オランダ家庭医のアイデンティティと,家庭医を支える仕組み(三島千明)
寄稿
2015.03.09
【投稿】
オランダ家庭医のアイデンティティと,家庭医を支える仕組み
三島 千明(北海道家庭医療学センター・後期研修医)
筆者は,所属する北海道家庭医療学センターの家庭医療後期研修の一環として,オランダのラドバウド大医学部のDepartment of Primary and Community Careを訪問し,2週間の家庭医(GP;General Practitioner)診療の研修を行う機会を得た。英国やオランダは世界的にもプライマリ・ケア先進国とされ,その医療システムが注目されている。本稿では,日本国内で家庭医療を学ぶ後期研修医の視点から,オランダのGPの魅力を報告したい。
地域住民と深い信頼関係を築くGP
暖色の柔らかな色の壁,観葉植物や絵画,片付けられたシンプルな机,豪華ではないが座り心地のよい椅子。穏やかな雰囲気は,診察室というより,リラックスできる部屋をイメージさせる。私服のGPは,患者に身体を向けてしっかりと話を聞き,語られるストーリーを引き出す。受診理由を探り,医学的なアセスメントとともに患者の感情・解釈のアセスメントを行い,医師―患者間の共通理解を構築。予測される状況の対応策を説明し,患者のセルフケア能力をエンパワーメントする。すると,患者はほっとした表情で部屋を後にしていく――。以上は筆者が観察した約10分間のGPの診療風景だ。
プライマリ・ケアを基盤とするオランダは,一次医療と二次医療,さらに高度な医療を提供する三次医療との役割が明確に区分され,地域住民は健康問題があれば,最初にGPのいる診療所を訪れる。GPは,患者が必要とする医療につなげていく「ゲートオープナー」の役割を果たしているのである。それゆえ,GPが対応しなければならない疾患・健康問題も幅広い。喘息の小児,複数の慢性疾患を抱えた高齢女性,家族の問題に悩む患者,頭痛を訴えるうつ病既往の男性,妊娠の可能性を相談する女性など,さまざまだ。しかし,実に96%の健康問題がプライマリ・ケア領域で対応されているというのだから驚いてしまう1)。
GPがチーム医療のコンダクターとして,看護師,医療助手,作業療法士,理学療法士,心理士,薬剤師など多職種の協働を図っている点も大きな特徴だろう。例えば,糖尿病・喘息などの安定した状態の慢性疾患患者であれば,慢性疾患管理のトレーニングを受けた「プラクティスナース」に看護師外来での対応を依頼する。通常,看護師による外来はGPよりも長い診療時間が設定されている。患者側も時間をかけた丁寧な診療が受けられるため,満足度も損なわれないという。結果的に,GPはより複雑な問題を持つ患者に集中することができる。
また,GPは,午前・午後にわたる外来診療の他,訪問診療も行う。筆者が同行させてもらったのは,パーキンソン病の高齢女性,大腸がん末期の男性,血液腫瘍の男児。ここでもGPは,地域に点在する在宅ケア組織や多職種,二次医療機関の専門医と連絡を取り合い,地域で切れ目のないケアを支えるコンダクターだ。GPはかかりやすい身近な存在として24時間対応し,不明な点は専門医に相談,時に患者・家族の「代弁者」としてきめ細かな調整も行う。訪問先の患者宅では,患者・家族―GP間の深い信頼関係も垣間見えた。「延命的な処置を望むか否か」「尊厳死」といったデリケートな話題も自然と挙がってくると
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する
国民に最新の医薬品を届けるために対談・座談会 2025.01.14
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する カラー解説
創薬における日本の現状と国際動向寄稿 2025.01.14
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ
[第22回] 高カリウム血症を制するための4つのMission連載 2024.03.11
最新の記事
-
2025.01.14
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する カラー解説
創薬における日本の現状と国際動向寄稿 2025.01.14
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する
国民に最新の医薬品を届けるために対談・座談会 2025.01.14
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する
医薬品開発の未来を担うスタートアップ・エコシステム/米国バイオテク市場の近況寄稿 2025.01.14
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する
患者当事者に聞く,薬のことインタビュー 2025.01.14
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。