医学界新聞

寄稿

2015.04.06



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
地域医療構想――2015年度から始まる医療改革

【今回の回答者】高山 義浩(沖縄県立中部病院地域ケア科)


 2014年6月,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」1)が成立し,より効率的で質の高い医療提供体制をめざした地域医療の再構築,地域包括ケアシステムとの連携を深めるための制度作りの方針が定められました。この法律を基に,2015年4月より各都道府県で地域医療構想(地域医療ビジョン)の策定が始まります。本稿では,地域医療構想の注目点について解説します。


■FAQ1

昨年,地域医療にとって重要な法律が成立しましたが,ポイントを説明してください。

 内容は多岐にわたりますが,特に地域医療に重要になるのは次の3点でしょう。まず,「地域医療構想」です。これは,将来(2025年を想定)の医療提供体制について,地域の実情に応じて課題を抽出し,住民を含めた関係者で解決のための施策を検討していくものです。おおむね2016年度までに,構想区域(2025年の二次医療圏を想定)ごとに合意を形成し,それを都道府県が取りまとめ,医療計画の一部として策定することになっています。

 次に,「病床機能報告制度」です。この制度は既に昨年10月から始まっており,医療機関が病棟単位で担っている医療機能の現状と今後の方向性を,構造設備や人員配置などの具体的な医療の内容とともに都道府県に報告するものです。2015年3月,初回の結果が都道府県に配布されました。この情報を広く公表することで,地域の医療体制に関する共通認識が関係者や住民の間に形成されることが期待できます。

 最後に,協議の場としての「地域医療構想調整会議」です。これは構想区域ごとに都道府県が設置するもので,地域医療構想の内容(めざすべき姿)と病床機能報告制度の結果(現在の姿)を見比べながら,不足している医療機能への対応など,医療機関相互の協議を行い,かつ地域住民の声を反映しつつ,改革を一歩一歩進めてゆくことになります。

Answer…将来のめざすべき姿と現在の姿を比較し,協議の中で地域医療改革を進めていきます。

■FAQ2

なぜ,このような改革が始まろうとしているのですか?

 国民の高齢化が急速に進展していることが最大の要因です。改革の目標とされている「2025年」は,1945年8月15日の戦争終結から80年の節目の年であり,戦後直後に生まれた「団塊の世代」が後期高齢者となる年です。現時点では,彼らは定年を迎えたくらいですが,今後は次第に持病を持つ人が増え,介護を必要とする人も増えてくるでしょう。つまり2025年に向けて,医療と介護の需要は急速に増大する見通しとなっているのです。

 また,有病者や要介護者などの数字だけでは見えてこない課題もあります。例えば,世帯構成比率が変化し,高齢者のみの世帯が増加することが見込まれています。生涯未婚率(50歳時の未婚率)2)を見ると,1980年には男性2.60%,女性4.45%であったのに対し,2010年には男性20.14%,女性10.61%という急激な変化を認めます。この変化は,頼るべき子どもや親戚がいない無縁独居者が増加することを意味します。

 現行の医療と介護の提供体制のみでは,こうした変化に対応できない可能性があります。今から改革を進め,急性期医療から回復期,慢性期,さらには在宅医療・介護まで,一連のケアが切れ目なく提供される体制を整備し,限られた資源を有効活用する仕組みを構築してゆかなければなりません。医療・介護・介護予防・住まい・生活支援が包括的に確保される「地域包括ケアシステム」を地域ごとに構築することが求められているのです。

Answer…高齢化の急速な進展により,今後さらに医療と介護の需要増大が予想されます。社会構造の変化なども踏まえ,一貫したケアの提供体制を今から構築していく必要があります。

■FAQ3

地域医療構想が,これまでの医療計画と異なるのは,どのような点ですか?

 地域医療構想は医療計画の一部ですから,基準病床制度に基づく量的調整や一般・療養病床で取り組まれてきた役割分担などの基本的枠組みに変更はありません。ただ,2025年という中長期目標の中で,全国で一斉に議論が始まる点,そして入院病床の高度急性期,急性期,回復期および慢性期の4つの医療機能ごとに2025年に予測される医療需要(入院患者数)の推計が行われる点に注目してください。

 これまで地域の高齢化については,「認知症を伴う医療需要の増大に対応できるだろうか」「在宅療養が推進されれば救急外来が混雑するに違いない」など,漠然とした不安として語られることが多かったと思います。一方で,「入院患者は何%増えるのか」,「増えるのは悪性腫瘍か,脳血管障害か,誤嚥性肺炎はどうか」といった具体的な指標はありませんでした。

