医学界新聞

対談・座談会

2015.02.02



【対談】

ロボットスーツHAL®は医療をどう変えるのか
川口 有美子氏(NPO法人ALS/MNDサポートセンター さくら会 副理事長)=聞き手
中島 孝氏(国立病院機構新潟病院副院長・神経内科)


 世界をリードする日本のロボット技術。その粋を集めたロボットスーツHAL®(Hybrid Assistive Limb®,以下HAL)を,医療機器として利用する未来が見えてきた。

 本紙では,神経・筋疾患患者を対象に「HAL-HN01(医療用HAL)」を利用した治療の医学的効果の検証を試みる中島孝氏と,難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)をテーマとした著書『逝かない身体』を持つ川口有美子氏との対談を企画。HALとは何か,HALを用いた治療ではどのような医学的効果が期待できるのか。中島氏が研究代表者を務めた治験の内容を足掛かりに,HALを用いた治療によって患者にどのような福音がもたらされるかに迫った。


川口 先日,国立病院機構新潟病院へ伺い,難病患者さんたちがHALを着用して歩いている様子をようやく見ることができました。印象的だったのが,患者さんたちの楽しそうな雰囲気です。「HALは患者さんのQOLを高めるものになるに違いない!」って直感しました。

中島 ご覧になったのはHAL下肢用のHAL-FL05でしたね。おっしゃるとおり,HALを装着して歩行プログラムに成功した患者さんは皆,笑顔になるんです。治験(MEMO)においては医療機器としての治療効果とともに,その笑顔になる患者さんの主観の部分にもフォーカスした評価研究を進めてきました。

川口 今日はそのあたりもぜひ伺いたいと思っています。

「操作する/される」とは異なる,身体と機器の協働を実現

川口 まず,HALが一体どういうものであるのか。そこから共有させてください。

中島 HALは四肢に装着する外骨格型の装着型ロボットで,人間の身体機能を改善・補助・拡張することのできる世界初のサイボーグ型ロボットです。筑波大大学院教授であり,サイバーダイン社CEOの山海嘉之氏が1991年から研究に着手し,発明に至りました。

川口 Cybernetics(サイバネティクス),Mechatronics(メカトロニクス),Infomatics(インフォマティクス)を融合した「Cybernics(サイバニクス)」という概念を基に作り上げたものであるとお聞きしました。

中島 CybernicsはまさにHALの基本的な原理に当たると思います。人が機械を操作するサイバネティクスと異なり,HALには機器を操作する操縦棹やボタン,キーボードはありません。機器を装着し,電線で直接結ばれることによって,人と機器との情報交換をリアルタイムに行えるようになる。すると,その人の意思通りに,機器と身体を動かすことができるようになるのです。

 「人が機器を操作する」「機器が人を動かす」とも違い,「人と機器が協働する」というニュアンスで理解していただくことがふさわしいと言える技術です。

一体感を生む,HALの3機能

川口 機器を使うわけでもなく,機器に使われるわけでもない――。まさに人と機器の融合が可能になっている,と。具体的にはどのような機能により,それが実現できているのですか。

中島 (1)「サイバニック随意制御(Cybernic Voluntary Control)」,(2)「サイバニック自律制御(Cybernic Autonomous Control)」,(3)「サイバニックインピーダンス制御(Cybernic Impedance Control)」,以上3つの基本機能によって,装着者が機器との一体感を得られるようになっています。

 はじめに,(1)サイバニック随意制御について説明しましょう。人が身体を動かすとき,まず脳で「歩く」という指令が作られます。その指令は脊髄運動ニューロンを通って身体に伝わっていく。筋骨格系はその指令に反応し,当該の部位を必要なぶんだけ動かすことができます。

