医学界新聞

2015.08.24



Medical Library 書評・新刊案内


今日の理学療法指針

内山 靖 総編集
網本 和,臼田 滋,高橋 哲也,淵岡 聡,間瀬 教史 編

《評 者》居村 茂幸(茨城県立医療大名誉教授/植草学園大教授・理学療法学)

実践可能な理学療法標準化の先駆的試み

 わが国に理学療法士が誕生して,今年で50年の節目を迎えた。理学療法士養成教育については,その誕生2年前より始まっていたが,当時は専門分野の日本語教育書が皆無で,教師として世界理学療法連盟から派遣された外国人教師が持ち込んだ英語のプリントのみであった。ただ記憶をたどると,この理学療法士誕生に前後して,必読書として理学療法・臨床医学・基礎医学編からなる3冊の『理学療法士・作業療法士教本』(天児民和編,医歯薬出版)が出版されている。この3冊を完全マスターしておけば国家試験も万全という,いわば,当時の理学療法士にとって最低限理解しなければならない知識と技術を網羅したスタンダード版であったと言える。

 現在,理学療法士の総数は約13万人に達し,かつ対応している分野も当初とは比較できないほど領域広く,また深くもなっている。これに伴い,各領域に精通した理学療法士によって,優れた学術書も数多く発刊されているが,ある分野ではあまりに多く,また興味が深すぎ,加えて医学書の体裁,つまり治療医学の切り口で執筆されていることも多く,われわれが主として扱う障害を中心とした医学について,病態から始まれば良い理学療法の在り方が希薄になっている感もあって,理学療法臨床場面での実践書としてはいささか歯がゆい感が強かった。

 このたび,医学書院より『今日の理学療法指針』が発刊された。本書は,1959年に『今日の治療指針』を創刊された日野原重明先生の言葉を借りて言い換えると,まさに「教科書ではなく,臨床の最前線にいる理学療法士による実践書」であり,その道の理学療法士が科学的な基盤に立脚した上で,今まさに自分が行っている理学療法のことを書きしたためられた逸品である。

 本書の特徴は,総編集者の内山靖氏の言う,動作を基軸とする『臨床推論(clinical reasoning)』の“視覚化”が体裁として試みられていることである。つまり,病態を推測し,仮説に基づいた鑑別と選択を繰り返しながら最も適した治療・介入を決定していく一連の心理・認知過程が臨床推論であり,さまざまな要素が入り乱れ,複雑で視覚化しにくく,教える側も学ぶ側も理解が困難であり,標準化し難い。本書『今日の理学療法指針』では,これらの困難な課題に対し,基盤となる病態の理解から治療・指導方法を選択する根拠や妥当性を整理し,それをフローチャートで示すことで実践可能な標準化が試みられている。

 内山氏や編集に参画された方々は,豊富な臨床経験を経て,現在は大学の要職におられる先生方であると推察するが,過去,あまり注目がなかったウィメンズ・ヘルス,精神疾患・予防理学療法などを含め,全16章208項目もの多岐にわたる領域について,整った書式での調和を持った標準化作業は,さぞ困難を極めたことと敬意を表するばかりである。また,理学療法士界では比較的中堅の臨床実務に当たっておられる先生方を執筆者として据えられたようであるが,各執筆者も,編集者が理学療法士として今まで取り組んでこられた仕事の意図を十分に把握された上での執筆と拝読できた。

 今後,執筆者の臨床におけるさらなる積み重ねが,次版以降の『今日の理学療法指針』の内容充実に結び付き,かつ領域の広がりが新たな指針の項目となることを期待したい。加えて,構築困難であったわれわれの業界初の理学療法治療標準化の先駆的礎として,疾患別クリティカルパス作成や教育現場での利用も十分に期待できる。

 最後に,理学療法士にとって『今日の理学療法指針』は,まさに日々の臨床時に手元に置いて参考にすべきクリニカル・スタンダードであり,まずは必読・必見であると推薦する。

A5・頁562 定価:本体5,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02127-2


医薬品副作用対応ポケットガイド

越前 宏俊 著

《評 者》木内 祐二(昭和大教授・薬理学/薬学教育推進センター長)

膨大な副作用の情報がコンパクトにまとめられた,実践重視の一冊!

 薬物治療は現代医療の基幹を成していますが,多様なメカニズムを持つ新薬が続々と登場するとともに,また,高齢化に伴う薬物治療の複雑化により,有効性とともに副作用(有害反応)のリスクも明らかに高まっています。こうした薬物治療の最前線で,安全で確実な薬物治療を実践するためには,膨大な医薬品情報の効率的な利用と高度な判断力を要します。従来,副作用が疑われる場合は,個々の薬品の添付文書の記載から副作用を確認するとともに,その治療・対応は治療マニュアルに当たらなければなりませんでした。本書は,目前の患者に副作用が疑われた場合,その症状や検査値から原因薬物を推測し,適切な対応を行うという,著者の言う「逆引きする」実践を重視した書となっています。

 本書では,多彩な副作用を,「アレルギー機序または偽アレルギー機序」「内分泌・代謝」「腎機能・電解質」「血液」「循環器」「上気道・呼吸器」「消化器」「眼科領域」「耳鼻科領域」「筋・骨格」「神経」「精神科領域」「その他の分類できない副作用(全身性を含む)」に分類して章立てし,112にものぼる副作用について解説しています。

 各副作用はそれぞれ2-3ページにコンパクトにまとめられ,また,大変に使いやすく,視覚的にもわかりやすく構成されています。最初に「重症度」「頻度」「症状」が合わせて10行程度に示され,副作用の概要を瞬時に理解できるように工夫されています。

 続いて,副作用を疑う患者を前にしたときの思考と行動パターンに沿って,「検査」「患者背景(リスク因子など)」「対応・処置」「患者説明」「原因となる薬剤など」「副作用の起きるメカニズム」「予防」の項目立てで簡潔に解説されています。最新の情報に基づき,発現頻度などの数値も示され,副作用の膨大な情報に途方に暮れていた医療スタッフにとっては本当にうれしい内容です。

 本書は薬物治療にかかわる医師,看護師,薬剤師などの全ての医療人に必携のポケットガイドと言えるでしょう。副作用にかかわる莫大な情報を簡潔に整理し,このような実践的な書を世に出された著者と出版社の努力に心から敬意を示...

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