 しかし,日本には医療施設調査,病院報告,患者調査,受療行動調査などの優れた保健医療統計がたくさんあります。また,レセプト情報を全国レベルでアーカイブ化したNDB(ナショナルデータベース)や,主に急性期病院の入院医療を可視化したDPC/PDPS(診断群分類DPCに基づく包括評価制度)も利用可能です。地域医療構想では,こうしたビッグデータをフル活用して,地域ごとに医療需要の実態を明らかにします。そこに国立社会保障・人口問題研究所が示す将来人口予測を重ねることで,2025年の医療需要を推計していくことになります。この推計には,疾患別の推計や圏域を越えた患者の流出入なども含まれます。これによって,求められる医療提供体制の目標値を手にすることができます。

 もちろん,推計には常に精度の問題がありますが,目標なくして地域での検討は始められません。データ偏重に陥らないように注意しつつも,客観的データに基づく議論が始まることが期待されます。

Answer…2025年に向け全国で一斉に議論が始まり,入院病床の医療機能ごとに医療需要の推計が行われます。

■FAQ4

将来推計以外には,どのような内容が地域医療構想に盛り込まれるのですか?

 将来推計は,あくまで構想策定に向けた足掛かりに過ぎません。まず,二次医療圏単位で導かれた推計結果に加え,疾病構造の変化,基幹病院までのアクセス時間などを勘案し,現在の二次医療圏の妥当性を検討する必要があります。人口規模が小さく,かつ患者の流出が激しい地域では,病床を拡充するよりは隣の二次医療圏と合併させ,その上で適切な医療提供体制を議論したほうが良いかもしれません。

 とはいえ,これだけ医療の内容が多様化した時代において,完全に自立した二次医療圏などあり得ません。既に一定の流出入は発生していますし,それをきちんと見据えた上で,医療圏の役割分担を検討すべきでしょう。特に大都市圏では,圏域にこだわらずに供給体制を調整し,地域連携パスの共有など,患者にとってシームレスな医療提供が行われるよう協議が進められるべきです。

 地域の医療需要の受け止め方について一定の整理がついたところで,医療機関ごとの病床の機能分化と連携が進められるよう,必要な施策も地域医療構想に盛り込んでいく必要があります。例えば,将来推計と病床機能報告の結果を比較すれば,地域で不足するであろう医療機能が見えてくるはずです。当該医療機能の病床を増床するだけでなく,将来的に過剰になることが見込まれる病床機能の転換や集約化と併せて,次第に収れんするように調整してゆくことが求められます。

Answer…患者にとってシームレスな医療提供が可能となるよう,医療機関ごとの機能分化・連携を図るために必要な施策なども盛り込んでいきます。

地域医療構想を策定する上で,地域の医療関係者が心掛けるべきことは何でしょうか?

 この改革をひとごとにしないことが大切だと思います。地域医療構想の策定に当たっては,医師会などの団体の学識経験者の意見を聞くとともに,医療審議会,市町村,そして保険者協議会の意見を聞くことになっています。また,タウンミーティングやアンケート調査,パブリックコメントなど,住民の意見を反映するための手続きも都道府県ごとに取られることでしょう。

 しかし,やはり何より大切なのは,実際に地域で診療している医療従事者の現場感覚ではないでしょうか。担い手となる方々が,実現可能だと思えなければ,あるいはその責任感を共有できなければ,どのような改革も力を失います。ですから,地域から積極的に提言し,改革にいのちを吹き込んでいただきたいと思います。

 また策定の際には,NDBやDPCのような詳細な医療データセットが乱れ飛ぶでしょう。これは今後の医療の在り方を考えるための重要な知的財産ですが,その膨大なデータに目まいすることなく,現場に立ち返るようにしなければなりません。現実の患者は,「生身の人間」であって「単なる記号」ではありません。信頼関係に基づく臨床あっての医療であることを見失わないことが,地域医療構想という改革の成否を握っていると私は思います。

Answer…ひとごとにせず,責任感を共有していくことが大切です。また,実際に相手にするのは記号ではなく生身の人間であることを忘れてはいけません。

■もう一言

 2014年6月の医療法改正では,地域医療構想とともに,「国民は,(中略)医療を適切に受けるよう努めなければならない」(第六条の二第三項)とする条文が加えられました。医療の利用者である住民の責務が明示されたことは画期的だと思います。ただし,責務が課せられたということは,適切な医療が受けられるよう求める権利も生じたと言えます。医療を密室化させず,住民としっかり向き合うことが,これまで以上に求められるようになっています。

参考文献
1)厚労省.地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案要綱.2014年.
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/186-07.pdf
2)国立社会保障・人口問題研究所.人口統計資料集 VI.結婚・離婚・配偶関係別人口(表6-23).2014年.


高山 義浩
2002年山口大医学部卒。JA長野厚生連佐久総合病院などを経て,沖縄県立中部病院にて感染症診療と院内感染対策に従事。また,在宅緩和ケアにも取り組んでいる。行政では,厚労省健康局においてパンデミック発生時の医療体制の構築に取り組んだ他,2014年より1年間,厚労省医政局において都道府県による地域医療構想の策定支援に従事した。

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