MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2015.06.01
Medical Library 書評・新刊案内
Abraham M. Nussbaum 原著
高橋 三郎 監訳
染矢 俊幸,北村 秀明 訳
《評 者》久住 一郎(北大大学院教授・精神医学)
最終診断へと近づくナビゲーションを示した実践書
本書は,19年ぶりに改訂されたDSM-5に基づく精神科診断面接の進め方を平易に解説した,米国精神医学会(APA)によるポケットマニュアルの日本語版であり,既に訳書が出版されている『DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引』や『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』の姉妹書である。DSM-5ではDSM-IVとは異なるいくつかの新たな試みが取り入れられており,それらの変更点や今後の精神科診断の方向性の理解を補足する上でも大変有用な一冊である。
3部構成の第I部は,「診断面接総論」「診断面接における治療同盟構築」「30分間診断面接」「次元への冒険」「DSM-5の鍵となる改訂点」からなる。学生・研修医から専門医をめざす医師,さらには,DSM-IVまでのカテゴリー診断に慣れ親しんできた医師まで,かなり幅広い読者を意識して書かれていることがわかる。どのレベルの医師が読んでも,得ることが多い内容がコンパクトにまとめられている。
第II部は,本書の中核部分であり,DSM-5診断面接の進め方が診断分類ごとに整理されている。どの項においても同じ構成になっており,初めにスクリーニングのための質問,それを補足する追加質問,診断基準に関連する「包含事項」,除外診断に関連する「除外事項」,特定用語や重症度に関連する「修飾事項」,おおまかな鑑別診断に関連する「選択事項」の順に配置されている。本書では診断基準は網羅的に記載されているわけではないが,前出の「手引」や「マニュアル」がすぐに参照できるように,項目ごとに参照ページが付されているのは非常にありがたい。すなわち,本書は正確な最終診断を導くための解説書ではなく,臨床において患者と「治療同盟」を構築しながら,いかに最終診断へと近づいていくかのナビゲーションを示した実践の書とも言える。
第III部は,「DSM-5 診断早見表」「鑑別診断のための段階的解決法」「精神状態検査:精神医学用語集」「米国精神医学・神経学認定委員会の臨床技能評価」「DSM-5評価尺度の抜粋」「パーソナリティ障害群の次元診断」「代替診断システムと評価尺度」と興味深い内容が並んでいる。特に後半は,カテゴリー診断から次元診断への移行の試みについてパーソナリティ障害を題材に詳しく解説されており,DSM-5が何をめざそうとしていたのか,今後精神科診断がどのような方向に進んでいくのかがよく理解できる内容となっている。
DSMの導入によって精神科診断が浅薄になったと批判されがちであるが,従来のように「手引」や「マニュアル」だけでなく,本書のようなDSM関連書が訳出され,その背景の理念や問題点までが一般に熟知されるようになることは非常に意義深いと考える。DSMが単にチェックリスト的に使用されるのではなく,本書が多くの臨床医に読まれることで,精神科診断について深く再考する機会が得られることを期待している。今回の改訂に伴いAPAから出版されるDSM関連書数冊全てを翻訳する方針と聞くが,精力的かつ迅速に対応されている訳者の方々にあらためて敬意を表したい。
B6変形・頁304 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02049-7


DSM-5®を使いこなすための
臨床精神医学テキスト
Donald W. Black,Nancy C. Andreasen 原著
澤 明 監訳
阿部 浩史 訳
《評 者》村井 俊哉(京大教授・精神医学)
DSM-5を使う人のパートナーになる1冊
米国精神医学会が出版する『精神疾患の診断・統計マニュアル』(通称DSM)の改訂第5版(DSM-5)が,2013年に出版された。そして,その日本語訳は日本精神神経学会の用語監修のもと,2014年に出版された。WHOによる疾病分類であるICDの改訂も,DSM-5と歩調を合わせていくことが予想されているから,これからの日本の,そして世界各国の精神科の臨床・研究・教育は,DSM-5に準拠したかたちで行われていくと考えて間違いないだろう。
日本の精神科医は,それぞれの現場で,DSM-5の使用を開始しているだろうけれども,DSM-5の書籍それ自体は,単独では使いこなすのが難しい。今回紹介する『DSM-5を使いこなすための臨床精神医学テキスト』は,原題が“Introductory Textbook of Psychiatry 6th edition”となっているように,精神医学の初学者を対象とした教科書である。ただ,DSMの改訂を契機として,DSM-5に完全に準拠するかたちで第6版は全面的に改訂された。結果として,精神科医としてのキャリアは十分であるがDSM-5は使い始めたばかりのほとんどの精神科医(例えば私)にとっても,重宝する内容となっている。
本書は3部構成になっているが,第1部(第1-3章)は,単独でも読み応え十分である。DSM-5の無味乾燥な診断基準の羅列をみて,精神医学に対して幻滅しかかっている初学者がいたとしたら,是非第1章を一読され,診断基準の使用法と共に,こうした診断基準作成の背後にある思想に触れられることをお勧めしたい。一方で,DSMが日本に導入される前に精神医学教育を受けたベテランの精神科医には,第2章が興味深いかもしれない。精神科面接の心得の基本的なところは,DSM時代の米国であっても,昔の日本とさほど変わらないことに気付かれるだろう。
第2部(第4-17章)の疾患別解説は,DSM-5への準拠が徹底された,本書の目玉である。エビデンスに基づく体系的な解説と,具体的な症例記載のバランスがよい。なじみの疾患についてはDSM-5での診断基準の変更点に着目しながら知識を再度整理できるし,経験の...
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