医学界新聞

寄稿

2015.10.26



【寄稿】

統合ケアに向けて,病院と地域をつなぐ
北区地域包括ケアシステム構築における訪問看護師の役割

平原 優美(日本訪問看護財団立あすか山訪問看護ステーション統括所長)


 東京都北区は人口34万人(2015年10月時点),東京都23区内で高齢化率が最も高く,25.5%と推計されている。65歳以上は現在 8万6898人,75 歳以上の単身世帯割合も53.0%と見込まれており,孤独死なども大きな課題となっている。この北区で私は25年間,訪問看護師として地域にかかわっている。

 私の勤務する日本訪問看護財団立あすか山訪問看護ステーションは現在利用者が256人(介護保険利用者94人,医療保険利用者162人)と,小児から高齢者まで全ての疾患・障害を持つ対象者に訪問看護を提供している(2015年8月時点)。さまざまな地域のネットワークにも積極的にかかわっており,3年前から重症心身障害児者に関して顔の見える関係づくりに力を注いでいる。その実績をもとに昨年度は厚生労働省の「重症心身障害児者の地域生活モデル事業」の委託を受けた。

 本稿では,北区のCommunity-based care(地域を基盤としたケア)の取り組みを対象別に整理し,訪問看護師としてどのようにかかわっているか説明する。

訪問看護師が地域で果たす役割――北区における4つの活動

1.高齢者の疾病・障害の予防
 大きな疾患・障害を持っているわけではない高齢者の心身機能の低下を予防し,地域とのつながりを持てるようにする支援は,その地域の底力が反映される。北区には,「ふれあい交流サロン」や「おたっしゃ教室」など,引きこもりがちな高齢者がいつでも安心して交流できる場や,滝のある緑豊かな公園内に健康づくりのための簡単な運動や入浴などをして1日を楽しく過ごせる「老人いこいの家」がある。「高齢者ふれあい食事会」はこれまでに29会場で開催され,約700人が参加している。

 訪問看護師は地域包括支援センターと一緒に「住み慣れた我が家で生きて逝くために」というテーマで住民を対象とした講演活動を行っており,北区での在宅看取りの様子を交えながら話してきた。自分の最期の場所を意思決定できるようになるためには,地域を支える社会資源や在宅における緩和医療と多職種チームでのエンドオブライフ・ケアを十分理解する必要がある。このことは高齢者が今後生きていく姿勢にも影響を及ぼす。講演には介護者も多く出席している。家族の看取りに向けて気持ちが揺れていた介護者が,「人が本来持っている生きていく力と死にゆく力」の話を聞いたことで,病院ではなく在宅での療養,看取りを選択したケースもあったと後で聞いた。

2.疾病・障害の早期発見と早期治療
 認知症患者や独居高齢者は生活自体が貧弱で,少しの変化が疾患の発症や生活障害を引き起こしてしまう。北区では65歳以上の高齢者と,障害者手帳を持っている人に「救急医療情報キット」を配布し,医療情報の共有により不必要な救急医療や入院を予防している。「北区おたがいさまネットワーク」では,地域包括支援センターや民生委員,協力員(商店街,警察署,消防署など)により,希望があった75歳以上の独居高齢者を対象として月2回程度の見守り訪問を行っている。認知症カフェでは区民900人以上からなる認知症サポーターも活躍し,地域に安心を提供している。

 また,行政からの委託を受けた「高齢者あんしんセンターサポート医」が4人,それぞれの担当生活圏域で,地域の相談,独居高齢者・認知症高齢者への訪問や,介護保険の主治医意見書作成を行い,医療・介護につなげる役割を果たしている。訪問看護が早期に対応できるのも,この高齢者安心センターサポート医との連携のおかげである。「顔の見える連携会議」では,郵便局の窓口の職員が高齢者の毎月の年金引き落とし場面を見守り,様子の変化に気が付いたら地域包括支援センターへ連絡する...

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