医学界新聞

2015.02.09



Medical Library 書評・新刊案内


誰も教えてくれなかった 乳腺エコー

何森 亜由美 著

《評 者》植野 映(筑波メディカルセンター病院ブレストセンター長/専門副院長)

正常像を理解することで癌を早期に的確に発見できる

 本書の題目は『誰も教えてくれなかった 乳腺エコー』となっているが,この題目をそのまままともに受け取ってはいけない。これは著者の謙虚な姿勢から付けられた題目である。本来であれば『誰も知らなかった 乳腺エコー』が本書の題目に付けられるべきかもしれない。今まで著者の発表を拝読・拝聴し,意図するところはおおむね理解はしていたが,本著を通読することにより,さらにその理解が深まった。ここに収められた内容は単に独学で学んだ診断学ではなく,新しく切り開いた乳房超音波診断学の話である。

 腫瘤像を形成しない乳癌の存在は,1980年代より報告されてきた。それを診断するに当たり日本超音波医学会とJABTS(日本乳腺甲状腺超音波医学会)では,腫瘤性病変と非腫瘤性病変とに分類して,多くの研究者がその読影能力の向上に努力をしてきた。著者はその中の一人である。

 非腫瘤性病変はいくつかに亜分類され,その中の斑状等エコーは若年者の正常乳腺と非浸潤性乳管癌をはじめとする乳管内増殖性病変のときに認められる。しかしながら,この斑状等エコーが何を意味しているのかについては,いまだに解明されていなかった。そこに着目し,著者は超音波画像と組織とを対比し,それが何であるかを新しく発見したのである。方法は,乳癌の乳管内成分を世界で初めて超音波で検出した角田博子先生(聖路加国際病院放射線科)と同じ手法を採用している。標的部位の超音波画像を少しずつ角度変化させて断層像を複数枚にわたり撮影し,組織標本と合致する画像を見つけてその組織がどのように超音波で描出されるかを探ったのである。本著にはその結果が詳細に記された。

 著者は,小葉,乳管のサイズから見て等エコー域が大きいことに疑問を抱き,組織像を前述した方法で綿密に観察した。その結果,小葉外間質には浮腫状のものと線維組織の多い周囲間質があることを発見し,管状等エコーは乳管と周囲間質,斑状等エコーは小葉と周囲間質からなるといくつかの論文で報告してきた。その結果は私も含めて誰しもが想像だにしなかった。みんなが知らないから“誰も教えられなかった”のである。そして,浮腫状の間質が加齢とともに脂肪に置換されても後方散乱が起こり,乳腺のエコーレベルが保たれることをも音響学的に理論付けたのである。

 これらの理解をもとに,正常構造からの逸脱をとらえて癌を早期に的確に発見することができると本書では解説されている。

 乳管の所見は,Teboulらにより『Atlas of Ultrasound and Ductal Echography of the Breast』に詳細に記述されている。著者の解説はそれよりもさらに踏み込んだものだ。Teboulの書と併せて読むと面白いであろう。

参考文献
M. Teboul, et al. Atlas of Ultrasound and Ductal Echography of the Breast. Blackwell Science Ltd ; 1995.

B5・頁168 定価:本体5,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01938-5


内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術
[3DCT画像データDVD-ROM付]
CT読影と基本手技

伊藤 壽一 監修
中川 隆之 編

《評 者》岡野 光博(岡山大准教授・耳鼻咽喉・頭頸部外科学)

3DCTデータを操作しながら読み進められる画期的な書

 待ち望まれていた内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術の新刊書である。本書は京大耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授の伊藤壽一氏によるご監修の下,中川隆之氏が編集を務められ,同大で行われている手術解剖実習の講師陣が執筆されている。手術解剖実習で得られた知見などを基に,内視鏡手術を行う上で知っておきたい新しい知識やテクニックを余すところなく伝えている。

 本書の最大の特徴は,付録のDVD-ROMに収められている5例のcadaverのCT画像データを閲覧・操作しながら読み進めることができる点であろう。言うまでもなく手術を行う上での基本は局所解剖の理解であり,内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術においては術前CTの適切な読影が大切である。本書の構成はDVD-ROMに収められている5例のCT読影および解剖が中心となっており,本書に掲載されている図の多くはDVD-ROMに収められている5例を用いている。5例のファイルを開き,「i-VIEWワンデータビューアー」で画像を「クルクル」回して,図と同じスライスがヒットしたときは楽しく,前後左右上下に「クルクル」することで解剖の理解が進む。手術書のみならずあまたある耳鼻咽喉科学関連の教科書の中でも,ここまでCT画像データを読者自身が詳細に操作できる書物はあまりないように思う。「面白くて,ためになる」企画がなされている。

 本書は5章から成っている。前半の3章((1)セットアップ,(2)基本操作,(3)鼻副鼻腔炎に対する手術――基本編)がベーシックコースで,後半の2章((4)鼻副鼻腔炎に対する手術――応用編,(5)頭蓋底手術における鼻副鼻腔操作)がアドバンスドコースととらえることができる。200ページを超える手術書であるが,これから内視鏡下副鼻腔手術(Endoscopic Sinus Surgery ; ESS)を始めようとする若手の医師にはまず前半の3章(約100ページ)を通読されることをお薦めする。特に構造が複雑な前頭洞周囲の解剖・CT読影・手術手技には詳しい解説がなされており,ドレナージルート開放による前頭洞手術について理解を深めることができる。

 経験で得られた知識や知恵を言葉,特に文字に残すことは案外難しい。本書は執筆者の豊富な手術経験を惜しみなく伝えており,内視鏡下鼻副鼻腔・頭蓋底手術の初心者のみならず,経験者にとっても有益な情報が多く記されている...

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