医学界新聞

寄稿

2015.03.16



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
骨粗鬆症治療薬ビスホスホネートの適切な使い方

【今回の回答者】竹内 靖博(虎の門病院内分泌センター部長)


 骨粗鬆症患者の数は現在,約1300万人。未曽有の超高齢社会を進むわが国において,健康寿命の延伸や介護予防などの点から,骨粗鬆症の予防・治療は今後ますます重要な課題となります。本稿では,骨粗鬆症治療薬として代表的な骨吸収抑制薬「ビスホスホネート(BP)」の適切な使い方とその考え方を示します。


■FAQ1

BPによる治療で,本当に骨折は予防できるのでしょうか。

 まず前提から入りますが,骨粗鬆症治療薬の骨折予防効果の評価は,骨折部位別に行うことが一般的となっています。通常は,椎体・大腿骨近位部・非椎体(大腿骨近位部,橈骨遠位端,上腕骨近位部,脛骨,骨盤,肋骨)の3領域に分類します。椎体骨折に関しては,患者さん自身が骨折を自覚する臨床骨折と,骨折発症時期が不明な形態骨折とに分類することもあります。

 BP開発時の臨床試験では,プラセボと比較し,椎体骨折で約50%,大腿骨近位部骨折で約55%,非椎体骨折で約30%の骨折抑制効果が示されています。多くの臨床試験で対象とされる,80歳代までの閉経後女性における原発性骨粗鬆症であれば,上記の程度の骨折予防効果が期待されると言えるでしょう1)

 日常の診療の中では,どの程度の骨折抑制効果が認められるのかを正確に評価することは確かに困難です。しかし,例えば大腿骨近位部骨折については少なくとも30%程度の抑制効果があると推定され,大腿骨近位部をすでに骨折している患者では,その後BPを始めることで反対側の骨折が70%も減ったと報告されています2)

 いくつかの状況証拠も,BPの登場によって大腿骨近位部骨折の発生率が低下していることを示唆します。例えば,BPの代表であるアレンドロネートが1995年に欧米で使用可能となってから,大腿骨近位部骨折の発生率が低下に転じているという現象が挙げられます3)。他の例では豪州で,BP長期投与による顎骨壊死のリスクが懸念され,その処方量が減少した時期にやや遅れて再度大腿骨近位部骨折の発生率が上昇するという結果も見られており,これもBPの骨折抑制効果を逆説的に示唆する証拠と考えられています4)

 ただ,BPによる骨折予防効果を得るには,正しく治療されることが必要とされています。「正しく」というのは,少なくとも1年以上継続して,治療期間内の処方率が80%以上で,内服方法が遵守され,かつビタミンDやカルシウムが充足していれば,ということを意味します。そのため,骨粗鬆症治療を行う場合には,薬剤の選択のみならず,正しく治療を続けるための工夫が大変に重要なポイントです。

 なお,男性および90歳以上や閉経前の女性における骨折抑制効果については,臨床試験で十分に証明されていません。しかし,BPの薬理作用から考えると,性差や年齢の影響は乏しいと考えられ,上記の条件であっても一定の骨折予防効果が得られるだろうと推測できます。

Answer…BPを正しく使用することにより,骨粗鬆症による骨折,とりわけ大腿骨近位部骨折の予防効果を期待することができます。

■FAQ2

BPの投与によってかえって増える骨折があるそうですが,どのように対処したらよいのでしょうか。

 BPが普及して10年ほど経ったころから,大腿骨転子下や骨幹部の横骨折あるいは斜骨折といった,骨粗鬆症による骨折とは異なる骨折(非定型骨折)が増えているのではないかと懸念されています5)

 確かに非定型骨折はBP治療中の患者以外でも認められますが,いくつかのコホート研究では,BP投与がリスク因子として抽出されています。発症機序としては,BPによる骨代謝抑制が著しいため,力学的負荷が集中しやすい皮質骨に生じた微小クラックを除去することができず,局所的な骨強度の低下を認めるためではないかと推測されています。また,国内の研究によれば,非定型骨折は,O脚により大腿骨骨幹部外側に応力集中が起こりやすい患者のBP治療中に認められることが明らかになっています。

 ただ,非定型骨折の頻度は大腿骨近位部骨折の1%程度とされているため,BPによる骨粗鬆症性骨折の抑制効果を考えれば,大きな問題にならない程度のリスクだと考えられます。

 なお,非定型骨折を生じる患者では,事前に大腿の鈍痛を自覚することが多いとされています。とりわけO脚の患者では,こうした症状に注意しておくことが望ましいと考えます。

Answer…P治療により非定型骨折が増える可能性は否定できませんが,それを十分に上回る骨折抑制効果が期待されます。なお,治療中,とりわけO脚の患者では,大腿部の鈍痛に注意を払うことが早期発見のために大切です。

■FAQ3

BPの長期投与には弊害もあるため,5年間継続したら休薬すべきとの意見もありますが,どうしたらよいでしょうか?

