がん医療はチームで担う(小松浩子,大江裕一郎,梅田恵)
対談・座談会
2015.02.23
【鼎談】がん医療はチームで担うチーム医療のリーダーとして看護師がすべきこと | |
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2007年のがん対策基本法施行に伴い,がん対策推進基本計画(以下,基本計画)が策定され,がん医療の均てん化をめざした第3次対がん10か年統合戦略の推進によって,がん診療連携拠点病院の整備などが進んだ。2012年度には,第二次基本計画が閣議決定され,現在5か年計画も4年目を迎えようとしている。
今後ますます超高齢社会が進み,がん患者数や死亡者数の増加が予想される。一方高度先進医療の進展に伴いがんの治療法は多岐に渡り,医療者に求められる知識とスキルも格段に増えている。
患者とその家族をとりまく社会状況なども変化する中,がん看護もより一層の充実が求められる。本鼎談では,がん医療の動向と課題を踏まえ,がんのチーム医療の中心として看護師が担うべき役割について語っていただいた。
小松 がん関連の施策の推進により,がん医療に対する看護師の意識も大きく変わってきました。
11分野ある専門看護師の登録者1466人のうち,がん看護専門看護師は581人と,4割に達する人数です(2015年2月時点)。また,がん看護関連分野の認定看護師も4000人以上を数え,がん看護は最も専門性が発展している領域と言えます。
そのような中,今後がん医療に携わる看護師の課題として挙げられるのが,(1)がん医療にかかわる看護師の実践力の底上げと標準的ケアの推進,(2)チーム医療の推進,(3)患者とその家族のQOL向上,(4)在宅療養支援・地域連携の4点だと考えます。がんに携わる看護師は,今まさにいくつもの大きな課題を突き付けられていますが,これらは,挑戦の機会でもあるのです。
大江 専門・認定看護師は本当に増えましたね。それだけ社会からのニーズも高いということです。近年,高度先進医療やがん患者の個別化医療が進み,看護師が担う範囲もどんどん広くなっています。がんの分野を担当する専門・認定看護師の方々の知識は,共に働く医師と肩を並べるほどしっかりしており,私はいつも感心しています。さらに,看護師はチーム医療の中で中心的な役割を果たしています。
しかし,専門・認定看護師の絶対数はまだ十分とは言えません。将来的には,例えば外来の化学療法室にいる看護師全てが認定の有資格者,というレベルに達するのが理想でしょう。当院もそこまでは至っておらず,専門・認定看護師の方々がリーダーとなって一般の看護師の教育に当たっている段階です。がん医療の知識を有する看護師を,もう少し効率的に増やしていきたいですね。
標準的ながん看護ケアの実施に向けて
小松 そこで,1つ目の課題である,がん看護に携わる看護師の実践力の底上げについてです。
日看協も2013年から「がん医療に携わる看護研修事業」を実施し,各施設の専門・認定看護師が「緩和ケアに関する指導者となる看護師(リンクナース)」を教育できるよう研修を行っています。本事業は,日本がん看護学会と協働し,特別委員会が組織され進められています。
梅田 特に,がん専門病院ではない一般病院でも,がん患者さんが集まる部署に注力してレベルを上げていかなければなりません。私は専門看護師になって十数年が経ちますが,看護師の実践力の底上げも「量」から「質」へと次のステップに進むことも必要だと思います。当院は,かつての量的な底上げ偏重から,変わりつつあります。
小松 どのような点でしょう。
梅田 専門・認定看護師自身ががん看護に特化した仕事を作り出し,がん看護にかかわる看護師の臨床実践の意義を,医師や組織に理解してもらえるような働き掛けが増えていることです。
小松 組織の変容を促すという,次の段階に進んでいるのですね。今後「質」を高めるには,医療者同士が共通認識を持てる標準的なケアをいかに提供できるかも問われてきます。医師から見て,標準的ケアが特に必要とされるのは,どのような分野でしょう。
大江 それは,化学療法による治療とケアです。がんの治療法には主に手術療法,化学療法,放射線療法の3つが挙げられますが,そのうち「化学療法」では,分子標的薬を用いた治療が格段に進んでいます。かつて抗がん薬による副作用といえば,消化器毒性による悪心・嘔吐,血液毒生による脱毛などとおおまかに決まっていました。ところが,新しい分子標的薬の開発により,その薬ごとに多様な副作用が出るようになった。内科的な管理に限らず,幅広い知識に基づいたケアが必要になっています。
小松 症状が複雑なだけに,医師も把握が大変だと思います。
大江 全ての医師が,全ての領域を把握することは当然不可能ですから,そこに看護師の活躍が期待されるのです。副作用の管理に看護師が介入することで,患者さんはもちろん,医師もさまざまな負担が軽減されます。実際当院では,看護師が皮膚科など他科の医師とコンタクトをとってケアを引き継ぐなど,非常に重要な役割を果たしています。
梅田 たしかに,皮膚科など他科へのコンサルトは看護師の仕事にすべきですね。ただ,他科の看護師も,必ずしも全員ががんを専門としているわけではありません。ですから,他科とのやりとりも,がんの専門知識がある看護師同士で常時できるようになると,連携がもっとスムーズになると思います。
小松 新しい分子標的薬には,どう対応していますか?
