医学界新聞

対談・座談会

2015.08.10



【対談】

日本版ホスピタリストの育成をめざして
石山 貴章氏(新潟大学地域医療教育センター魚沼基幹病院 総合診療科部長・教授)
片山 充哉氏(亀田総合病院 総合内科部長代理・卒後研修センター長補佐)


 病院総合医のキャリアとして,米国発祥のホスピタリスト(MEMO)の役割に関心が高まっている。その米国で,初めての日本人ホスピタリストとして活躍した石山氏がこのたび帰国。ホスピタリスト・システムを取り入れた研修プログラムの立ち上げを国内にて準備中だ。先駆的な教育で知られる亀田総合病院においても,新内科専門医制度に対応するような初期・後期研修プログラムを模索中という。

 いま,なぜ,ホスピタリストが必要とされるのか。米国のシステムをどのように取り入れ,“広く深い知識を持つ”内科医の育成につなげるのか。日本版ホスピタリストの育成に向けての展望を探った。


片山 先日,UCSF(カリフォルニア大サンフランシスコ校)を視察しました。新専門医制度に対応する初期・後期研修に向けてホスピタリストプログラムの立ち上げを当院にて検討しており,今回の視察はその一環です。

石山 「ホスピタリスト」という言葉とその役割を初めて論文1)として提示したのはUCSFの医師ですから,いわば“ホスピタリスト発祥の地”ですね。片山先生が研修を行った米国の病院と比較して,ホスピタリストの働き方に違いはありましたか?

内科レジデント教育を担うホスピタリスト

片山 シフトワークであること,レジデントチームがオーダーやカルテ記載など診療の主体となっていることなど基本的な部分は同じですが,フィードバックスタイルが異なりました。

 ハワイ大やサウスフロリダ大はホスピタリストが主導権を握ってラウンドをリードし,レジデントの医学的な決断などにフィードバックしていました。一方UCSFの場合は,内科レジデントがラウンドをリードし,そのリードの仕方やティーチング方法をホスピタリストがフィードバックする。UCSFのホスピタリストは,レジデント教育においては「リーダーのためのコーチ」としての役割を果たしていると感じました。

石山 UCSFの現在のスタイルは,私が所属していたSt. Mary’s Health Centerをモデルにしているようです。全米展開するホスピタリストの会社と契約して,内科レジデンシープログラムとホスピタリストグループとが,レジデント教育をいわば“ハイブリッド”の形で受け持っています。

片山 そうでしたか。先生はもともと外科医ですよね。どういう経緯で,米国でホスピタリストになられたのですか?

石山 米国に渡ったのは,外科医として大学院でリサーチをするためでした。ただ,そのころから,内科への転向は漠然と考えていたのですね。研究の傍らでUSMLE(米国医師国家試験)の勉強をしました。英語力も内科の知識も不十分なのでとても苦労をしましたが,なんとかセントルイスの市中病院で内科研修を始めることができたのです。

片山 当時からホスピタリスト志望ですか?

石山 いえ,最初は全く考えていませんでした。きっかけは,現在の私の師匠であるPhillip Vaidyanが,私の半年遅れでファカルティメンバーに加わったことでした。ちょうど内科プログラムディレクターが改革を始めた時期で,「今後はホスピタリストが必ず大きな役割を果たすようになる」という先見の明を持って,後に全米トップ10ホスピタリストにも選ばれたVaidyanを招聘したようです。

 内科レジデントとして指導を受けるなかで,Vaidyanの卓越した知識やリーダーシップに大きな影響を受けました。それで内科専門医を取得すると,そのままVaidyanに誘われる形でホスピタリストの道を選んだというのが経緯です。

日本版ホスピタリストが必要とされる3つの理由

石山 「ホスピタリスト」のアイデアが論文として発表された当時は,多くの医師から不評を買ったそうです。しかし,その後全米各地に急速に広がり,今では3万人を超えるホスピタリストが存在し,全米の病院の7割がホスピタリストを雇用しています。

 かつてのプライマリ・ケア医はオフィスでの外来診療に加え,入院中も患者の主治医として入院診療を担っていましたが,その多くは現在,自分たちの入院患者の診療をホスピタリストに委託するようになりました。普及の背景にあるのは,マネージドケアによる医療費抑制圧力です。ただ日本の場合,ホスピタリストが注目される背景は少し異なりますよね?

片山 日本の場合は,超高齢社会の到来が大きいでしょうね。Multi problemを抱える高齢者に対して,臓器別専門科がマネジメントするのが難しくなってきています。例えば,総合内科のない病院では,再入院を繰り返す心不全患者が肺炎になったときに,「呼吸器内科と循環器内科でどちらが診るのか」となる。時には押し付け合いとなり,患者不在の議論に発展してしまうことさえあるかもしれません。

 米国のように総合内科の枠を広げれば,multi problemの患者さんは全て内科入院として管理できる。そこでホスピタリストの役割が大切になってくると思うのです。

石山 まったく同感です。それに加えて,今後は日本でも患者満足度が重要性を増すはずです。というのは,米国のpay for performanceの指標に患者満足度があり,十分な評価が得られない病院に対しては今後,医療保険の支払いが減額されるのですね。病院経営幹部からは患者満足度の向上を求められており,病棟のスペシャリストであるホスピタリストがその役目を担っているのです。日本でも入院患者の満足度が経営課題となれば,ホスピタリスト配置のインセンティブにつながるように思います。

片山 2017年度から始まる新専門医制度も,変革の契機となるかもしれません。制度移行に伴い,内科系二階建制度の一階部分が,「認定内科医」から「新・内科専門医」に変わるのです。つまり,内科の場合は初期研修修了後に3年間をかけて新・内科専門医を取得する必要があり,呼吸器や循環器などサブスペシャリティ領域の研修はその後になるとされています。

石山 米国と同じシステムですね。

片山 そうです。全ての内科医に,内科全般の広く深い知識と経験が今以上に求められるようになり,教育体制もそれに合わせて見直す必要があります。そのときに,臓器別内科のローテーションを繰り返すよりも,総合内科の枠を拡大してホスピタリストの指導のもとで多様な疾患を経験したほうが,効率的で教育効果も高いと思うのです。

分業体制の構築でWin-Winのシステムを

石山 米国でホスピタリストとして働くなかで,「将来は日本でホスピタリストの育成に携わりたい」という気持ちが強くなっていました。今回帰国を決めたのは,医療過疎地での病院新設ということで「地元(新潟)に貢献したい」という思いとともに,日本版ホスピタリスト育成のシステムをイチから立ち上げるチャンスだと感じた...

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