医学界新聞

寄稿

2015.03.23



【視点】

ノーリフトの新たな展開

保田 淳子(日本ノーリフト協会代表理事)


 医療機関や訪問看護ステーションなどの法人会員を対象とした「全国ノーリフト医療協議会(仮)設立準備会」が,2015年1月25日に立ち上がりました。ノーリフトは,腰痛の原因となる「力任せ(人力)の移乗」を禁止しています。この考えは,無理に持ち上げられるケア対象者の苦痛の軽減や自立度を考慮した福祉用具の活用へとつながります。

 看護・介護職の腰痛予防対策マネジメントの普及を目的として2009年に設立した「日本ノーリフト協会」は,個人会員を中心に活動してきました。ノーリフトの効果を知った一人ひとりの想いで広がってきた,草の根レベルの活動です。あれから6年,今では「職員が長く働き続けるには,ノーリフトが必要だ」という認識が,管理者や経営者の間でも広まっています。この背景には,看護や介護の人材不足が深刻になっていることも影響していると感じています。

 また日本では,ノーリフトの取り組みが拘縮症状の軽減や寝かせきり防止といった成果につながり,ケアの質の変化も実感しています。以前に筆者が本紙に寄稿した際は,「ノーリフトは考えを変え,現場を変え,ケアの質を変える」と記載しました(第2876号2010年4月19日付寄稿「ノーリフト=持ち上げない看護――オーストラリア発の新しい腰痛予防の試み」)。しかしながら,ノーリフトがここまでケアの質を変えるとはその当時は気付いていなかったかもしれません。今は実感しています。ノーリフトケアを行うと,患者さんの表情や身体状況が確実に変わるのです。

 看護・介護職が腰痛を引き起こすような“力任せな”介助は,ケアを受ける側にも表皮剥離や褥瘡の悪化,筋緊張などを引き起こし,ケアの質を低下させます。ノーリフトでは,「ケア提供者は最小限のエネルギーを使って相手の最大限のエネルギーを引き出す」という言葉があります。私も最初は,福祉用具を使うことに抵抗がありましたが,“力任せな”介助の不利益を最も被るのは,ケアを受ける側だと知って考えが変わりました。

 日本ノーリフト協会では,腰痛予防対策やポジショニング,拘縮予防などが学べる「ノーリフトケアコーディネーター養成講座」を本年4月に新設します(http://nolift.jp/)。ノーリフトの先進国オーストラリアで作られたプログラムを日本用に改訂し,腰痛予防対策とケアの質向上の両立をめざした理念と技術を普及させていきたいと考えています。


保田 淳子
2005年フリンダース大(豪州アデレード)看護学部に編入し,学士取得。06年同看護大学院ヘルスマネジメント講座修士課程修了。『訪問看護と介護』誌2015年3月号(20巻3号)特集では,ノーリフトによる身体介助の実践を解説している。

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