 実は脳から神経を通じて筋骨格系に送られる「どの部位をどれだけ動かす」という指令は,運動単位電位(Motor Unit Potential)となり「生体電位信号」として,皮膚表面から漏れ出てきています。HALは,皮膚から出る生体電位信号をセンサから読み取り,装着者の運動意図を解釈する。そして認識した情報に即してパワーユニットをコントロールし,装着者の運動をアシストするわけです。この機能が(1)サイバニック随意制御に当たります。

川口 では,(2)「サイバニック自律制御」はどのような機能ですか。

中島 こちらは,HAL内部にあらかじめプログラムされた「起立」「歩行」などの動作パターンを参照し,HALが運動を遂行させる機能です。この機能があることで,装着者に随意運動障害がある場合でもHALがナビゲートするので,目的とする運動を成功させることができるわけです。

 装着時,各関節にHALの重量がかかるのではないかとも思われますよね? そこで機能しているのが(3)サイバニックインピーダンス制御で,運動時に質量と慣性モーメントに対する補正を行います。そのため,装着者はHALの荷重を意識せず,むしろ自分の身体であるかのような感覚を持って運動動作を行うことが可能になります。

川口 なるほど。それらの3機能が連動することで,難病患者さんであってもスムーズで安定した足の運びができていたわけですね。

神経筋の可塑性を促進し,「歩く力」を再獲得する

川口 すでに国内の医療・福祉施設でも,HALの下肢用は「福祉用」としてレンタルが行われ,神経・筋疾患以外の患者を対象にした歩行訓練には活用されていると聞きます。しかし,中島先生は,このHAL下肢用を「医療機器」として用いるための検証を進めてこられてきたのですよね。

中島 ええ。現在,HAL福祉用の位置付けは「福祉用具」です。そこで医療機器として扱うことができるよう,神経・筋疾患患者でも動作する医療モデルのHAL-HN01を作ってもらい,2013年3月より治験(NCY-3001試験)をスタートさせました。15年2月に治験総括報告書をまとめ,これをもってサイバーダイン社が薬事申請することになります。なお,すでに14年12月末に「希少疾病用医療機器」に指定されており,HAL医療用が優先審査などの支援措置を受けられることまで決まっているんです。

川口 ということは,HALが医療機器として使われるようになる日も,決して遠くはないことになりますね。

 ただ,義足や補装具としての用途はイメージしやすいのですが,医療機器というとピンとこない患者さんも周囲には多いです。「どのような治療効果があるのか」という点が,いまいちわかりづらいのかもしれません。

中島 HALを使用することで期待される治療効果を一言で表すと,疾患によって起きる歩行不安定症(Neurologic Ambulation Disorder,)の改善と歩行機能の再獲得に対する治療効果,そして各種疾患症状の進行抑制効果です。

 歩行不安定症を起こす疾患群とHAL医療用の臨床的有用性(想定)(クリックで拡大)

川口 どんなメカニズムによってそうした効果は期待できるのでしょう。

中島 歩行不安定症を来す疾患は多種多様にありますが,麻痺が高度でなければ,シナプスネットワークの再構築が回復の手立てとなります。そのための手段としては,運動意図と,意図された運動現象の対応を繰り返し反復させる実践的な練習プログラムが有効と考えられています。

 脳は,身体を動かしたとき,「どのような信号を発信し,どのように動作したのか」を確認しています。HALにアシストされながらの歩行動作であっても同様で,「歩けた」という感覚が感覚神経,脊髄を通して脳へとフィードバックされる。このように脳から運動神経を通りHALへ,HALから感覚神経,脊髄を通して脳へというインタラクティブなバイオフィードバックを正確な運動現象とともに繰り返すと,歩行の改善に向けた脳・神経・筋の可塑性を促進すると考えられているのです。

 さらに神経・筋難病患者がHALを一定時間,定期的・間欠的に装着し,適切に筋収縮を助けられることで,病的筋繊維の過疲労を軽減し,神経原性筋萎縮と筋力低下の進行抑制がなされるとも期待しています。

