医学界新聞

寄稿

2015.08.31



【寄稿】

高齢者の脆弱な皮膚を守る
スキンテア(皮膚裂傷)の予防策

紺家 千津子(金沢医科大学看護学部教授・成人看護学/日本創傷・オストミー・失禁管理学会学術教育委員会 (オストミー・スキンケア担当)委員長)


 気をつけてケアをしていたにもかかわらず,高齢者などの脆弱な皮膚が裂けて創傷ができることがある。この創傷を海外ではskin tear(スキンテア)と呼び,疫学調査やケアガイド作成がなされている。一方,本邦ではスキンテアに対する認識が乏しく,加えてそのケアに関する指針がないため,予防や発生時の対応に難渋している。さらに,医療従事者などの不適切なケア行為により受傷したのではないかと,家族が不信感を抱く恐れもある。

 そこで,超高齢社会の本邦においてもスキンテアを周知し,療養者およびその家族が安心できる対応を実現するために,日本創傷・オストミー・失禁管理学会では2013年より予防と管理方法について検討してきた。本稿では主に予防策について述べたい。

本邦初の全国実態調査結果

 摩擦・ずれによって,皮膚が裂けて生じる真皮深層までの損傷(部分層損傷)をスキンテア(皮膚裂傷)という。具体的には,四肢がベッド柵に擦れて皮膚が裂けたなどの創傷である。日本語版STAR(Skin Tear Audit Research)スキンテア分類システム1)にて,皮弁の有無と皮膚あるいは皮弁の色調によって5つに分類できる。この創傷は,主に高齢者の四肢に発生しやすく,非常に強い痛みを伴うため,予防が重要である。

 予防策を講じるためには,まず本邦の現状を把握する必要がある。そこで,当学会員のストーマ療法士(以下,ET)と皮膚・排泄ケア認定看護師(以下,WOCN)が在籍する施設で,2014年10月1日-11月30日の任意の1日においてスキンテアを有する患者を調査した。ET/WOCNの在籍する施設に限定したのは,スキンテアという創傷を正しく判定できるためである。

 調査協力に同意した374施設に依頼し,257施設(68.7%)より回答を得た。調査対象者数は9万3820人,スキンテア保有者は720人,全体の粗有病率は0.77%であった。年齢層ごとの粗有病率は,65歳未満0.15%,65歳以上75歳未満0.55%,75歳以上は1.65%と,年齢が高くなると上昇していた。施設種類別の平均有病率は,一般病院(療養病床なし)は0.91%,一般病院(療養病床あり)1.26%,大学病院0.46%,国立病院0.88%,小児専門病院0.29%,訪問看護ステーション0.00%,その他1.00%であった。スキンテア発生時の状況は医療用テープの剝離時が17.5%と最も多く,次いで転倒時が11.8%であった。

 海外の種々の施設における調査報告(3.3-22.0%)2-4),および本邦において別途行ったある1施設の療養病床病院での調査報告(3.9%)5)と比べると,本調査の有病率は低い。その理由としては,今回ET/WOCNが所属し,かつスキンテアに関する指導を実施している施設が多かった(87.1%)ためと考えられる。したがって,ET/WOCNの不在の施設では有病率が高いと推察される。ただし,75歳以上の後期高齢者では1.65%と高く,これは看過できない状況と考えている。

スキンテアの予防策

 現在,調査結果と国内外の論文などを参考に,予防やケアの方法をまとめた「ベストプラクティス」案を作成しており,コンセンサスシンポジウムの開催,パブリックコメントの募集を行った上で,今秋には完成予定である。完成後は,学会ウェブサイトなどに公開する。

 ベストプラクティスでは,まずスキンテアの保有と既往歴のある者,さらにリスクアセスメン......

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