“支え合い”精神と職員意識を育む「研修医プロジェクト」
寄稿
2015.05.18
【特集】
“支え合い”精神と職員意識を育む「研修医プロジェクト」
「研修医が2-3人1組となり,2年間の研修期間を通じて病院機能の改善活動や調査研究を行う」。全国屈指の人気研修病院である国立病院機構東京医療センターには,そんな一風変わったプロジェクト型のカリキュラムがある。「研修医プロジェクト」と名付けられたこのカリキュラムにおいて,研修医は試行錯誤を繰り返し,通常の研修とは異なる経験を積む。このプロジェクトの狙いは何か。研修医はそこから何を学ぶのか。研修医プロジェクトの活動を追った。
緊急性の低い処方・手技の依頼,緊急入院時の連絡不備,カルテの重複。業務は煩雑で多忙を極め,仮眠時間の確保も困難になる。研修医にとって最も不満や不平が溜まりやすいのは,当直業務ではないだろうか。
2013年度1年目研修医の石澤嶺氏も,そんな思いを抱いていた。ただし,指導医や研修医仲間に愚痴をこぼすだけでは済まされない。内科研修医当直業務に改善すべき点があると考えるならば,それはすなわち,「研修医自らが改善に乗り出す課題」になるのだ。
とは言うものの,さまざまな問題点のうち何にフォーカスを絞ればいいのか,具体的にどのような介入をすべきかまではわからない。そこで,同期の研修医2人と共に,研修医対象のアンケートを実施し,内科研修医当直業務の問題点を抽出。指導医とも相談の上で,「内科研修医当直への緊急入院連絡の不備」「継続指示の入力の負担」について自ら介入することに決めた――。
プロジェクトの概要
以上が,「研修医プロジェクト」の活動前半(主に研修医1年目)の一例だ。2年間にわたる研修医プロジェクトの流れは図1のとおり。まずは同学年の2-3人が1組となり,研究課題を話し合う。課題の決定に当たっては,研修中に感じた疑問や悩み,要望を抽出。プロジェクトの企画内容に具体的な制限はないが,以下3つのカテゴリーから選択することになる。
A)病院機能の改善活動……自院もしくは近隣コミュニティを対象に,医療サービスの向上につながる方略を立案し実践。その成果について報告する(例:「針刺し事故なくし隊」「救急外来待ち患者の診療待ちストレス軽減に向けた取り組み」)。
B)研究・調査……医療もしくは健康をテーマとした研究・調査を計画し,データの収集・分析を行い,その成果を発表する(例:「自院入院患者における疾患カテゴリ別の肺塞栓予防ガイドライン準拠度に関する調査」「研修医のやる気促進要因に関するインタビュー調査」)。
C)その他……医療もしくは健康に関連するテーマで,2年間の集大成として発表に値する活動。
図1 「研修医プロジェクト」の年間スケジュール |
次に,仮決定した研究課題に合わせてメンター(指導医)を依頼。さらに,研修プログラム委員会からのフィードバックも踏まえて,1年目10月末までにプロジェクトメンバーとメンター,研究課題が正式決定される。
その後,研修医同士・上級医,コメディカルスタッフなどへの情報収集や院内マニュアルの確認を行った上で,目標・ゴールを設定。12月までに事業計画書を研修プログラム委員会に提出し,本格的に活動を開始。定期的(月1回程度をめど)にメンバー・メンターでミーティングを行いながら,研修医2年目の中間発表会(6月),研修修了発表会(翌年3月)に臨むことになる。2014年度の研修修了発表会においては,9つの演題(表)が出そろった。
表 2014年度研修修了発表会の演題 |
2年間の共同作業を通じて“支え合い”の精神を育む
東京医療センターが「研修医プロジェクト」を始めたのは,2012年度のこと。それまで研修医による研究発表の場といえば,各診療科の指導者と共に学会で症例報告を行う程度で,それも研修医の自主性に任されていた。ある日の研修プログラム委員会にて,「これだけ多くの研修医が集まる病院なのに,学会発表だけではもったいない。研修医の力を引き出して,病院に何かを残すような取り組みがあってもいいのではないか」という声が挙がり,このプロジェクト型カリキュラムが生まれたという。
臨床研修科医長の尾藤誠司氏は,研修医プロジェクトの教育効果を次のように語る。「ひとつの目標に向かって計画を立て,2年間という長期にわたり共同作業を行う。この経験によって,通常の臨床研修カリキュラムでは身につきにくい“支え合い”の精神が育まれる」。そのほかにも,同プロジェクトの導入によって,研修医と指導医のメンティ・メンター関係の発達,看護や事務など他部門との交渉技術の獲得などの効果も生まれた。
研修修了発表会での口演 |
3月の最終週,2年目研修医の研修修了式が研修医プロジェクト発表の場となる。各グループが2年間の活動内容をポスターにまとめ,修了式の1週間前に全職員に向けてポスターを公開。発表会当日は口演発表が行われる。指導医・コメディカルが発表を評価し,優秀グループが表彰される。 |
「介入」と「成果」を明確に
冒頭の「内科当直の業務改善」における2つのテーマのうち,「内科研修医当直への緊急入院連絡の不備」への介入に関して,後半の活動を見ていこう。東京医療センターの場合,救急外来においては入院の決定やマネジメントの主体は後期研......
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