川口 それはHALを用いるからこそ可能な治療になるのですか。

中島 そう思います。人間の運動動作は単純なように見えますが,実は非常に複雑です。今,川口さんが目の前のコーヒーを口に運ぶまでの動作一つとっても,脳はとても複雑な動きをコントロールしている。

川口 肩・ひじ・手首……。いろいろな関節が複合的に動いています。

中島 歩行も同様で,左右の股関節,膝関節の複雑な多関節運動を連動し,複合的に動きます。この複雑な運動現象全体を再現し,失敗することなく反復させるためには,やはり徒手的な介入では難しく,HALのような機器が必要不可欠なのです。

 もちろん「HAL単独治療」としてのみ展望しているわけではありません。将来的には抗体医薬,核酸医薬,幹細胞/iPS細胞を用いた治療と組み合わせた複合療法により,有効性をさらに高めていこうと考えています。

川口 海外ではすでにHALの医療用を実際の医療に取り入れている国もあるのだとか。

中島 早期からHALを用いた歩行プログラムを実施することで,歩行動作が改善されるという効果は国際的にも認められています。医療機器に関する品質マネジメントの規格であるISO13485は取得済みですし,それに基づいて製造された同様のモデルは,EUの医療機器に貼付が義務付けられる基準適合マークであるCEマークを13年8月に得ています。ドイツにおいては公的な労災保険に適用されているんです。

川口 すごい。HALの技術は国内を飛び越え,そこまで進んでいるんだ。

中島 14年11月にはサイバーダイン社は,HALを医療用として米国食品医薬品局(FDA)へ販売承認の申請を行いました。医療機器の大市場である米国で承認が得られることになれば,いよいよ医療ロボットが世の医療現場へ浸透していく段階に入っていくことになるでしょう。日本でも医療応用の実現化に向け,期待が高まります。

HAL・サイバニクス技術の発展にも期待が大きい

川口 実物を拝見させてもらって一番感動したのが,実はHALの技術を発展させたという「サイバニックスイッチ」でした。手指でスイッチが押せなくなったALS患者さんの腕から運動意図を拾い上げ,パソコンへの文字入力を可能にしたというのは驚きです。

中島 その技術は,HALの持つ生体電位信号から随意運動を検出する機能を独立させたデバイス「サイバニックインターフェース」が基になっています。それを応用したのが「サイバニックスイッチ」で,ALS,脊髄性筋萎縮症,筋ジストロフィー,脊髄損傷など四肢麻痺患者用の意思伝達装置に接続するための機器として開発に至りました。

川口 感度の高いスイッチを用いることで,身体を動かすことはできないほどの微弱な信号であっても,意思伝達装置を動かすことは可能になる。この技術はALS患者さんたちにとって福音です。全身性麻痺が進行する彼らにとっては,意思伝達の手段を最期まで確保できるかもしれないのですから。

中島 以前,試作機を用いて,患者さんが文章を打つ様子もご覧になっていただきましたが,川口さんにはどのように映りました?

川口 念じるだけで物を動かすことができる……。まるで『スターウォーズ』に出てくるフォースみたいだな,と(笑)。文字の打ち出しが早いので,コミュニケーションという面からのストレスも少ないと思います。

 また,患者さんにかかる負担が少ないのも大事なポイントですね。従来のメカニカルスイッチでは身体のわずかな動きと力を出せる部位で操作してもらっていたわけですが,どうしても疲労の蓄積は免れなかった。1日のうちに何度もセンサを違う部位へ取り付け直し,微妙な位置合わせを行う必要がありました。でもサイバニックスイッチは筋肉を疲労させず,念じるだけです。当の患者さんも「ずっと付けていても疲れないから不思議」と言っていたほどです。

 早急に実用化をと思ってしまうのですが,こちらはまだ時間がかかりそうですか。

中島 まだ製品化に向けて準備を進めてもらっている段階です。製品化された上で,定期的・間欠的に利用することで,ALSをはじめとした疾患の進行抑制が期待できるかどうかも検証したいと思っています。

