医学界新聞

寄稿

2015.08.24



【寄稿】

小児思春期1型糖尿病患者のケア
患者と共に長い人生を歩む覚悟を持って

南 昌江(南昌江内科クリニック院長)


 小児思春期糖尿病における治療の最大目標は,“将来,その患者が自立して生きていく”ことであり,私たち医療者に求められるのは,患者の発症年齢によらず,発症当初から一貫した姿勢で患者や家族と接することである。家庭は最も重要な治療の場となるため,患者会などで医療者や患者家族間のコミュニケーションを図っていくことが大切になる。

「患者本人」が治療の中心であることを意識付けていく

 子どもが病気になって初めにショックを受けるのは両親,特に母親であろう。そのため,子どもの治療以外に母親のケアも重要で,当院では「母の会」を開催している。初めて参加する母親は,ショックと悲しみで多くの不安を抱えているが,同じ境遇にある先輩の体験談を聞くことで,不安は軽減されることが多い。母親の気持ちや考え方は子どもに大きく影響を与えるため,最初の悲しみの時期を過ぎたら,患者が将来自立した大人になるためにはどのように育てていけばよいかを一緒に考える必要がある。適切な時期になったら治療の主導権は患者自身に任せるべきであり,子離れ,親離れのタイミングを考えながら,自分のことは自分でさせ,少し遠くから見守るくらいの姿勢で育てることが大切である。

 とはいえ,乳幼児期の治療は当然母親が行う。血糖変動はこの時期の特徴でもあるため,重症低血糖や顕著な高血糖を回避することを目標にし,あまり血糖管理に神経質になりすぎないようにする。保育園や幼稚園に行く年齢になったら,朝夕+おやつ時のインスリン3回注射法か,インスリンポンプでの治療を行う。インスリン注射や血糖測定のために,母親が毎日保育園や幼稚園に出向くことは子どもの精神的成長を妨げることにもなりかねないため,避けたほうが良いだろう。食事やおやつは基本的な栄養のバランスを意識した上で,成長に十分なエネルギーを摂取1,2)していれば,他の子どもと同様で問題はなく,特別扱いはしないよう両親や先生に説明を行う必要がある。

 学童期(小学生)の患者には,サマーキャンプ()への参加を勧めている。同じ病気の子どもと出会い,友人を作ることは,自分一人ではないという安心感と勇気につながるためだ。小学校低学年の患者の中にはインスリン自己注射や血糖自己測定(SMBG)を自分では行えない子どももいるが,キャンプで同年代の子どもが自分で行っている姿を見て,積極的に取り組みはじめる患者も多い。自己注射ができるようになれば,治療を強化インスリン療法に変更することができる。

 学校行事は全て他の生徒と同じように参加できる。体育や遠足など,活動量が多い行事に関しては,低血糖に注意し,当日のインスリンの減量や必要に応じた補食の摂取を事前に指導する。学校生活の環境も重要であり,学校側に正しく理解してもらうために医療者からの説明が必要なケースもある。

 炭水化物の量の計算ができる年齢になったら,カーボカウントを用いたインスリン量の計算方法を指導するが,個人の成長度,性格や病気の受け入れの度合いによっても,その時期は異なる。小学校中学年になると思春期が始まり,急に血糖値が高くなることに不安を抱く患者もいる。成長ホルモンや性ホルモンの増加が主な原因で,正常に成長している証しであるため,インスリンの増量が必要であることを患者本人にきちんと説明するとよい。

 当院では,「治療の中心は自分である」ことを意識付けるために,基本的に中学年以上には自分でSMBGを記録し,診察も本人一人で受けてもらうようにしている。その際に病気以外の話もすることで,学校環境,病気の受け入れ,性格,家庭生活や家族との関係などを感じることができる。親が同席している場合でも,必ず本人との会話を重視し,親との会話が中心にならないよう心掛けることが大切である。

仲間の存在が,悩みや苦しみを乗り越える力に

 発達段階の中で,中高生のころは最もコントロールが乱れやすいと言われている。身体の急激な成長と性的成熟によりインスリン抵抗性が増大することに加え,心理的にも自己への不安や親への反発など不安定な時期であるが,自己評価形成の重要な期間でもある。ここで“糖尿病である”という大きな現実に直面し,...

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