MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2014.12.01
Medical Library 書評・新刊案内
八尾 恒良 監修
「胃と腸」編集委員会 編
[I 上部消化管]芳野 純治,小山 恒男,岩下 明徳 編集委員
[II 下部消化管]小林 広幸,松田 圭二,岩下 明徳 編集委員
《評 者》武藤 徹一郎(がん研有明病院名誉院長/メディカルディレクター)
美しい写真が全てを語る,素晴らしい書
初版から13年,改訂決定から約4年の年月を経て『胃と腸アトラス』第2版(I・II)が完成した。誠に想像を超えた見事な出来栄えである。監修の八尾恒良博士,「胃と腸」編集委員会そして本書の編集委員の諸氏の多大な努力に,まず深く敬意を表したい。内視鏡像,X線像,病理組織像のいずれをとっても完璧で美しい。よくここまで質の高い多くの写真を集められたものと感嘆するばかりである。
初版の序文において“本書は本邦独自の診断学を集成し,消化管診断学に従事している医師や研究者の臨床に役立てることを目的として「胃と腸」の編集委員会で企画され,編集された”とあるが,この第2版によってその目的はさらに高いレベルで達成されたといえる。扱っている疾患は,「I 上部消化管」:咽頭5項目,食道58項目,胃62項目,十二指腸48項目,「II 下部消化管」:小腸66項目,大腸78項目の合計317項目にのぼり,初版より大幅に増加している。見たこともないようなまれな疾患も数多く掲載されており,エンサイクロペディア的に活用することも可能であるが,折に触れてページを開いて美しい写真を眺めるだけでも心が癒やされる。項目ごとに症例についての簡潔な記述があり,各画像の簡単な説明があるだけで,美しい写真が全てを語ってくれている。必要最小限の文献が各項目の終わりのページに記載されているのも,大変便利でしゃれている。
とにかく一度手に取って眺めてもらいたい。その情報量の多さと質の高さに圧倒されるであろう。これは「胃と腸」を育ててきたわが国の消化管医だからこそ可能である偉業といえよう。八尾博士は「胃と腸」の誕生期から文字通り先頭を切って消化管学を引っ張ってきた。博士の存在なくしてはこの快挙は生まれなかったであろう。“消化管は野(ヤ)の学である”という博士の言葉が今は遠くに聞こえてくる。できることなら英語版を出してほしいと願うのは評者一人ではあるまい。
しかし,海外に本書の質の高さを理解し愛でることができる人が何人いるかを考えると,これは夢だろうか。だが,わが国には本書の素晴らしさを理解できる消化管医は,数限りなくいるに違いない。本書を座右の書として,日常の臨床に活用されることをお薦めする。
[I 上部消化管]
A4・頁400 定価:本体14,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01746-6
[II 下部消化管]
A4・頁368 定価:本体14,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01747-3
細川 直登 編
《評 者》徳田 安春(地域医療機能推進機構本部研修センター長・総合診療教育チームリーダー)
短期間の集中学習でも現場でも役立つ実践書
抗菌薬について調べたり勉強したりするときには何を使えばよいか。まず,サンフォードは意外に使いにくい。日本では使用できない薬剤があったり,用量も国内で認可されていない量が記載されていたりする。網羅的ではあるがポイントがわかりにくいので学習リソースには向かない。製造元の発行する添付文書はそれにも増して使いにくい。当該抗菌薬において抗菌作用のある菌種名を延々と羅列しているのをよく見るが,いくら眺めてもどのような感染症で適応があるのかが不明だ。
そんな中で本書が出版された。読みやすく書かれたスタイルの本書は,抗菌薬の使用に関しての実践書として,とても役に立つ本である。まず,著者グループは臨床感染症の実地診療を精力的に行っている若手感染症医たちである。構成と内容をみると,実際の臨床医が行うスキームで抗菌薬の選択の在り方が書かれていることがわかる。また,日本の臨床シーンでよくあるピットフォールがわかりやすく書かれている。例えば,bioavailabilityのよくない第3世代セフェムの経口抗菌薬の使用が勧められないこと,抗菌薬の適正使用のための実践的やり方などだ。また,最近話題のピットフォールについてもよくまとめている。クリンダマイシンのBacteroides fragilisに対するカバーが不良になっていること,ニューキノロンの大腸菌カバーが不良になっていることなどだ。各章末についている27のクイズは,ピットフォールを意識したポイントをカバーしており,これを解いてみるだけでもかなりの学習効果が得られるであろう。