HALによる臨床的効果を患者の主観で評価

川口 治験では,副次評価項目に「患者自身による主観的歩行評価」を取り入れられていますね。患者さんの思いを評価し,その変化に着目している点はユニークだなと感じていたんです。

中島 HALを用いた治療プログラムを通し,患者さんがいかに疾患・障害を持つ生活に適応できるようになったのかを計量的に評価したいという思いから,患者さんの報告するアウトカム(Patient Reported Outcome;PRO)を副次評価項目に入れました。

 ただ,医療者にも誤解されがちなのですが,そもそもQOLはPROのひとつであって,患者の心の中に作られる知覚・意味といった「構成概念」です。その内容の改善こそがQOLの改善を意味するわけですから,本来ならばあらゆる治療介入の最終目標にPROを据えるべきなのです。

川口 今回,PROとして難病・障害患者さんのQOL評価を行ったのは,適切にQOLを評価できるからということですね。

中島 ええ。PROとしてのQOLの評価は,難病などで治癒をめざせず,進行性に悪化する患者に対する介入・ケアの効果を評価する場合には特に有効です。他の評価法と比較しても,より適切な評価が可能だと思います。

川口 しかし,どうして他の評価法では不十分なのでしょうか。

中島 医療現場でよく見掛ける評価尺度として,WHOの健康概念に基づいた健康関連QOL評価法,例えばEuroQoL(EQ-5D)やThe Medical Outcome Study 36-Item Short Form Health Survey(SF-36)があります。しかし,これらの評価尺度で難病患者・家族のQOLの改善効果を評価するのは難しい。というのも,それらはWHO憲章前文が定義した「健康」の概念が前提となっており,その文言は「complete physical,mental and social well-being」,つまり身体的,心理的,社会的に完全に良い状態こそが「健康である」としているからです。

川口 確かにそれが「健康」の基準になってしまうと,治癒を望めない難病や障害を持つ方,または身体機能が加齢とともに落ちる高齢者は,「健康」になり得なくなってしまいます。

中島 そうなのです。WHOの言う「健康」の定義に向かって改善し得ない彼らは,健康関連QOL評価法によっては,QOLの改善を適切に評価することができない。評価する生活領域が固定されていることを考えると,むしろ現状の患者・家族にとって無関係となってしまった生活領域を,解決できない問題としていたずらに顕在化させることすらある。これでは難病の患者・家族に,「疾患により起きる問題」だけでなく,「文化的・社会的文脈に内在する健康志向的価値観に由来する自己否定感」という二重の困難を与えてしまいます。

 また,治療・ケアに当たる医療従事者を無力感で苦しませる可能性もありますし,「治癒できない,健康に戻れない患者」として,「支援すべき患者」を否定してしまう事態まで起こりかねません。

川口 実際に難病患者・家族と接すればわかることですが,皆さん,いわゆる「残存している機能」を活かすことで,QOLを高めていくことができていますよね。そこは医療者の方々には誤解してほしくない部分です。

 中島先生は今回の治験でPROを導入するに当たり,具体的にはどのような方法を採用されたのでしょうか。

中島 SEIQoLという方法です。SEIQoLは,評価項目の構成を対象となる患者自身に任せます。つまり患者自身の人生において,大切に思っていることがうまくいったり,満足したりすることをQOLの向上と定義し,QOLの項目として本人にとって大切な生活分野を5つ構成してもらって調査がスタートする()。こうすると個人別のQOL評価が可能になるわけです。

 細かな方法論は割愛しますが,経時的に生活領域が変化していっても適用可能であり,計量心理学的にも正しい方法として評価が可能です。

価値観,意味の再構成により,人は難病・障害を克服できる

川口 患者さんの主観を評価するとなると「いい加減だ」「科学的でない」と思われてしまう面もあるのではないですか。本来,そのいい加減さこそが患者さんの,人間としての実像であるにもかかわらず,ですけれど。

