MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2015.04.13
Medical Library 書評・新刊案内
八尾 恒良 監修
「胃と腸」編集委員会 編
[I 上部消化管]芳野 純治,小山 恒男,岩下 明徳 編集委員
[II 下部消化管]小林 広幸,松田 圭二,岩下 明徳 編集委員
《評 者》千葉 勉(京大教授・消化器内科学)
読んで,見て,とても楽しいアトラス
初版以来十数年,待ちに待った「第2版」である。本書はとにかく,読んでいて,見ていて,「とても」楽しい。また疾患満載でとてもハンディである。しっかり見てもよいし,さっと見てもよいのが,本書の素晴らしいところである。
本書の最大の特徴は,やはり画像が素晴らしい点である。初版もそうだったが,今回は拡大内視鏡,NBI,小腸内視鏡などが加わって,さらに充実した。私たちが以前から知っていた疾患が,拡大内視鏡,NBIで見ると,「ああこんなふうに見えるのだ」というふうに,まるで新しい疾患を見たかのような錯覚に陥る。食道のクローン病などがよい例である。実は先日,食道の変な粘膜欠損の患者が来院したのであるが,本書を見て「これだ」と思って,内視鏡をしたら,まさしく食道クローン病であった。
本書のもう一つの特徴は,重要な点が簡潔でありながら,細かく正確に記載,あるいは画像で明快に示されている点である。初版のときにも書評で書かせていただいたが,例えばAAアミロイドーシスとALアミロイドーシスのアミロイド蛋白の沈着部位の違い,GVHDの特徴的な画像,また自己免疫性胃炎の胃体部と幽門部粘膜の差,などが明快に画像や組織所見で示されている。
さらに本書では,極めて多くの疾患が扱われており,辞書のように使えることがうれしい。例えば,天疱瘡の食道や,里吉症候群,セリアック病など,評者が見たことがない疾患もあり,さらにリンパ腫やポリポーシスなど腫瘍性疾患の記載も幅広い。
本書の発行については,八尾恒良先生が全ての疾患に目を通されたそうだが,症例の選び方,構成の仕方など,やはり八尾先生の「するどい目」を随所に感じた次第である。
最後になるが,本書の第3版はいつになるであろうか? 近年,例えば上部消化管疾患で言えば,H. pylori感染率が低下してきたことによって,疾病構造の変化が生じ始めている。その結果,GNAS mutationに特徴付けられる<H. pylori陰性の体部癌やpyloric gland adenomaが注目されるようになってきた。また,新しい疾患として,九大グループから報告されたfundic gland polyposisや,PLA2遺伝子異常を伴い,非特異性多発性小腸潰瘍との異同が注目されているCMUSE(cryptogenic multifocal ulcerous stenosing enteritis),若年性ポリポーシスとHHTの合併例など,新しい疾患,局面も集積しつつある。まだ先の話ながら,ぜひとも第3版を見たいもの,と心待ちする次第である。
[I 上部消化管]
A4・頁400 定価:本体14,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01746-6
[II 下部消化管]
A4・頁368 定価:本体14,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01747-3
集中治療999の謎
田中 竜馬 編
《評 者》小尾口 邦彦(大津市民病院救急診療科・集中治療部)
急性期医療を俯瞰的に見る目が養える本
パラダイス,ジレンマ,アップデート,トリビア,パッションin ICU
ICUにはさまざまな疾患の,時に複雑な病態を抱えた患者がいます。ほぼ全科の医師・さまざまなコメディカルと力を合わせて戦える体制構築ができているかが,そのICUの実力を表します。チーム医療の中で「以前ならとっくの昔に……」という患者が回復するとき,評者は無類の喜びを感じます。その喜びをもらえる場所,ICUはパラダイスであると感じます。
しかしチーム医療は甘くありません。時に治療の方向がわからなくなること,専門医から変な治療方針が出てくることもあります。「おかしい」と言いたいけど,「うまく言葉にできない」ジレンマは少なくありません。例えば,「アンモニア値が高いことを根拠に,意識レベルが良い患者が肝性脳症であることになったら?」「敗血症に対してステロイドパルスを行いたいという話が出たら?」本書ではそういった日常の医療でぶつかるテーマが数多く取り上げられており,現時点での考え方,その考えがトレンドとなる上でどのようなスタディがあったのかが簡潔に丁寧にまとめられています。議論が残っているテーマについても,どういった点でまとまらないのかが明記されています。医師は皆頑固です。バックグラウンドの違う医師と議論する上では,現時点でスタンダードといえる根拠を示さないと聞く耳を持ちません。また,どのような議論があったかを自分なりにアップデートし,自身の治療ポリシーを形成するのに役立てていただきたい。
本書の真骨頂はただのエビデンス本ではないことです。大ネタだけが重要ではありません。小ネタに日常診療へのヒントが多くあります。「下血に対する緊急内視鏡は無意味で,造影CTを第1選択にすべきだ,という意見は荒唐無稽か?」こういうネタ,評者は大好きです。以前から漠然と感じていた日常の疑問への答えをくれます。
トリビアもてんこもりです。評者は,腸管穿孔などにより緊急開腹手術・ストーマ形成をした患者の術後観察のポイントの一つとして「ストーマの色を確認するんやで~」と口を酸っぱくして指導しています。腸粘膜を通じて臓器微小循環を確認できる数少ないチャンスだからです。ただし,体表面に出ている部分は黒くなりがちで,もう少し奥をみたいという思いがありました。ネタばれはルール違反ですのでここでは明かしませんが,「こんな簡単なコツがあったんだ」と感銘しました。
複数の執筆者による本は,必ずしも全ての執筆者に熱意があるわけではないことから難しさを抱えます。しかし,本書は全編からそれぞれの分野で第一人者である執筆者のパッションが伝わってきます。第一人者のパッションは必ずや読者のパッションとなります。
タイトルに集中治療とありますが,集中治療に限定された内容ではなく,急性期医療を俯瞰的に見る目を養うための,養うことができる本といえるでしょう。
A5変型・頁646 定価:本体5,500円+税 MEDSi
http://www.medsi.co.jp/
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