医学界新聞

2015.07.06



Medical Library 書評・新刊案内


帰してはいけない小児外来患者

崎山 弘,本田 雅敬 編

《評 者》市川 光太郎(北九州市立八幡病院小児救急センター病院長)

小児(救急)診療の楽しみが倍増する一冊

 長い間,小児救急医療に携わってきたが,その多くは軽症疾患であり,重篤な疾患はまれであることは間違いない。しかし,なぜか,慢心な気持ちが湧けば湧くほど,重篤な疾患に遭遇してしまう皮肉な結果を嫌というほど思い知らされてきた。そこにはピットフォールに陥りやすいわれわれ医療側の診療姿勢が見え隠れしているのだと思っている。いかに全ての患児家族に不安をもたらすことなく,的確な診断治療に直結するスキルを自分自身が養い,後輩たちに継承するかは小児救急医(臨床医)の永遠の課題と常々考えてきた。

 本書を読み,この自らの問いへ答えてくれる本に出合ったという想いに溢れ,もっともっと救急現場に立ちたいという気持ちになった。楽しみながら仕事をするという本質的な部分を感じさせる本なのかもしれないと感じ,うれしくなった。

 Pearl caseの40例はまさに「目からうろこ」の症例が詳述されている。「教訓」としての「転機」の数々が示され,最後に「TIPS」が総括してくれ,考察能力の幅・深さの向上を支援してくれている。その考察プロセスの解説には共感するだけではなく,自分の不勉強さを思い知らされ,すぐさま臨床で考察の幅・深さが生まれるストーリーが流れている。教科書ではなく,小説のように読み流したとしても,その考えはおのずと自分自身の身に,考え方にフィードバックされて,まさに「深読み」のできる臨床医になれそうである。加えて,単なるcommon diseaseと流してしまう症例に輝石を見いだせ,救急診療を行う楽しみが倍増しそうである。また,必要時は似た症例を探すこともできるだろうし,巻末に「ケースブック診断名一覧」が掲載されていることから,繁忙な外来中でもサッと自分の診断の幅・深さの確認ができるよう工夫されており,とても現場で役立つことと思われる。

 何よりも感服したのは,序章にあたる第1章である。「死の合図に該当」で表されているように,診療における診断プロセスの基本姿勢を,「無知は救いようのない誤診を招く」「主訴を適切に聴取しないと診断はできない」「鑑別診断が念頭になければ,診察はできない」「診断に至る基本的な思考回路を理解する」「誤診するリスク(危険性)を過小評価するバイアス」と5項目に分けて,症例を引き合いに,アカデミックに解説されていることが素晴らしい。まさに,救急現場に出る前に読むことで,背筋が伸び,襟を正しての診療姿勢を保てるであろう。ことさら,「誤診するリスク(危険性)を過小評価するバイアス」の内容における,「思い込みがあった」「アンカリング」「必要性」「慣れ」「稀有性」「時間的な逼迫」「担当者の心身の健康状態」「スタッフの連携不足」「利害関係」「限界を超えた多忙」の10ポイントは,日頃より感じて言葉や活字にしてきたことと自分ながら異口同音だと共感を覚えた。

 まさに,経験を問わず,「子どもを診る機会のある全ての医師」に読んでほしい一書であることを確信した。

A5・頁224 定価:本体3,600円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02138-8


呼吸器診療 ここが「分かれ道」

倉原 優 著

《評 者》中島 啓(亀田総合病院呼吸器内科医長)

呼吸器診療において進むべき道のりを照らす暖かい光

 日常診療は常に悩みの連続である。呼吸器診療だけでなく,多くの診療科で共通することかもしれないが,医学においては,確立されたエビデンスが存在しない領域も多々ある。呼吸器内科専門医であっても,臨床の中では,「分かれ道」に立たされることは少なくない。呼吸器診療における「分かれ道」に遭遇した臨床医は,自分の臨床経験,教科書・文献データに基づき,悩みながらも「目の前の患者の幸福につながる」と信じる決断をしていくことになる。