中島 これまでPROの研究が進んでこなかったのも,やはり患者の主観が「いい加減で,扱いづらいもの」として見られていた面があったからなのでしょう。

 実際に主観的評価を採用してみると,やはり人は時間経過によって,評価尺度自体を変える「recalibration」,価値判断の優先順位を変える「reprioritization」や,言葉の意味や内容を変える「reframe」を起こし,同じ事象に対しても評価を変えるレスポンスシフト(response shift)現象を起こしていることがわかっています。ですから主観により臨床効果を評価する上では,そうした現象を理解し,考慮する必要があるのは間違いありません。

 ただ,川口さんのご指摘のとおりで,これは人間にとって当然の現象です。レスポンスシフトは単に患者の記憶があいまいで,いい加減だから起こるものではない。患者が事象に対する構成概念を書き換える,つまり,その人の心の中に,これまでとは異なった価値観・意味が再構成されることで起こっているものなのです。

 確かにとらえづらく,評価の難しさはありますが,その中には治癒し得ない難病という問題に適応し,自ら管理しようと蘇ってくる患者さんの力がある。PROはそれを見ることに対応していると言えます。

川口 人はどんな状況にあっても,考え方,価値観を変化させ,自分の生きやすいストーリーに作り変えていくポテンシャルを持っていますよね。

中島 そう。だから,医療者は治療やケアにより身体的な状態が良くなったかどうかだけではなく,治療によって患者にどのようなレスポンスシフトが起きたのかをきちんと評価すべきであると,私は考えているんです。

 事象に対する構成概念を書き換えていく能力,それは難病・障害を克服する力にもなります。この力の在りようを見て,減弱していれば,きちんと支援を行う。時に医薬品・医療機器を使いながら,患者さんの心と身体を蘇らせ,生きることを支援する。それこそが医療の真の姿なのですから。

川口 冒頭,HALを使うと患者さんが笑顔になることに触れました。これはHALが心と身体を支え,患者さんの構成概念の書き換えに何らかの好影響を与えているからなのでしょうね。

中島 そう考えています。ですから今回のHALの治験でも,治療プログラムを経て,患者さんが主観をどのように変遷させてきたのかを経時的に追ってみようとしています。うまくいくかはわかりませんが,真に患者さんのためになる治療モデルを作る試みと言えるのかもしれません。

難病研究が技術革新の最前線を担う

中島 歴史を振り返ると,技術革新は戦争という極限状態によってもたらされたと言われることがありますよね。しかし,現代社会において技術革新の最前線を担うのは難病研究である,というのが私の考えです。だってそうでしょう? ALSや筋ジストロフィー患者さんが利用できるロボットスーツを作り上げたとしたら,それは軍事目的で作られるロボットよりも高性能に違いありません。

川口 屈強な兵士を対象としたものより,多様なサポートを必要する難病患者対象のロボットスーツのほうが,安全性も含めて高度な技術が求められそうですものね。

中島 さらに言えば,現在進めているHALの研究は,高齢者への適用も射程に入れています。患者数の少ない難病に対する研究として日本から始まったものではありますが,高齢者医療における治療法開発という国際的な共通課題に立ち向かう研究とも言えるわけです。そういう意味でも,HALの研究に叡智を結集する意義は大きいと考えています。

 日本においてこの技術の進化を進めていくことができれば,それは国境を越え,世界の人々をも助けるものになる。それは日本の国際的な信頼獲得につながるでしょうし,今後,経済的な好影響も伴うはずです。

川口 根治困難な疾患・障害を対象とした日本の研究が,科学技術,さらに社会の進展の原動力になるということになりますね。いずれ難病研究が“ジャパニーズ・クール”なものとして世界から注目されるのかもしれません。

