医学界新聞

がん患者支援施設“マギーズ”が東京に設立

秋山正子氏に聞く

インタビュー 秋山 正子

2015.06.22 週刊医学界新聞(看護号):第3130号より

 告知を受けたとき,治療の前後,再発が明らかになったとき,あるいは残りの時間が限られていると判明したとき――。がんという病気によって生じる心理的なストレスは計り知れず,あらゆる段階で患者に降りかかる。英国を発祥とするマギーズ・キャンサー・ケアリングセンター(以下,マギーズ)では,こうしたがんに直面し悩む患者の思いを受け止め,寄り添い,力を引き出す支援が行われているという。同センターの支援に魅せられ,“日本版マギーズ”実現に向けて活動を続けてきたのが秋山正子氏だ。現在,東京でマギーズの開設準備を進める氏に,マギーズの患者支援の在り方を,そして患者にとってどのような場と成り得るのか,話を聞いた。

――「日本にもマギーズを」。秋山さんが呼び掛けてこられたことが現実のものになろうとしています。

秋山 2014年5月から,鈴木美穂さん(日本テレビ記者)と共に共同代表を務める「maggie's tokyo project」での活動を開始して約1年。現在,がん研有明病院,国立がん研究センター中央病院にほど近い湾岸地域(写真・図)に建設予定地を構え,マギーズ東京は今年度中の着工,開設をめざせる段階に至ることができました。

 ただ,これも2020年までのパイロット事業で仮建築の計画です。事業の終了後,きちんと本建築をして運営されることまでを見据え,挑戦していきたいと思っています。

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マギーズ東京の建設予定地
東京都江東区豊洲の一角に建設を予定している。写真は予定地を臨む会場で会議を行った際の一枚。

――そもそも,秋山さんが「マギーズ」のコンセプトに触れたのはいつ頃のことなのでしょうか。

秋山 私がマギーズと初めて出会ったのは,2008年のことです。その年に開催された国際がん看護セミナーシンポジウムで,私と共に登壇したのがマギーズエディンバラのセンター長のアンドリュー・アンダーソン看護師でした。彼の報告を通し,マギーズの存在を,そしてそこで提供される相談支援の在り方を知ったときは,大変感銘を受けましたね。「私が大金持ちだったら,すぐにでも日本にマギーズをつくりたい」。思わずシンポジウム中にそうコメントしてしまったほどです。

――どんな点が心に響いたのですか。

秋山 マギーズは,事前予約や相談料はなしで,がんを専門とする経験豊かなスタッフが,患者さんを中心に据えた支援を行います。そのサポートによって,「相談者が自分自身の力で,ものを考えられるようになる」というのです。ここに私がかねてから抱えていた「どうしたものか」という思いに対する,ひとつの解があるように感じられました。

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マギーズ・キャンサー・ケアリングセンター

秋山 私自身,1992年から訪問看護に取り組んできましたが,その間,がん医療のありようは大きく変わっています。治療の進歩は喜ばしいことですが,それにより外来での治療期間は長くなった。つまり,日常生活を送りながら治療を続ける患者さんが増えており,がんと共に生活する時間は長くなってきているわけです。

 そうした流れがある一方で,病院から在宅医療にバトンタッチされ,私たち訪問看護師が初めて出向くときには,治療のすべがなく,残された時間も短いという末期の患者さんばかり。それでもわれわれがケアをしたり,日常生活上の悩みや不安を聞いたりしていくと,「もっと早くに在宅ケアを頼めばよかった」と漏らす患者さんやご家族と多く出会う。そのたびに,「どうしてもっと前の段階に,希望するケアと出会うことができなかったんだろう」と疑問に感じていたのです。

 訪問看護につながる前の,例えば「がんかもしれない」と思った初期の不安なとき。そのタイミングから誰かに思いや悩みを相談し,情報提供を受けられる場があれば,患者さんやご家族は多くの治療法や療養の場の選択肢と向き合い,自分が希望する生き方を選び取ることもできたのではないか。そして,生活の質を高めることにもつながったのではないだろうか。そう思うことが少なくありませんでした。

――マギーズは,そうした支援が行われている場である,と。

秋山 そう感じました。それから3か月後,「まずはひと目見てみよう」と仲間を募って英国へ渡り,エディンバラ,ファイフ,ロンドンと3か所のマギーズを視察させてもらいました。

――わずか3か月後という点に関心の高さが伺えます。実際に見て,何が印象に残りましたか。

秋山 まずを目を引いたのが,著名な建築家が設計した建築物の外観と,居心地のいい雰囲気です。自然光の入るオープンな空間が広がっていて,中庭まである。それでいてプライバシーを守る個別のスペースも設けられていました(註1)。

 私が驚いたのは,あらゆる来訪者に接するスタッフの距離感と振る舞いです。白衣を着ている人は誰一人おらず,一見,誰が患者で誰がスタッフであるかがわかりません。看護師や臨床心理士のスタッフは,まるで友人であるかのように,フラットな関係で相談者の思いや悩みに応えている。がん拠点病院の敷地内にありながら,そこにはまったく異なる雰囲気の場が広がっていました。

 病院でも家でもない場所,居心地のいい空間,リラックスできる仕掛け,ふらっと立ち寄っても話を聞いてくれるスタッフの佇まい。これらを兼ねそろえているからこそ,患者の張り詰めた思いをほぐし,紆余曲折する思いを受け止め,これからの生活を過ごすための自己決定に至るまでを支える場になるのだと痛感しましたね。

――そうした体験が,東京都新宿区内の大規模団地1階に開設した,地域住民の健康相談に応える「暮らしの保健室」の活動へとつながるわけですね。

秋山 ひそかに“マギーズジャパン準備室”という構想があって,開設に際しても“本...

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(株)ケアーズ白十字訪問看護ステーション統括所長/maggie's tokyo project共同代表

1973年聖路加看護大卒。産婦人科病棟にて臨床経験後,看護教育に従事。実姉の末期がんでの看取りを経た後,92年より訪問看護に携わる。2001年に(株)ケアーズを設立し,09年より現職。英国のマギーズにヒントを得て設立した「暮らしの保健室」で,医療の質・安全学会「新しい医療のかたち」賞を受賞(2012年)。現在,東京にマギーズを設立する活動にも尽力している。著者に『在宅ケアのはぐくむ力』(医学書院)など。

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