 本書『呼吸器診療 ここが「分かれ道」』は,呼吸器内科医から総合診療医まで,呼吸器診療に携わる者なら誰もが持つような設問に対して,著者の経験,現時点での最新文献に基づく答えと思考過程を,わかりやすく示してくれている。著者のブログ「呼吸器内科医」は質の高い文献情報が豊富で,呼吸器内科医なら誰もが知る人気ブログとなっているが,本書籍も最新文献と臨床情報を読者に提供する期待通りの内容である。

 私が特に印象に残った設問とその答えを下記に記す。

 「吸入薬はpMDIとDPIのどちらを使えばよいのか?」(p.99)
→ 若い患者さんはDPI,高齢者は使い勝手で好きなほうを。

 「喘息発作・COPD急性増悪に対する全身性ステロイドは全例リンデロン®でよい?」(p.110)
→ 答えはないが,プレドニン錠®でもよい。

 「呼吸器内科におけるステロイドパルス療法のタイミングは?」(p.150)
→ エビデンスがないので経験則に基づいているのが現状である。

 「肺がんが確定した後でも禁煙をすすめたほうがよい?」(p.180)
→ 生存期間が延長する可能性があるので,禁煙をすすめたほうがよい。

 「喀痰から緑膿菌がずっと検出されている気管支拡張症に打つ手はあるか?」(p.217)
→ 現時点では根本的対策に乏しい。

 設問ごとに,最新の文献や著者の経験に基づく,コンパクトな解説が掲載されている。若手医師が確実に押さえておくべきところは太字で示され記憶にも残りやすく,明日からの実臨床に役立つ内容になっている。

 主な対象は初期研修医2年目から後期研修医までの若手医師と思われるが,呼吸器内科専門医が読んでも十分読み応えがあり,知識の整理に役立つと感じた。私は医師10年目の呼吸器内科専門医であるが,私自身も頭の中で何となく思っていたことが,わかりやすく整理され,シンプルな結論を導いており感動した。また,著者の「患者の幸福を実現したい」という思いが,ひしひしと伝わってきた。

 本書は,呼吸器内科を志す者,そして,悩ましい呼吸器診療の「分かれ道」に遭遇する若手医師にとって,進むべき道のりを照らす光になるであろう。また,著者の呼吸器診療にかける熱い思いは,呼吸器内科の面白さや魅力を私たちに教えてくれる。呼吸器診療に携わる若手医師にとって,必読の一冊と言える。

A5・頁260 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02135-7


今日から使える医療統計

新谷 歩 著

《評 者》小林 広幸(東海大大学院教授・臨床薬理学/医学研究科研究科長/総合臨床研究センター所長)

臨床研究を行う研究者,論文をひもとく臨床医必読!医療統計学珠玉の指針

 “数式を使わないで直観的に学ぶ”『今日から使える医療統計学ビデオ講座』で,精力的にわかりやすい情報を発信されてきた新谷歩教授の医療統計への慧眼と熱き思いが,単行本として結実し上梓された。基礎および臨床医学研究大国である米国で生物統計学者として20年の豊富なキャリアを重ねてきた著者が,医療統計の重要なテーマに関する極意を例題/具体例を活用し読み物形式で伝授してくれる。これまで医療統計の本に構えてしまった読者でも,数時間もあれば楽しく講義を受けている感覚で一気に読めるだろう。

 本書を読み進めていくと,2003年から2年間ヴァンダービルト大学大学院の臨床研究科学マスターコースで新谷教授から医療統計の講義・演習を受けた際の衝撃が鮮烈によみがえってきた。グラフィックやイメージを多用し実例を基に医療統計の概念や前提条件を教えてくれる講義は,医療統計学に対する見方が一変,目からうろこが落ちる連続で,楽しみながら医療統計に関する知識・スキルを習得することができた。新谷教授は,研究者としてはもちろん教育者としても一流で,そのユニークな統計教授法には定評があり,ヴァンダービルト大学でベストティーチングアワードを受賞している。

