医学界新聞

寄稿

2015.02.02



【寄稿】

肺炎診療における喀痰グラム染色の価値を考える

福山 一(沖縄県立八重山病院内科)


 喀痰グラム染色は,肺炎など下気道感染症における微生物学的検査である。デンマークの細菌学者・医師であるHans Christian Joachim Gramにより発見され,1884年に初めて論文として報告されたが,以来100年以上経った今でも臨床の現場で用いられている。

しかしグラム染色の有用性に関しては賛否さまざまあり,実臨床にどの程度活用しているかは地域・施設・個人ごとで大きな差がある。これほど評価が分かれる検査は他にないかもしれない。

 本稿ではグラム染色の有用性と限界,診療に用いる際の考え方について述べたいと思う。

グラム染色の有用性を示すエビデンスは多くない

 市中肺炎における有用性を検討した研究は,主に肺炎球菌とインフルエンザ桿菌を対象としている。肺炎球菌性肺炎における診断精度は,感度15-100%,特異度11-100%1),と研究ごとに非常にばらつきが大きい。これは各研究デザインの違いが一因であり,判定者,グラム染色所見の定義,起炎菌の判定基準,などに統一性がないのである。これでは感度や特異度にばらつきがあるのは当然と言える。ただし,良質な喀痰が得られた場合は,高い診断精度を持つことが報告されている。グラム染色が予後などの臨床的アウトカムへ与える影響については,ほとんど検討されていないのが実情である。

 一方,院内肺炎では,主に人工呼吸器関連肺炎の診断における有用性について検討されている。O’Horoらによるメタ解析では,感度79%,特異度75%であり,グラム染色陽性をもって抗菌薬のカバーを狭めるべきではないと結論付けている2)。ただし,検体の種類(気管内吸引痰,気管支肺胞洗浄液,検体保護ブラシ)や起炎菌の判定基準が各研究で異なっていることに注意しなければならない。気管内吸引痰のグラム染色は感度が高く,陰性であれば肺炎の可能性は低いと判断することができる。

 グラム染色は,検査の特性上,さまざまな因子の影響で結果が左右されやすい。したがって,どのような条件で検査を実施するかが大事なポイントとなる。

グラム染色を活用するための4つの前提条件

 米国感染症学会と米国胸部学会の合同ガイドラインには,グラム染色は治療開始前に良質の検体を採取でき,検体の採取,輸送および処理の質が一定の基準を満たす場合にのみ実施するべきである,と記載されている3)

 グラム染色を活用するにはいくつかの前提条件があり,下記(1)-(4)の条件がそろわなければ,信頼性は低下してしまう。

(1)良質な喀痰検体を得る
 患者が喀痰の喀出ができない場合や,喀痰が得られても不良検体である場合は評価ができない。市中肺炎において良質な喀痰検体が得られる割合は少ないとの報告もあり4),これはグラム染色の大きな限界である。誤嚥性肺炎の場合は唾液が混入しやすく,複数菌の所見(polymicrobial pattern)で起炎菌が推定できないことが多くなる5)

(2)抗菌薬投与前に検体を採取する
 抗菌薬が投与された後の喀痰検体は評価が難しく,診断精度は落ちてしまう4,5)。また抗菌薬が投与されて時間が経過するほどに検出率が低くなる6)

(3)速やかに検体の処理を行う
 検体処理の遅れは診断精度の低下につながり7),そして迅速性というグラム染色の大きな利点を生かすことができなく...

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