抗菌薬について短期間で集中学習できる本としてのみならず,現場で繰り返し参照できる実践書としてもお薦めしたい。
A5・頁236 定価:本体3,300円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01962-0
蜂須賀 研二 編
大丸 幸,大峯 三郎,佐伯 覚,橋元 隆,松嶋 康之 編集協力
《評 者》芳賀 信彦(東大大学院教授・リハビリテーション医学)
待望の第3版!着目すべき点がわかりやすいリハテキスト
東大病院リハビリテーション部の本棚に,『リハビリテーション技術全書 第2版』(1984年発行の第1刷)がある。おそらく今までに東大に所属した多くのスタッフが手にしたであろう汚れ具合で,勉強会に使用したと思われるプリント類も挟み込まれている。私と同世代のセラピストに聞くと,皆学生時代からこれで勉強してきたという。「いよいよ第3版が出たのですか」という声も聞こえてきた。
『リハビリテーション技術全書』は九州帝大医学部から九州労災病院の初代リハビリテーション科部長を経て長尾病院を開設された服部一郎先生が,約10年かけて医師とセラピスト両方に向けて書き上げた教科書で,1974年に初版が出版されている。第2版までは服部先生が中心となり執筆されたが,亡くなられた服部先生に代わり,第3版は蜂須賀研二先生(産業医大名誉教授)がまとめられた。北九州地区を中心に60人を超える先生方が執筆されており,まさに九州魂が込められた大作である。
第3版では内容は一新されているが,服部先生の当初のコンセプト,すなわち自身が永年の経験から築き上げた理論と技法に,他の専門家の方法を追加引用し,多くの図表と共にわかりやすく解説する,という方針は守られている。特筆すべきは,服部先生のオリジナルの図が多く継承され,さらに進化していることである。本書には写真が全くない。写真でなければ伝わりにくいこともあるが,イラストであるがゆえに着目すべき点が強調され,読者の頭にすっと入ってくる。例えば片麻痺患者の起立訓練の図では,第2版では麻痺側の左に色が塗られているのみであったが,第3版ではこれに加えて違う色に塗られ,セラピストがどこに力を入れるかが矢印で示されている。細かい工夫であるが,読者の視点に立った見事な対応である。
総論は蜂須賀先生を中心として,時代に即した内容に大幅に書き換えられている。「問題患者」というユニークな章もあるが,これは第2版の「問題のある症例の取り扱い方」の章を発展させたものであろう。総論の中で私の興味を引いたのは,リハビリテーションカンファレンスに関する記述である。「カンファレンスはよいことばかりではなく,高いコスト,効果が不明確,長い時間の確保という問題を合わせもっている」として,コストをどう考えるかが説明されている。私自身もカンファレンスの在り方に悩んできていたので,蜂須賀先生の考え方は大変参考になった。
このように医師,セラピストの両者に大いに役立つテキストは,日本はもちろん海外にも存在しないであろう。ぜひ手元において,日常診療に役立てることをお薦めする次第である。
B5・頁1024 定価:本体18,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01757-2
岡田 定 編著
樋口 敬和,森 慎一郎 著
《評 者》冨山 佳昭(阪大病院輸血部部長)
若手医師の血液診療への不安を払拭してくれる書
専門性を決めていない若手医師にとって,血液疾患といえば「専門性が高くとっつきにくい」「重症化しやすい」などのイメージがあり,ややもすると敬遠されがちな診療分野である。実際,化学療法に伴う好中球減少時の対応など,他の診療科とは異なる血液疾患ならではの対処法が種々存在するのも事実である。しかしながら,一方では基礎研究の成果がいち早く臨床応用される分野でもあり,かつて難病と言われた疾患が医学進歩により克服されていくことを実感できる分野でもある。血液疾患の面白さや醍醐味に魅せられると,疾患の分子異常の理解や種々の分子標的薬剤やエピジェネティック関連薬剤の使い分けなど,興味が尽きない分野でもある。
そんな若手医師の血液診療に対する一抹の不安を払拭してくれるのが本書である。『レジデントのための血液診療の鉄則』というタイトルの本書を手にしたとき,「鉄則」という,いわば古めかしい文字がまず目に飛び込んでくる。さらに序には,若手医師に「血液診療の鉄則」を刷り込む本である,とあり,かなり硬派なイメージである。今風のタイトルでいえば,「わかりやすい○○診療の基本」「○○診療のツボ」あるいは「○○診療のガイドライン」といったところか。しかし,本書を読んでみると,聖路加国際病院血液内科のベテラン医師たちの若手医師への,さらには血液患者さんへの愛情が溢れているのを実感でき,なぜあえて「鉄則」との表現を用いたのか,納得できる。特に,本書の強みは豊富な経験に基づいて作成された「プラクティス」の項目であり,さまざまな症例提示を通して,その鑑別診断に始まり,治療法の選択とその効果,さらには患者さんへの説明内容まで,実際にその症例を体験できる形で知識が整理されることにある。それぞれの項目は,決して表面的な記述のみにとどまらず,最先端の情報がくどくない程度にちりばめられてあり,若手医師のみならず血液専門医にとっても大変有用な実用書であるといえる。