 本書がめざしているのは,臨床研究を計画・遂行しデータを解析・論文化するのに必要な急所・要点を“できるだけ数式を使わず”に今日から使える知識として読み物形式で伝授することである。初めに統計の基礎知識について,論文投稿時のチェックリストも紹介し平易に教えてくれている。その後,量的情報を可視化することの重要性に触れ,グラフの作成について実践的に解説している。ナポレオンのモスクワへの行進に関する情報を可視化したものは,評者がヴァンダービルト大学大学院の講義でも感銘を受けたグラフだ。統計テストを選択する際のチェックポイントとチャートは,医学研究を進める上で今日からにでも役立つことは間違いない。このチャートは,大学院入学者に必ず配布し活用させていただいている。交絡の概念と補正法についても臨床に携わっている読者に自然と受け入れられるような例を挙げ,見事に説明されている。必要症例数とパワー計算については,ヴァンダービルト大学で開発された無料ソフトの使用例も交えて統計的有意差と臨床的有意差の違いにも触れ,実践的に教示してくれている。インターアクション(交互作用)については,薬剤の併用例を取り上げeffect modificationとしてとらえ,The New England Journal of Medicineのレポートガイドラインも紹介し非常にわかりやすく説明されている。これを読み,交絡と交互作用の違いを明確に理解できる読者も多いだろう。また,多重検定,中間解析,最近進歩してきた診断や予後の予測研究の解析法,同等性・非劣性の解析,生存解析なども要領よく極めて理解しやすい解説が加えられている。

 著者は,生物統計学者として20年の豊富なキャリアの中で,臨床研究のデータがより良い医療の確立を切望する患者一人ひとりの思いと,データを取得する研究者の努力・情熱に裏打ちされていることを熟知している。だからこそ,それらに応えるためにも適切な研究計画と解析法を研究者へ教育することを使命とされている。行間から新谷教授の熱き思いが伝わってくる渾身の一書だ。臨床研究を行う研究者,医学論文をひもとく臨床医にぜひ勧めたい。特に医療系大学院生には全員に読ませたい。

A5・頁176 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01954-5


みるトレ 感染症

笠原 敬,忽那 賢志,佐田 竜一 著

《評 者》山中 克郎(諏訪中央病院内科総合診療部)

名医に仕上げる特効薬

 誰もが診断に苦慮しているときに,「視診」だけから特徴的な所見を見抜き,鮮やかに一発診断する医師がいる。私はこんな“かっこいい”医師に憧れる。

 本書はそんな「視診」力を鍛える本であり,「名医に仕上げる特効薬」と呼ぶべき本である。『みるトレ』は毎月『総合診療(旧:JIM)』誌に連載されているシリーズなので,これを楽しみに購読を続けている読者もきっと多いだろう。症例はクイズ形式となっていて,提示された症状や身体所見,CT画像から「キーワード」を見抜き診断推論を展開しなければならない。キーワードを嗅ぎ分ける医師ということは,問題点を見抜く力を持っている医師ということでもある。解答を見て「そうか,そうだったのか」と納得する。

 コラムが本書全体に品格を与え読み手の心をわしづかみにする。平たく言えば,ぐっとくる。忽那賢志先生がThe New England Journal of Medicineに症例報告をした際の苦労やコツが語られていて,一流医学雑誌への投稿意欲をかき立てられる。佐田竜一先生のclinical picture撮影時の情報管理を含めたアドバイスも秀逸である。笠原敬先生の豊富な臨床経験と文献的な考察に基づいた深い考察も素晴らしい。頑張っているあの後輩にプレゼントしたい。そんなすてきな本である。

B5・頁200 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02133-3

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