医学界新聞

2015.03.02



Medical Library 書評・新刊案内


耳科手術のための
中耳・側頭骨3D解剖マニュアル
[DVD-ROM付]

伊藤 壽一 監修
高木 明,平海 晴一 編

《評 者》加我 君孝(東大名誉教授/東京医療センター臨床研究センター名誉 センター長/国際医療福祉大教授・言語聴覚センター長)

ビギナーには最初から,ベテランには後ろから読み進めてほしい書

 現代の耳科学手術は人工内耳埋め込み術と頭蓋底外科というモダンな先端的手術と,60年の歴史のある鼓室形成術からなる。前者は耳科学のエキスパート,後者は耳科学をめざす新世代が最初に目標とする手術である。京大の伊藤壽一教授が他大学の参加者を募って,1年に2回,側頭骨の解剖を中心とする修練のためのコースを長い間開催してきた。国立大学の教室として,このような全国の耳科医に対してコースを開催し続けたのは京大のみである。最近では世界中の各地の大学で同様のコースが企画されているが,私も駆け出しのころ,ロサンゼルスのHouse Ear Instituteの側頭骨解剖コースに2回参加した。このコースから学んだことはたくさんあった。しかし,昨年突然閉鎖されたため,この伝統あるコースもなくなった。私だけでなく世界各国からの参加者はその教育への熱意,臨床のシステム,研究,そして米国の耳科学の伝統に強い印象を受けたことと思う。日本で同様のことができるであろうか。

 伊藤壽一教授と私は,UCLAに同時期に研究のために留学していたことがあり,それ以来親しい関係にある。ロサンゼルス留学で生まれた夢をわが国で実現したのが京大の側頭骨解剖コースと思われる。本書はその成果をA4判の大きなサイズの本に,鮮明な写真と3Dのstill写真と3D DVDが付録として付いている意欲作である。

 本書はビギナーは最初から読み進め,エキスパートは逆に後ろから読むと刺激されるに違いない。鼓室形成術に必要な局所解剖がかゆいところに手が届くように記述されている。手技上注意の必要な点について警告しているところがいい。エキスパートの手掛ける人工内耳埋め込み術,頭蓋底外科の部分は私も大いに参考になった。側頭骨には狭いところに重要な器官が密集している。両眼で観察して手術するのであるが,現在の手術用顕微鏡ではメインの術者しか立体視ができない。すなわち,奥行きがわからないのが大きな弱点である。そのため本書は3D化に力を入れている。すなわち立体的に頭の中に組織解剖を叩き込んで,初めてより安全な手技が可能となる。最近では乾燥側頭骨の価格も高くなり,ましてcadaverになるとわが国では手に入れることはより困難になっている。このような時代,パーソナルに自分の脳を立体写真と動画で刺激できる本書は有用である。ただし,本書に記述している手術手技がどのような歴史的経緯で,誰によって提唱されて発展してきたか,コラムとして解説があればビギナーにとってより興味を持って本書を読み進めることができるのではないかと思う。

 側頭骨の解剖のテキストは立体写真を付録とするものがこれまでも存在するが,本書は耳科学のエキスパートや初心者にとっても優れている。この本の編者の高木明先生の読者にわからせようとする執念と工夫,そして膨大な写真データも準備整理して取り組んだ平海晴一先生の努力の結晶である。

 手術の前にはベテランの域に入っても解剖書を開き予習するように口を酸っぱくして言われたのは切替一郎東大名誉教授であった。本書はその期待に応えることのできるテキストとして,耳科学の術者の座右の書として利用することを薦めたい。

A4・頁176 定価:本体14,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02036-7


Dr.宮城×Dr.藤田
ジェネラリストのための呼吸器診療勘どころ

宮城 征四郎,藤田 次郎 著

《評 者》山中 克郎(諏訪中央病院内科)