 その貴重な第一歩として,HALの医療現場への活用を期待したいと思います。ありがとうございました。

MEMO 「希少性神経・筋難病疾患の進行抑制治療効果を得るための新たな医療機器,生体電位等で随意コントロールされた下肢装着型補助ロボット(HAL-HN01)に関する医師主導治験――短期効果としての歩行改善効果に対する無作為化比較対照クロスオーバー試験(NCY-3001試験)」(治験調整医師:中島孝)

●対象疾患:脊髄性筋萎縮症,球脊髄性筋萎縮症,下肢症状が緩徐進行性のALSなど,運動ニューロンより下位病変(詳細は,表*を参照)
●2群で合計30例。主要評価項目:2分間歩行テスト,副次評価項目:10 m歩行テスト・患者自身による主観的歩行評価など。その他に安全性評価

※2014年9月に追加治験として,「HTLV-1関連脊髄症(HAM)等の痙性対麻痺症による歩行不安定症に対する短期の歩行改善効果についての多施設共同無作為化比較対照並行群間治験(NCY-2001試験)」(治験調整医師:中島孝)を開始。脊髄運動ニューロンより上位病変の疾患群であるHAMなどの痙性対麻痺症に対するHAL-HN01を使った歩行プログラムの改善効果の検証を開始している。

(了)

註:SEIQoL(The Schedule for Evaluation of Individual QoL)。半構造化面接法によって,患者自身が自分にとって大切と考えている生活の領域を5つ引き出し,患者自身にその内容を定義し,名付けてもらう。そして,それぞれの生活領域がどの程度うまくいっているのか,満足しているのかを視覚アナログスケールにより評価。さらに5つの領域がその人の生活においてどのような重みで意識されているのかを計測する。重みを計測するためには判断分析法という多変量解析を利用する。重み付けすることで,一元的なQOL(SEIQoL-indexスコア)が算出できる。臨床場面では,より簡易な方法としてSEIQoL-DWが利用されることが多い。
日本語版SEQoLウェブサイト
http://seiqol.jp

参考文献
1)中島孝.神経・筋難病患者が装着するロボットスーツHALの医学応用に向けた進歩,期待される臨床効果.保健医療科学.2011;60(2):130-7.
2)中島孝.医療におけるQOLと緩和についての誤解を解くために.医薬ジャーナル.2011;47(4):1167-74.
3)中島孝,他.装着型ロボット応用の現状と展望.治療.2013;95(12):2088-93.
4)中島孝.ロボットスーツ“HAL-HN01(医療用HAL)”.医学のあゆみ.2014;249(5):491-2.
5)中島孝.難病の画期的治療法,HAL-HN01の開発における哲学的転回.現代思想.2014;42(13):137-45.
6)中島孝.神経難病患者の生活の質評価.作業療法ジャーナル.2015;49(1):14-9.


中島孝氏
1983年新潟大医学部卒。NIHフェローを経て,91年国立療養所犀潟病院,2004年より現職。専門は神経内科学,特に神経筋疾患,遺伝子診断,緩和ケア,Bioinformaticsなどの臨床研究に携わる。PMDA専門委員。厚労省難治性疾患等実用化研究事業「希少性難治性疾患――神経・筋難病疾患の進行抑制治療効果を得るための新たな医療機器,生体電位等で随意コントロールされた下肢装型補助ロボット(HAL-HN01)に関する医師主導治験の実施研究」の研究代表者。

川口有美子氏
1995年,母がALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し,介護のため英国より帰国,翌年在宅人工呼吸療法を開始。2003年,有限会社ケアサポートモモ,NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会設立。04年立命館大大学院先端総合学術研究科入学。05年日本ALS協会理事,09年ALS/MND国際同盟会議理事に就任。著書には,第41回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『逝かない身体』(医学書院),『末期を超えて』(青土社)。
※『末期を超えて』には中島氏との対談「QOLと緩和ケアの奪還」も掲載。

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