 海外における非専門医によるBP投与期間の一般的な考え方は,(1)最低3年間は継続,(2)5年経ったら継続か休薬かを検討(考えずに休薬する医師も多いと推測されますが),という2点に集約されると思われます。大腿骨近位部骨折の抑制効果を期待するのであれば,少なくとも2-3年の継続が必要とされていますので, 3年間は継続したいものです。英国の保険診療制度でも,骨粗鬆症治療を始めたら,3年間は骨密度検査をせずに治療を継続することになっていると聞きます。

 次に,5年経ったら継続か休薬かを検討することになります。これは2012年にFDAから『The New England Journal of Medicine』誌に発表された意見記事が大きな影響を与えているのでしょう6)。FDAの持つ臨床データを独自に解析した結果から,BPを最長5年間継続して休薬した後の骨折率は,さらに5年間投与を継続した場合と比べて,全体として有意差はないという結論が得られたとして,5年間継続したら,休薬することも含めて検討するように提案しました。もちろんFDAは「5年間継続したら休薬すること」を推奨しているわけではありません。「さらに続ける利益と不利益を慎重に判断するように」とコメントしているのです。しかし,BPの長期使用に伴う顎骨壊死や非定型骨折が危惧されていた状況もあって,FDAのこの見解は臨床医の処方動向に大きな影響を与えたと推測されています。

 ただ,継続か休薬かをどのような基準で判断すればよいか,ある程度の目安がなければ実際の診療現場では混乱が生じます。そこで,UK NOGG (UK National Osteoporosis Guideline Group)は,2013年,BP休薬の基準案を公表しました(7)。これは,ウェブ上に公開されているFRAX®という骨折リスク評価ツール8)で評価し,骨密度測定値と合わせて総合的に判断するというもので,非常に理にかなった見解です。しかしながら問題もあり,日常診療の現場でFRAX®を利用することは煩雑で必ずしも容易ではありません。

 UK NOGGのビスホスホネート休薬の基準案7)

 そこで,最低限押さえておきたいこととして挙げたいのは,(1)治療中に新規骨折が生じた場合には,薬剤の種類はともかく,骨粗鬆症治療薬を継続する,(2)既存骨折(無痛性の椎体圧迫骨折も含む)があり75歳以上であれば治療を続ける,(3)大腿骨近位部骨折の既往があれば治療を続ける,(4)BP休薬を検討するのは(1)-(3)を満たさず,かつ治療により大腿骨骨密度が骨粗鬆症診断閾値を上回った場合,という4点です。

 もちろん漫然としたBPの継続が推奨されるわけではありません。治療継続中に骨折が生じた場合には,骨形成促進薬であるテリパラチドへの変更を検討することが必要ですし,数年の経過で骨密度の上昇を認めない場合には,BPの種類や投与経路の変更,あるいは抗RANKL抗体(デノスマブ)への切り替えなどを積極的に検討することになります。大切なのは,ここで議論されている「休薬」はあくまでもBPの休薬ということです。患者によっては,他の骨粗鬆症治療薬に切り替えて治療を継続することが望ましいと考えられます。

Answer…患者ごとにBP継続による利益と不利益を考慮し,その休薬の是非を決めることが望ましいでしょう。BPの骨折抑制効果と既知の有害事象のリスクとを厳密に比較衡量することは困難ですが,治療中の新規骨折,既存骨折が有りかつ75歳以上,骨密度が骨粗鬆症領域にとどまる,のいずれかを満たす場合は,治療を継続する方向で検討することが望ましいと考えます。

■もう一言

 骨粗鬆症治療の目的は骨折予防であり,その結果を日常的に実感するのは,逆説的ではあるものの治療効果が得られず骨折してしまった場合に限られます。治療の不利益そのものも,消化器症状を除くと極めてまれなものです。したがって,骨粗鬆症治療においては,利益と不利益を,臨床医が患者ごとに比較衡量することは実際にはほぼ不可能でしょう。ですから,これまで得られたEvidenceに基づいた診療指針(各種のガイドラインなど)を参考にして診療することが原則です。その上で,目的達成のために,とりわけ治療継続を目標とした工夫を,患者ごとに最適化していくことが望ましいのではないでしょうか。

参考文献・URL
1)J Clin Endocrinol Metab. 2012[PMID : 22466336]
2)Osteoporos Int. 2012[PMID : 21394496]
3)JAMA. 2009[PMID : 19826027]
4)Clin Interv Aging. 2010[PMID : 21228901]
5)J Bone Miner Res. 2014[PMID : 23712442]
6)N Engl J Med. 2012[PMID : 22571168]
7)Maturitas. 2013[PMID : 23810490]
8)FRAX®. WHO骨折リスク評価ツール.


竹内 靖博
1982年東大医学部卒。米国国立衛生研究所(NIH)骨研究部門研究員,東大第四内科助手を経て,2003年東大腎臓・内分泌内科講師,04年より現職。専門は内分泌学全般,骨・ミネラル代謝学,代謝性骨疾患。「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2011年版」では,執筆者の一人として作成にかかわった。