精神科臨床医が臨床研究留学する意義(田中徹平)
寄稿
2015.06.01
【寄稿】
精神科臨床医が臨床研究留学する意義
田中 徹平(ジョンズホプキンス大学医学部 精神医学部門統合失調症センター)
医師の留学と言えば,日本の大学院で医学博士号を取得した後,基礎研究をするために留学する人が多い。最近では,それ以外にECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)Certificateを取得し,米国でレジデント教育を受けるために臨床留学を行う人も,増えてきているように思う。そうした基礎研究留学や臨床留学の体験談はあまたあるが,臨床研究留学について述べたものは少ない。
本稿では,ジョンズホプキンス大の澤明教授と,国立精神・神経センターの樋口輝彦理事長が立ち上げた「精神科臨床医のためのフェローシッププログラム」について紹介し,日本で臨床を主体としてきた精神科医が臨床研究留学をする意義について述べたい。なお,ここでいう臨床研究とは,疾病の予防や診断・治療法の改善,疾病の原因とその病態の解明,患者の生活の質の向上などを目的として行う人を対象とした医学的研究を指すものとする1)。
臨床研究の基礎知識を習得するプログラム編成
本プログラムは,精神科臨床医が米国で行われている臨床研究に実際に参加し,学んだことを日本に還元し精神医学に新しい光を当てることで,究極的には患者やその家族に,より良い医療を提供することを目的としている。これまでに,横井優磨先生(国立精神・神経センター),高柳陽一郎先生(富山大),松田太郎先生(国立精神・神経センター)の3人の医師が本プログラムに参加しており,筆者が4人目となる。基本的に2年間のプログラムであり,臨床研究に従事する他,プログラムの1年目にはジョンズホプキンス大公衆衛生学教室で統計や疫学などの授業を受講し,臨床研究に必要な基礎知識を習得することができるようアレンジされているのが特色である。
研究および受講科目の具体的な内容は,澤教授と樋口理事長との面接を通じ,自らの希望と合わせて決まる。横井先生は老年期精神科で認知症研究,高柳先生は公衆衛生学教室で疫学研究,松田先生は精神病症状を呈した患者の炎症マーカーに関する研究に従事されていた。筆者は,トランスレーショナルリサーチ(基礎と臨床の橋渡し研究)に興味があったため,澤教授がセンター長を務める統合失調症センターに所属することとなった。
プログラム2年目の現在,研究に参加するボランティアをリクルートするグループや,画像グループ,心理グループなどの多彩なチームと共に,統合失調症患者の画像データや血中の酸化ストレス関連マーカー,各種臨床評価尺度の関係に関する研究に従事している。所属しているグループでは,精神病症状を呈した患者と健常対象者をリクルートし,SAPS/SANS(陽性/陰性症状評価尺度)などの臨床評価尺度を用いた精神症状の評価,神経心理検査による評価,血液や髄液の採取,MRI/MRSによる構造解析,脳代謝産物の測定などを行っており,参加者一人ひとりに対して,各エキスパートによる多面的な評価がなされている。
筆者は日本での臨床的な背景と,ジョンズホプキンス大で習得した疫学や統計の知識を用い,この研究に参画している。多職種からなるチームが,有機的に機能した研究をいかにして行い,その研究がどのように仕上がっていくかを実際に経験できるのが,本プログラムの醍醐味であるように思う。
4つの“Perspectives”を指針に
レジデント教育ほどではないものの,臨床研究留学は基礎研究留学とは異なり,臨床との接点が非常に多い。そのため,留学先の精神医学の伝統や哲学を学ぶことができるのも臨床研究留学の大きな意義である。
ジョンズホプキンス大病院は,過去四半世紀に渡ってU.S. News & World Report Best Hospitals rankingsで第1位の評価を得ており,統合失調症センターのある精神医学部門も常に高評価を受けている病院である。同院では,D
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