大江 開発はまさに日進月歩で,新しい分子標的薬が出るたびに院内で勉強会を開いています。
小松 新薬は個々人で対処できるものではなく,他の専門職との連携や協働が欠かせません。国立がん研究センター東病院(以下,東病院)では肝細胞がんに対する分子標的薬ネクサバールの使用に際し「チームネクサバール」というチームを作ったことで,副作用に対する専門職によるチームアプローチの効果を非常に高めたという報告があります1)。
大江 分子標的薬による患者さんへの副作用対策を,全て個々のチームとして行っているわけではありません。次々に新しい分子標的薬が出ていますから,単体の薬ごとのチームではなく,抗がん薬治療の一環としてチームを組み,適宜対応を協議する形が多いです。
梅田 専門的に対処できる集団が組織され,標準的な介入モデルを示し,それを現場に還元していく。このようなパターンができると,標準的ケアも整い,専門・認定看護師以外に一般看護師の実践力の底上げとも連動していけるでしょう。さらに,こうした介入モデルが院外にも波及していけば,どの施設の外来でも似た機能が持てるようになる。がん医療のレベルもまた一段高くなるのではないかと思っています。
多職種連携で臨む服薬管理
小松 がん医療の2つ目の課題にチーム医療の推進が挙げられます。現在,がん診療連携拠点病院であっても,専門・認定看護師の数は決して多いとは言えず,中には専門・認定看護師がいない施設もまだ数か所あるのが現状です。こうした状況の中,患者さんに適切な治療とケアを行うためには,医師と看護師,さらに薬剤師が連携し,知恵を絞っていかなければなりません。
大江 私が昨年度まで在籍した東病院は,2009年に「薬剤師外来」を開設しました。一番初めの抗がん薬処方時には薬剤師による指導が必ず入り,その後のフォローアップにもかかわります。医師が患者さんを診察する前に,薬剤師が直接話をして,服薬状況や副作用をチェックする。その上で,医師に処方の提案もしてくれます。
小松 その取り組みは参考になりますね。昭和大病院では服薬指導の際,看護師と薬剤師の分担はどうしているのでしょう。
梅田 入院中は薬剤師が行いますが,外来では薬剤師が配置されていないため,看護師が行います。薬剤師も入院・外来を通してサポートをしたいと考えているものの,体制整備が追いついていないのが現状です。薬剤師による服薬指導の体制は施設によりかなりばらつきがあるのではないでしょうか。病棟から外来にどのように継続して指導できるのかは,どの施設も課題かもしれません。
小松 2014年の診療報酬改定により,薬剤師によるがん患者指導管理に診療報酬が加算されるようになりました。チームの一員として外来で薬剤師と協働するために,看護師にはどんな役割が求められているのでしょう。
梅田 薬剤師による患者さんへの薬剤の使用方法・管理方法についての説明はとても重要です。そこで,両者のやりとりがよりスムーズになるような橋渡しが,看護師の重要な役割になります。患者さんからの連絡や情報は,まず看護師が受けることが一般的かと思います。そのため,在宅や介護施設といった患者さんの療養環境,家族の協力体制の有無や患者さんの気掛かりな点,コミュニケーション・パターンなど個々の状況の違いを薬剤師とも共有し,効果的な服薬指導につなげることが患者さんにとってのメリットになると思っています。
小松 看護師によるアセスメントが必ず入るからですね。では,医師から見て,服薬管理で注意していることは何でしょうか。
大江 高齢の方で,認知機能が低下している患者さんです。医師が会話して認知機能は問題ないと思っても,看護師の観察により,機能が落ちているとわかったこともあります。看護師は,患者さんの様子をよく見ていますね。
梅田 高齢になるとアドヒアランス以前に,認知機能低下による問題が出てきます。患者さんが「薬は飲んだ」と言っても,実は飲んでいなかったり,「体調に変化があったら知らせてほしい」と伝えても,言われたことすら忘れていたり。
大江 がんで亡くなる方のおよそ半分は75歳以上です。高齢化の問題と服薬管理は切っても切り離せません。
梅田 高齢患者を見守る家族も,既に高齢になっている場合もあります。看護師が生活環境まで想定し,できる範囲の管理方法を医師や薬剤師と話し合いながら,時間をかけて説明する必要があります。
大江 ご家族の患者さんへのかかわりの様子は見落とせません。医師だけで話をするのは,いくら時間があっても足りませんし,得られる情報にも限りがあります。さまざまな判断をする上で,看護師の介入や情報提供は非常に有益です。それがないと特に高齢者の場合,治療に対する判断を間違いかねません。
看護師の「予測する力」で患者・家族をサポートする
小松 基本計画では,「がんと診断された時からの緩和ケア推進」が掲げられ,医療者に限らず広く浸透しつつあります。患者さんは,がんと診断された時から苦悩を抱え,難しい治療を理解し,ご自分の治療に向き合っていくことになります。治療から退院後の生活まで,がん患者さんのQOLをどう維持向上すればいいのか,これが3つ目の課題です。
大江 がんと共に生きていくことについて深く考える患者さんが増えていますね。社会によるがん対策の啓発により,医療者と患者さん,それぞれに意識の変化が起こっているのでしょう。 ...
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