医学界新聞

インタビュー

2015.05.11



【interview】

呼吸器診療の最適解は,悩み,見つけていく
倉原 優氏(国立病院機構近畿中央胸部疾患センター内科)に聞く


 このほど上梓された『呼吸器診療 ここが「分かれ道」』(医学書院)の著者・倉原優氏。同氏には“人気ブロガー”としての一面もある。ブログ「呼吸器内科医」は,高い頻度で最新論文のサマリーやエッセイが更新され,それらの臨床現場に根差したトピック選びに共感する医療者は多い。本紙では,「いつも悩みながら診療してきた」と語る倉原氏に,臨床に生きる医学論文の選び方・読み方や,今回,執筆された書籍に託した思いを聞いた。


論文1日1本のノルマがブログのきっかけ

――倉原先生といえば,ブログ「呼吸器内科医」を連想される方が多いのではないでしょうか。まず,同ブログを始めたきっかけを教えてください。

倉原 実は,一つの先行例が基になっています。「内科開業医のお勉強日記」という論文の和訳や解釈をまとめた個人ブログです。医師間で最新の知識をシェアし,ひいては患者さんにより良い医療が提供されることにまでつながる。その点に魅力を感じていました。医師になってからずっと,そうしたブログの呼吸器内科に特化したものを作りたいと考えていたんです。

 研修医2年目のとき,「1日に3本の原著論文を読むこと」を実践している後輩(金井病院総合診療科・高岸勝繁氏)がいました。「先輩としてコイツには負けられないな」と。その後輩の存在が後押しになり,自分に1日1本を課し,ブログのかたちで勉強の足跡を残そうと決めた。それが「呼吸器内科医」となったわけです。……ノルマは後輩より少ないのですが(笑)。

――それから数年間にわたり,呼吸器内科に関する研究から珍しい症例報告まで,あらゆる論文を継続的に紹介してこられており,驚きます。

倉原 医学の知識は日々更新されていくわけですから,臨床医として知識をアップデートし続けていく必要があります。その点は医師になるときから覚悟していたので,継続的に論文に当たること自体は苦になりません。

 ただ振り返ってみると,ブログという他者から見られる機会を設けたことも,論文を読む強制力として働いていた面は否めません。始めたからには続けようと,“意地”で継続してきたところも大きいのでしょうね。

「論文を読む」の習慣化には,時間をかけない工夫も大事

――EBMの実践のためにも知識のアップデートは大切ですが,多忙な日常業務の合間を縫って論文を選び,読む時間を設けるのはなかなか簡単なことではありません。倉原先生は普段,論文をどのようにして選び,読み進めているのでしょうか。

倉原 呼吸器内科は,市中肺炎や肺血栓塞栓症などの急性疾患から,慢性閉塞性肺疾患や肺がんといった慢性疾患まで,幅広い疾患を扱います。ですから,呼吸器内科医として読むべき論文の数は膨大です。その中,私が目を通しているのは『NEJM』『BMJ』『JAMA』といった内科系医学雑誌の他,『AJRCCM』『Thorax』『ERJ』など呼吸器系医学雑誌の約30冊。これらをウェブで読むようにしています。

 といっても,全ての雑誌の論文を精読しているわけではありません。一連の雑誌のサイトをウェブ上で「お気に入り」に登録しておき,最新号の出る月初と15日前後に,パソコンやスマートフォンで最新の論文タイトル一覧をざっと見ていく。その中で「臨床に生かせそう」とか,単純に「面白そう」と興味を惹かれた論文をピックアップしておいて,後で1本ずつ読んでいくという感じです。

 個別の論文を読む段階では,最初に「Abstract」に目を通します。この項目で論文の全体像を把握できる。そして次に読むのが「Discussion」。著者の最も主張したいことが書かれている部分であり,現在のEBMが整理されているので勉強になるんです。ここまで読んでさらに惹かれるものがあれば,全文を読むようにしていますね。

――AbstractとDiscussio...

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