離島診療の今(服部淳一,夏目由美子,浅野直,佐野常男)
寄稿
2014.12.22
【寄稿】
離島診療の今奄美群島で働く医師たちからのメッセージ
奄美群島は,鹿児島県下,奄美大島を中心に14の島からなる島嶼群である。国内の多くの離島と同様,奄美群島における医療実践にはさまざまな困難が伴うが,群島で働く医師たちは独自の心構えと工夫で日々を乗り切っている。本稿では4人の医師が,それぞれの行う離島医療の一端を紹介する。
服部 淳一 佐野 常男 | 夏目 由美子 | 浅野 直 |
日本初,離島の救命救急センター
服部 淳一(鹿児島県立大島病院救命救急センター長)
長寿の島,そしてノロ(女性祭司)に代表される独自の信仰や文化が受け継がれる奄美群島。その奄美大島に本年6月,日本で最初の離島救命救急センターが開設された。
名瀬港に初めて降り立った際に見えた,数え切れない別れの紙テープに島人の温かい心を感じたことを思い出す。前院長の「救命救急センター(以後センター)の設立計画があるから一緒にやらないか?」という誘いに私は胸を躍らせ引き受けた。しかし,当初はセンターを開設しても維持できるのかが非常に疑問で,本土や沖縄にドクターヘリで搬送するのが最も費用対効果が高いのでは,と考えることもあった。前任の北海道では,センターは人口20万医療圏に1つあればよいという試算があった。奄美群島は,奄美市はもとより群島の人口を全て合わせてもせいぜい11万人ほどなのである。
歴史的に奄美群島は琉球王国や江戸期には薩摩藩に属しており,本土や沖縄との争いもなかった。このような歴史的背景からなのか,あるがままの運命を受け入れるという島民性があり,本土なら助かったはずが,と思える状況であっても“そのまま”を受け入れていることを時折見かけた。次第に私は,このような事例を少しでも減らすべくセンター開設の必要性を強く感じるようになった。
いざ開設の準備に取り掛かると,施工業者の入札・管理や引渡し確認など普通の医師は絶対携わらないであろうことも多く経験した。また,本土と比べるとさまざまなハンディもあった。1回目の入札が流れたこと(島はセメント代が1.5倍ほど高い),地盤が固く,基礎工事の杭打ちに予定の倍以上の時間を要したこと……。CTや人工呼吸器などの医療機器,配電装置,電子カルテ・画像・外部ネットといった情報回線は,センターと一体になって初めて役に立つものばかりであり,高層ビルがほとんどないこの島で,こうしたハード面の事前整備は一苦労であった。
ただうれしいことに,ソフト面(人材募集・育成)は順調に進んだ。当院は県立5病院の中でも毎年希望者が少なく,最近数年は“離島枠”という当院独自の看護師採用枠を作らなければならないほどであった。ところが,センター開設に伴い募集をかけると,予想外の応募があった。超急性期医療に興味を持つ者はいたものの,核となるセンターがなかっただけだったのだ。
センター開設以前から浅野,夏目,佐野氏らと始めていた救急蘇生講習会や病院前外傷講習会の成果も芽生え,医療を下支えする看護師や救急救命士が徐々に育ちつつある。救急専門医も見つかり,2-3人しかいなかった研修医も10人前後まで増えている。センター開設後は,脳血管疾患をはじめとする重症患者が多数搬送されるようになり,周囲の医療施設からの搬送も増加。今まで諦めていた事例も「センターに行けば助けてもらえるかもしれない」という希望に変わりつつある。
私たちの目的は,高度医療を行うことだけではない。島民の“あるがままを受け入れる”その大らかさと寄り添い,島に合った,島民に受け入れられるセンターをめざすことにある。
島と島をつなぐ離島医療の課題
夏目 由美子(大島郡医師会病院/稲田病院)
奄美群島の医師不足は深刻な状況だ。救命センターは開設したものの,他の島々では入院施設を備えた病院は限られる。いざ入院となれば沖縄や奄美大島,また本土へ出向かなければならず,患者やその家族の移動,入院費も含めて大変な負担になる。本土での診療では思いもつかないようなことだ。
私は,徳之島の宮上病院で月1回外来診療をしている。徳之島までは飛行機や船での移動になるが,悪天候で遅れたり欠航になることもまれではない。悪天候などで行けなくなると,多くの予約患者さんに迷惑がかかる。それだけでなく,帰ってこられなかったときには自院にも迷惑をかけることになる。
往来の問題もさることながら,月1回の診療には,“どう経過を診るか”という診療上の問題が伴う。私の専門の整形外科ではギプスを巻いたとしても,次に診られるのは1か月後であり,その間の経過観察は専門外の常勤医にお願いすることになる。宮上病院ではやむを得ない場合,非常勤のもう一人の専門医に診ていただくことになる。
医療資源が限られる中,患者さんに「今日は来てよかった」と満足して帰っていただくためにはどうすればよいのか。過剰な医療行為は控え,島で診療を完結できることが大切なのだと思う。島を愛する患者さんから,「先生は次にいつ来るの?」と言われることが何よりの喜びであり,自分自身も“また来よう”と思え...
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