で肝線維化の強い(F3,F4)慢性肝疾患患者においては“死に至る病”である肝癌からの解放が残された課題である。日本肝臓学会は2000年から「肝癌撲滅」をスローガンに掲げ,『肝がん白書』の発刊や各地域で「市民公開講座」を開催し国民に対する啓発活動を行うとともに,肝癌診療に当たる医師向けには『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』(日本肝臓学会編),さらには『肝癌診療マニュアル』(日本肝臓学会編)を出版してきた。この2冊のテキストに『臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約』(日本肝癌研究会編)を加え,肝癌診療におけるバイブルとして肝癌専門医のみならず一般医家にとっても必携の書物となっている。国立がん研究センター「がん登録・統計」によれば,肝癌の年間死亡者数は2002年の3万4000人超をピークに減少し,2014年には3万人弱(2014年がん統計)と改善している。
さて,『肝癌診療マニュアル』第3版がこのたび上梓された。本書の特徴は肝癌について予防から診断,治療に至るまで科学的に実証された事実をConsensus Statementとして簡潔に冒頭に掲げていることで,これだけを読んでも肝癌診療におけるわれわれの姿勢がどうあるべきか理解できるようにアレンジされている。それぞれのStatementに対しては第1章から第10章にかけてその根拠が具体的に説明されている。必ずしも肝疾患を主体に診療を行っていない医師にも「第1章 D.肝癌の疫学とハイリスク患者の設定」だけはぜひとも読んでいただきたい。肝癌の早期発見が生存率の改善をもたらすことは,取りも直さずハイリスクの患者群を早期発見という“まな板”にいかに早く乗せるかであり,そこから本書の各論に記載された内容が実行されていることをご理解いただきたい。本書の中で,必ずしもエビデンスレベルの高くないものも記載したと断ってあるが(p. xv「本書の記載内容について」より),『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』作成に着手した2002年頃は,日本からのエビデンスレベルの高い発表論文が少ないため欧米の論文を中心にガイドラインを作成したことも一因である。例えば,日本では一般的な肝癌診断におけるAFPの意義や治療におけるTACEの評価は,米国肝臓学会(AASLD)ガイドラインでは必ずしも高くない。
本書のもう一つの特徴は,わが国の肝臓病理医によって明らかにされた早期肝癌や数cm大の小肝癌をいかに診断するかという極めてハイレベルな診断技術や治療の数々がねちっこく紹介されていることである。「第6章 B.肝癌診療のためのステージングシステム」の項で「大型の肝癌しか発見できないような欧米のシステムにおいてはCLIP scoreやBCLC stageが有効であるが,わが国のように小肝癌が多数検出されるような国においてはJIS scoreが最も威力を発揮する」(p. 76)と記載されているが,欧米に比べ診断や治療のレベルの高いわが国では欧米のガイドラインを過大視することもない。評者としては,日本肝臓学会の英知を集めて上梓された本書をぜひとも英文化し,圧倒的に肝癌患者の多いアジアでの肝癌撲滅に役立てていただくことを願っている。
B5・頁216 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02167-8


NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会 編
《評 者》藤沼 康樹(医療福祉生協連家庭医療学開発センター長/千葉大大学院看護学研究科附属専門職連携 教育研究センター特任講師)
母乳育児のエンサイクロペディア
地域基盤型プライマリ・ケア担当総合診療医である家庭医は,年齢,性別にかかわらず,さまざまな健康問題の相談に乗り,共に問題の解決や安定化に取り組む仕事である。したがって,発熱や下痢で来院した患者さんで「今,授乳中なんです」という方も,毎日普通に診療している。そうした場合は,ウイメンズヘルスに特に関心のある家庭医でなければ,処方薬剤の母乳への移行だけが気になる程度であろう。例えば,「薬を飲む場合は母乳はあげないほうが良いでしょうか?」という質問にしばしば出合うが,この質問に自信をもって答えるためには,母乳育児に関する深い知識が必要である。実は乳腺炎などの明らかな異常がない限り,母乳育児に関する相談のために産婦人科や小児科に相談に行くということは一般的ではない。また,一般の病院や診療所に助産師が常駐しているという状況はほぼないので,「うまく母乳でやれていますか?」のような質問を家庭医が気軽にできるようになると,敷居の低い育児支援が...
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