重要なポイントを押さえたい研修医,指導医必携の一冊

 豊穣な知識を持ちながら多くは語らない。それが私の憧れる指導医像である。患者さんへの慈しみと人間愛にあふれ,静かに一線を守り寡黙な風情を見せるほうが格好いい。

 宮城征四郎先生が司会をされた症例検討会に参加させていただいたことがある。時系列に基づいた症状の変化と基本的身体所見の中で,何に注目すべきかを明確に示す大変教育的な診断推論カンファレンスであった。本書ではその教えが臨場感を持って迫ってくる。決して多くの知識を読者に与えるものではない。どの症状や所見が診断の絞り込みに重要であるかという診断推論のポイントが示されている。「疾患当てゲームではなく,どう考えどうアプローチするかという過程が重要」なのだ。

 呼吸器疾患を有した15の教育症例が含まれている。最初に病歴と身体所見が担当医により発表される。「診療の勘どころ」では宮城先生や藤田次郎先生が,鑑別診断を絞り込む様子を見せてくれる。例えば,喀痰の性状で起炎菌がわかる。「鉄錆色(肺炎球菌),イチゴゼリー状(クレブシエラ),オレンジ色の粘稠痰(レジオネラ)」(p2)という情報を知っていることは臨床医の腕の見せどころである。「呼吸数が30/分以上となるなら病態は四つしかない(敗血症,低酸素血症,過換気症候群,呼吸筋の障害)」(p101)。こんなふうに言い切れるなんて,なんと悠々としてすてきなことだろうか。

 さまざまな情報からどれが診断に重要な情報であるかを見極めること,数多く考えられる鑑別診断から可能性が高い診断へと一気に絞り込む方法は,実は非常に奥深い臨床的センスがいる技術なのである。

 藤田先生の「画像診断のポイント」では特徴的な陰影とその分布から鑑別診断が導かれる。原著論文まで引用した「文献考察」も秀逸である。「Hornerはスイス生まれの眼科医で,Horner症候群の原著は1869年にドイツ語で報告されている」そうだ(p154)。40歳の女性について眼瞼下垂,縮瞳,眼球の軽度陥没,発汗低下という詳細な臨床所見を記載し,これが交感神経の異常であることまで指摘したHornerの洞察力に深い感銘を受ける。疾患が見つかった歴史的背景や科学的意味を知ることは楽しい。

 また表や図を用いた,抗真菌薬の作用機序と各種真菌に対する効果のまとめ(p75)とガイドラインに基づいたアスペルギルス症に対する標準治療の解説が非常にわかりやすい。さらに喜舎場朝雄先生をはじめ,超一流の臨床医からのコメントも学ぶことができる。なるほど,そこに着目すればよいのか。

 情報過多に陥っている研修医に必要なのは,重要ポイントを押さえた学習であろう。この本を手に入れて,指導医としての人生を変えるという発想もありだろう。研修医だけでなく,もう一度呼吸器疾患を学び直したいベテラン医にもこの名著を推薦したい。

B5・頁192 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01979-8


≪標準言語聴覚障害学≫
摂食嚥下障害学

藤田 郁代 シリーズ監修
熊倉 勇美,椎名 英貴 編

《評 者》植田 耕一郎(日大歯教授・摂食機能療法学)

時代のニーズを反映した基礎から学べるテキスト

 言語聴覚士の標準的なテキストとして生まれたのが本書である。特筆すべきは,例えば第1編「摂食嚥下機能とその障害」において,摂食嚥下のメカニズムを発達と成熟から始めて加齢としての変化に至る流れで提示し,また摂食嚥下障害を小児と成人に分けてあるように,全体が中途障害のみならず発達期(小児疾患)に対してもその詳細が記されているところである。

 第2編の「摂食嚥下リハビリテーションの実際」では,言語聴覚士に求められる必要かつ十分な評価法についてまとめられている。ここでも「小児の治療・訓練」は成人の項と同等のページ数を占めている。「成人の治療・訓練」の中では,脳血管障害,神経変性疾患,器質性疾患以外に認知症について言及している。認知症ごとに摂食嚥下障害としての特徴を紹介しており,時代のニーズを意識したことがうかがえる構成である。

 本分野に携わっている...

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