ぜひ,臨床の現場において本書を熟読し血液疾患の醍醐味を満喫していただきたい。さらには,鉄則の理解だけにとどまらず,血液疾患における未解決な問題にも大いに興味を持ってもらいたいものである。
B5・頁336 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01966-8
《眼科臨床エキスパート》
All About原発閉塞隅角緑内障
吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
澤口 昭一,谷原 秀信 編
《評 者》岩田 和雄(新潟大名誉教授・眼科学)
新しいスタンダードを示すPACGのバイブル
本シリーズは,その道のエキスパートたちが自らの経験,哲学とエビデンスに基づいた「新しいスタンダード」を解説,明日からの診療に役立つことを目標としている。本書はまさに300ページを超える大冊で,原発閉塞隅角緑内障(PACG)だけで,こんなに充実した内容のテキストブックは国際的に見ても比類がなく,基礎から臨床まで,まさにバイブル的存在といえる。この方面のリーダー,澤口昭一・谷原秀信両教授による編集で,計33人のエキスパートが執筆している。分担執筆書はまとまりに欠ける傾向がみられるが,本書は一人の著者がPACGのために苦心し,研究し,学問し,診療してきた大量の経験をつぶさに書き上げたかのように編集され,熱気や息吹が感じられ,全編がそのような魅力で溢れている。またこと細かに問題となる項目を挙げ,アカデミックな立場から,つぶさに,これに答えるような編集は,謎を解くみたいに面白い。読みながら知識が豊富になること請け合いで,教わるところが多い。
澤口教授の総説の要点を押さえながらの語り口が面白い。新潟で眼科医として初めてPACGに接し,後日PACGの頻度の高い沖縄に渡り,幾多の困難と研鑽と疫学調査の末に合理的で最高といえる診療レベルに至った経過が物語風にまとめられている。それはまたPACG学および眼科学の進歩の歴史でもあり,興味深い。本書はこの総説を入れて全体が5つの章からなり,疫学と基礎,診断,治療,白内障手術という具合に,基礎から始まり,最終的な診療に至るまで,順序よく解説されている。PACGに接することが少ない地域でも,ひとたび急性発作が起こったら予後がひどいことを知悉している眼科医にとって,ポイントとなるいくつかのリスクファクター,予防法,検査法,危険管理法,治療の要点,手術法の選択,術後管理等,平生わきまえていなければならないことが解説され,それぞれの項目について明快ながら,あたかも医局で高度の知識と豊かな経験を持つ先輩から,直接こと細かに教えを受けているような記述がなされている。例えば,レーザー虹彩切開術は通常2-3ページ解説されているだけであるが,本書ではほぼ10ページを費やして,適応,手技,成績,合併症と対策など,15の小項目に分けて解説されている。
以上でわかるように,本書はわが国には学識,経験ともに豊かに円熟したエキスパートたちがそろっていることの証しでもあり,それらによる円熟の記述であるところが特色でもある。また,通奏低音のごとくPACGに寄り添って病態と診療を複雑にしているプラトー虹彩の病態生理が必ずしも明らかではなく,究極的には水晶体再建術という選択になるようであるが,より合理的で簡潔な対策を望みたいところだ。なおPACGの分類については周知のごとく国際的なISGEO分類,AIGS分類に歩調を合わせる必要から,新分類が緑内障診療ガイドライン第3版から採用されている。これはデータの国際的整合性には不可欠であり,多分medicolegal(医療に関する法医学)的な要望も盛り込まれているためであろう。
要するに本書は現在望み得る最高のテキストであり,常時座右に置いて参考にしていただければ,本書の目的とするAll Aboutがオールマイティーになること請け合いである。
もし本書にさらに望むことがあるとすれば,脈絡膜の動態を含む急性発作発生機構のダイナミックな解明や遺伝子の問題,プラトー虹彩の病態生理,脳の視覚中枢障害の実態などであろうか。多くのエキスパートを抱えるわが国の閉塞隅角研究グループによる解明に期待したい。
B5・頁320 定価:本体15,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01959-0
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