英国視察から学んだ看護(後編) 患者中心のケアを可能にする継続的看護(吉田千香,鈴木美穂,平尾千恵子,山本則子)
寄稿
2014.12.15
【寄稿】
英国視察から学んだ看護(後編)
患者中心のケアを可能にする継続的看護
吉田 千香,鈴木 美穂,平尾 千恵子,山本 則子(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻成人看護学/緩和ケア看護学分野)
前編(第3101号)では英国のプライマリ・ケアの概要や,診療所における看護師の役割を紹介した。後編では,ロンドンにあるキングスカレッジ病院(KCH ; King’s College Hospital)で骨髄移植にかかわるさまざまな看護師から伺った話を総括して紹介する。
骨髄移植前から移植後を見据えたフォローアップを実践
KCHの視察では,骨髄移植前(以下,移植)から患者にかかわる移植ナース・コーディネーター(以下,コーディネーター),アフェレーシス部(註)のクリニカル・ナース・スペシャリスト(CNS),5つの血液内科病棟を統括する病棟看護師長(Matron Inpatients),移植後の晩期障害やサバイバーシップを担うCNS,外来を含む全ての血液内科看護にかかわる副看護部長(Deputy Head of Nursing)から話を聞くとともに,各関係部署を見学した。KCHでは,移植前から退院後まで全ての過程を通し,看護師を中心としたチームによりきめ細やかなケアが提供されていた。
移植前では,白血病やリンパ腫,骨髄腫などの疾患別コーディネーターが移植の意思決定を行う前から外来で患者にかかわり,移植前スクリーニングとともに,移植過程や治療に伴う症状,費用などのコンサルテーションを行う。2013年からは,コーディネーターやCNS,病棟看護師長,心理カウンセラー,栄養チーム,理学療法士,作業療法士で構成された移植チームメンバーによる2時間ほどの移植前の情報提供プログラムも開始されたという。
本プログラムは,移植を選択する前の患者や家族の参加も可能である。栄養や活動と休息,疲労や不安への対応,患者と家族の精神的サポートについてなどの情報提供と相談だけでなく,病棟見学ツアーも実施する。こうした取り組みは治療の具体的なイメージを持ってもらえるとともに,移植チームメンバーと入院前に顔を合わせることになる。またグループセッションを行えることから,医療者と患者,患者同士の信頼関係を構築する良い機会になる。
また,同種移植の場合は,入院での移植治療を無事に終えて退院しても,移植後合併症や晩期障害のためのセルフケアや定期的スクリーニングが必要となる。その点については,KCHでは晩期障害クリニック(Late Effect Clinic)を設け,専従の看護師が患者1人に45分の枠でこれに対応していた。そこでは,診察の結果を踏まえた計画を患者の家庭医(General Practitioner)や地域の血液内科医に伝え,専門病院としてのKCHのフォローアップ計画と患者自身のセルフケア計画を,地域の医師と一緒に考えるようになっている。
なお,KCHにおけるこれらの移植前後の質の高いケアは「Macmillan(マクミラン)がんサポート」1)によっても支えられている。マクミランがんサポートは,1911年にダグラス・マクミランによって設立され,経済的問題の相談から話し相手まで,がん患者のケアのあらゆる側面からの支援を行う,英国で最も大きなチャリティー組織である。上述のコンサルテーションの際に使用する資料も,ほとんどがマクミランから出版されたものである。
質の高い看護を支える,卒後教育システム
英国の看護師には教育背景や職位により全国で統一された階級制(Band)が適用されており,給与やユニフォームの色も原則的にBandにより決定される。Bandは1-9まであるが,看護職に該当するのは2-8だ(表,写真)2)。看護師養成課程(2013年から全て学士課程)を卒業し,看護師籍に登録するとBand 5の看護師となる。また,3年ごとに450時......
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