若手心臓血管外科医の集い「U-40」(渡邊隼)
寄稿
2015.10.12
【寄稿】
「3つの笑顔」をめざす
若手心臓血管外科医の集い「U-40」
渡邊 隼(日本心臓血管外科学会U-40代表/小倉記念病院心臓血管外科医長)
一人前の心臓血管外科医をめざす若手心臓血管外科医は,皆,各施設で懸命にトレーニングに励んでいます。しかし,2年間の初期臨床研修を終え,専攻医として心臓血管外科のトレーニングを開始しても,「どのようなキャリアプランを立てるべきか」「どんなトレーニングを受けるのが適切か」等,明確な指標が示されていないという現状があります。診療行為自体にも施設間差異が多いため,「自分と同じような立場でトレーニングを受ける若手医師がどの程度の到達度であるのか」「自分の行う診療行為は本当に正しいことなのか」もわからないままに,孤立した状態でトレーニングを続けている状況もあるのです。こうした現況を変えることを一つの目的に,若手心臓血管外科医から成る「U-40」(アンダーフォーティー)という組織が立ち上げられました。
学会公認の「若手による若手のための会」
U-40の正式名称は,「日本心臓血管外科学会U-40;The Japanese Society for Cardiovascular Surgery Under-Forty)」です。2014年2月,日本心臓血管外科学会が設立した,満40歳以下の若手日本心臓血管外科学会員で構成される,学会内の正式な若手組織です。「学会公認の若手心臓血管外科医の会」とイメージしていただけるとわかりやすいでしょうか。
日本心臓血管外科学会では,U-40設立以前より,学会運営に当たって若い医師の意見を尊重しており,学会理事会にも試験的に若手会員をオブザーバーとして出席させていました。その経験を踏まえ,より多くの若手会員の意見を集約し,若手同士の交流促進と知識技術の獲得機会の提供をめざして,公式の若手組織の設立に踏み切ったという経緯があります。活動に対する最終決定は学会理事会の承認を必要としますが,活動そのものは若手自身から選出された幹事を中心に若手主体で行われており「若手による,若手のための会」として運営がなされています。
U-40は全国8支部(北海道,東北,関東,東京,中部,近畿,中四国,九州沖縄)に分かれ,計43人の幹事が各地区に任命されています。活動理念を「患者,メディカルスタッフ,心臓血管外科医の3つの笑顔の実現に貢献する」として,14年度は活動の基盤づくりに注力し,今年度は「集める! 繋げる! 育てる!」をテーマに現場での活動も開始しています。
主体となることで,熱気が生まれた
われわれが最も力を入れている活動が「U-40支部毎Basic Lecture Course」。全国8か所にある各支部毎に開催し,同地区の若手が企画運営を担う,U-40会員対象の勉強会です。
Basic Lecture Courseの構成は,午前中に座学セッション,午後に実技セッションとなっています。座学セッションのテーマは「基礎的な臨床知識であること」を基準に支部ごとに設定。参加者が各テーマに対するレクチャーおよびグループディスカッションを通し,双方向的な討論を体験しながら実臨床で役立つ知識を身につけられることが狙いです。ただ座って聞いているだけの会とならないよう各地区が工夫を凝らして運営しています。また,実技セッションでは,豚心臓を用いて手術手技の練習を行うウェットラボを中心に,各支部の地域のエキスパートから実践指導を受けます。手術室という実臨床の場ではなかなか聞きづらい指摘も得られる,貴重な機会となっています(写真)。
U-40支部毎Basic lecture courseの模様 |
左:グループディスカッションの様子(東京支部)。 右:地域のエキスパートが講師となって手取り足取りで手術手技を指導する(九州沖縄支部)。 |
今年度はすでに中部,東京,九州沖縄の3地区でBasic Lecture Courseが開催されましたが,いずれも多数の若手会員が参加し,既存の地方会にはない熱気に包まれ,活動の手応えを感じています(今後,近畿,関東,東北,中四国,北海道の支部でも開催予定)。われわれのような若手世代は,日常業務に追われ,全国学会への参加が難しい状況にあったり,参加しても若さゆえに,挙手での発言をためらわれたりしていたこともありました。しかし,運営・参加を若手が主体的に取り組むようになったことで,前のめりに学ぶことができるようになり,“熱気”が生まれたのだと考えています。従来の教育環境に問題があったというわけではありませんが,より充実した環境をつくっていくことに躊躇は必要ないと思っています。引き続き,U-40支部毎Basic Lecture Courseを通し,学び,そして若手間の交流が活発になる場づくりに貢献していきます。
若手から,心臓血管外科医療を変える提言を
さらに,U-40の役割として挙げたいのが,集約した「現場にいる若手の生の声」を“上”へと届けることです。従来から学会が若手の意見を尊重しているとはいえ,意思決定そのものは理事会および評議員委員会の中で行われており,若手の意見の検討を直接的に要請し,反映にまで結び付けるのは困難でした。しかし,U-40設立後,U-40代表は日本心臓血管外科学会理事会にオブザーバー出席できるようになりました。つまり,U-40を通し,若手の意見を理事会へ提案することが可能になったのです。
冒頭に述べたとおり,心臓血管外科医をめざす医師には不安も多々あります。例えば,現在進んでいる新たな専門医制度の議論。専門医取得前後のトレーニングシステムに変化をもたらす可能性があるため,若手医師にとっては不安材料の一つです。どのようなトレーニングシステムであるべきか,またはそのシステムを進めるためにどんなフォローが必要なのか。若手も当事者目線で課題を考え,伝えていくことによって,より良いシステムを作ることもできるのではないでしょうか。
そこで,われわれは若手の意見集約に力を入れています。Basic Lecture Courseもそうした機会の一つになっていますし,その他にも意見集約・現状調査を目的とした全国アンケートを実施しています。また,幹事が各地区に散らばっている状況を生かし,各地区の実際の現場の意見を抽出することを行なっています。いずれの取り組みもまだ発展途上ではありますが,今後,U-40の活動に対する理解が深まり,活動を洗練させていくことで,心臓血管外科医療に有意義な「U-40ならでは」の提言をできることになるだろうと期待しています。
*
今後は,他学会や国際学会の若手セッションとのコラボレーションも予定中です。U-40は,若手が「患者」「メディカルスタッフ」「心臓血管外科医」の3つの笑顔を純粋に願う気持ちを形にできる可能性を持つ,学会内の正式な組織です。活動の基盤整備,周知もまだ不十分ではありますが,幹事一同,有意義な活動となるよう努めていきます。
◆参考URL
1)日本心臓血外科学会U-40ウェブサイト.
わたなべ・しゅん氏
2005年愛媛大医学部卒。倉敷中央病院で初期研修,心臓血管外科修練医,チーフレジデントを経て,12年より小倉記念病院へ異動。13年から日本心臓血管外科学会U-40代表を務める。人格,手術手技共に優れた心臓外科医として臨床の現場で患者本意の医療を実践することが第一の目標。将来的には,より良い心臓外科医療システム,教育システムの構築を通じ,患者・メディカルスタッフ・心臓外科医が皆で協力し合い,笑顔で過ごせる心臓外科界を創ることに貢献したいと考えている。
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